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薬鳴

月が綺麗だ。


月夜の晩酌


今、二人は縁側に座っている。
眠っているキツネを撫でながら、晩酌をしていた。
こんな夜は話さなくてもいい。同じ気持ちであるのはわかっているから。
「鳴狐は嬉しい」
ぽつり、言った。
「あるじには感謝している」
「顕現して、粟田口の家族ができて」
「キツネとも一緒に居れて、刀として使われて」
「こうして薬研と居れるのも、全部あるじのおかげだから」
鳴狐は少しずつ、ぽつりぽつりと言った。
最近の鳴狐は、こうして喋る時が有る。
それも薬研の前でだけなのだが。
「そうだな、大将には感謝しないとだな」
ぐい、と一口煽ると、鳴狐は猪口に注いでくれた。
「鳴狐とこうしていられんのは、本当に有難い事だ」
アメシストとトパーズがかち合う。薬研が笑えば、鳴狐も笑った。
鳴狐は薬研の頬をなぞる。手袋をしていない右手は、少し温かかった。
初めて触れ合った時は、もうだいぶ昔だ。
あの時と何も変わらないその顔は、時の流れを感じられない。
修行に出ればまた顔つきも変わるだろう。実際、皆精悍な顔になる。
「いつ修行に行くんだ?」
「もうそろそろ」
「ちゃんと手紙書けよ」
「うん」
キツネが欠伸をした。鳴狐はキツネに手を落とす。
鳴狐は口を噤んだ。薬研も話すのをやめる。
面頬の下は何色なのだろう。想像力が乏しいので、その色は思いつかなかった。

まあ、いいか

そう思えるくらい、月が綺麗だった。

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