薬鳴
この頃、空気が優しくなった。
金木犀
非番の今日は、小さな花を付けた木の下で昼寝をしていた。
鳴狐はこの季節になると金木犀の下で読書をしている。
今日もそうしているのかと思い、畑の脇に有る木の下に来ていた。
涼しい風がおいでと誘う。薬研はその声に逆らえず、こうして幾日か振りの休息を取っていた。
「薬研」
キツネの声に目を開ける。鳴狐が見下ろしていた。
「悪い。特等席を盗っちまったな」
「構いませんよ」
鳴狐は隣に座る。ふわりと甘い花の香りがした。
「何読んでんだ?」
「長野まゆみ」
「おっ乙女だな」
ジトリと金の眼に睨まれる。失言だったか。
鳴狐は本に眼を落とす。薬研はキツネを抱きながらその姿を見ていた。
ふわりと金木犀が香る。強いその香りは鳴狐の体に染み付いていた。
金木犀の香りがする。
この季節の鳴狐を抱くと、その花の香りがした。
部屋の薬品臭を消す、甘い香り。
薬研は大きく吸い込み、自分の血生臭さを消した。
「良い香りだ」
「何が?」
「鳴狐が」
「そう」
この時期だけの香り。
直ぐに過ぎ去るその季節に、想いを馳せた。
金木犀
非番の今日は、小さな花を付けた木の下で昼寝をしていた。
鳴狐はこの季節になると金木犀の下で読書をしている。
今日もそうしているのかと思い、畑の脇に有る木の下に来ていた。
涼しい風がおいでと誘う。薬研はその声に逆らえず、こうして幾日か振りの休息を取っていた。
「薬研」
キツネの声に目を開ける。鳴狐が見下ろしていた。
「悪い。特等席を盗っちまったな」
「構いませんよ」
鳴狐は隣に座る。ふわりと甘い花の香りがした。
「何読んでんだ?」
「長野まゆみ」
「おっ乙女だな」
ジトリと金の眼に睨まれる。失言だったか。
鳴狐は本に眼を落とす。薬研はキツネを抱きながらその姿を見ていた。
ふわりと金木犀が香る。強いその香りは鳴狐の体に染み付いていた。
金木犀の香りがする。
この季節の鳴狐を抱くと、その花の香りがした。
部屋の薬品臭を消す、甘い香り。
薬研は大きく吸い込み、自分の血生臭さを消した。
「良い香りだ」
「何が?」
「鳴狐が」
「そう」
この時期だけの香り。
直ぐに過ぎ去るその季節に、想いを馳せた。