薬鳴
「鳴狐」
出陣帰りの薬研は鳴狐を呼んだ。
言葉を交わさずともその爛々とした目を見ればわかる。
「鳴狐?」
お供を五虎退に渡し、薬研と共に部屋を出た。
秘密
小虎達にじゃれつかれながら、お供は二人の後ろ姿を見送る。
「いつも思うのですが、鳴狐は薬研と何をしているのでしょう?」
「お、お供さん!それは聞いちゃだめです…!」
「?何故です?」
「そ、それより毛並みを直してあげます!大人しくしててもらえますか?」
顔を真っ赤にさせた五虎退を見て、お供の疑問は深まるばかりだったが、優しい櫛通りに一先ずは考えを置いた。
一時間後、毛並みを綺麗にされたお供は近侍室で寝転がる鳴狐と薬研を見つけた。
中に入ると、すぐに薬研がこちらを見る。鳴狐は寝息を立てていた。
「よぉお供。鳴狐借りてたぜ」
お供は薬研の顔の前に座る。
「薬研、鳴狐を呼び出して何をしていたんです?」
さっき疑問に思っていた事を口に出した。薬研は目を丸くしたが、笑って誤魔化そうとする。
「たまにわたくしを置いて行ってしまうでしょう?一体何を?」
「あー…想像つかないか?」
「ただの獣にはさっぱり」
「イケナイこと」
「イケナイ…?」
「要するにセックスだよ」
さらっと、至ってさらっと言うものだから、お供も一瞬理解できなかった。
「せっ!!!!!!せっくす!!!!!!???」
抗体の無いお供はすっとんきょうな大声を出す。
「声でかいぞ」
お供は口を隠したが、遅かった。鳴狐が目を見開いてこっちを見ている。
ヤバい。
鳴狐は珍しく口を開いた。
「…薬研、何言ったの」
お供の大声で目が覚めた鳴狐は、静かに問うた。
お供の口からそんな言葉が出るなんて、誰かに何かを吹き込まれたに決まってる。
そしてお供の目の前には薬研が居た。
「…な、何って」
薬研もお供も目を丸くしていた。沸々と、沸き上がる感情。
「お供が俺達の関係が知りたいみたいだったから」
「…だから、セックスの事言ったの」
薬研なら解っていると思っていた。
お供に知られたくなかったから、いつも離していたこと。知られたら恥ずかしいから、お供の前では我慢してたこと。
薬研は何も考えてなかったんだ。
沸々と、沸き上がる、怒り。
「馬鹿。何で言うの」
感情で口が動く。
「薬研もお供も考えてよ」
鳴狐、と伸ばす手を力いっぱい払い、鳴狐は立ち上がる。
悪かった、の声も聞かず、近侍室を出ていった。
大広間を通り過ぎ、なるべく遠い所へ。
馬小屋の中で座り込む。
薬研はデリカシーが無さすぎる。お供は首突っ込みたがりの癖に思考が浅い。
何で解らないんだ。恥ずかしいんだぞ普通に。
女々しいとも思ったが、別にそれくらいとも思ったが、お供は別だ。
いつも一緒だから、知られたくなかった。
自分が薬研の下で恥ずかしい姿を曝す事を。
聞くなら自分に聞けばいい。まあ、教えないけど。
なんで、薬研に。
そんな事を悶々と考えていると、気配を感じた。
「な、鳴狐」
ばつの悪そうな顔のお供を見て、少し冷静になれた。
「ごめんなさい、そんな気にする事とは」
何も言えなかった。
自分が怒って言ってしまった事は、取り消せない。
これだから言葉は厄介だ。
「驚きましたが、鳴狐と薬研は恋仲ですものね。それくらい当たり前ですよね」
恥ずかしくて顔に血が昇るのが分かる。面頬で隠せているだろうか。
「見たいなどとは言いません。これからもわたくしは席を外しましょう。…だから、赦してください」
お供の耳が垂れている。鳴狐はお供を抱き抱えた。
言葉にしなくてもお供は解った様で、安心した顔になる。
「鳴狐!!鳴狐!!」
薬研の呼ぶ声が聞こえる。馬小屋から顔を出すと、薬研は息を切らしていた。
「わ、悪かったって!!」
必死そうな顔をじとりと睨むと、薬研は本当に困った顔をした。
鳴狐は何故か吹き出す。
それを見て薬研は地面を向いた。
「本当…アンタそんな喋れるんか…」
鳴狐は薬研の頭をこずく。
いてえ、と薬研も笑った。
秘密を持つのは美しいが、それを解くのも美しい。
お供にしていた最大の秘密が無くなり、より一層仲良くなれる気がした。
出陣帰りの薬研は鳴狐を呼んだ。
言葉を交わさずともその爛々とした目を見ればわかる。
「鳴狐?」
お供を五虎退に渡し、薬研と共に部屋を出た。
秘密
小虎達にじゃれつかれながら、お供は二人の後ろ姿を見送る。
「いつも思うのですが、鳴狐は薬研と何をしているのでしょう?」
「お、お供さん!それは聞いちゃだめです…!」
「?何故です?」
「そ、それより毛並みを直してあげます!大人しくしててもらえますか?」
顔を真っ赤にさせた五虎退を見て、お供の疑問は深まるばかりだったが、優しい櫛通りに一先ずは考えを置いた。
一時間後、毛並みを綺麗にされたお供は近侍室で寝転がる鳴狐と薬研を見つけた。
中に入ると、すぐに薬研がこちらを見る。鳴狐は寝息を立てていた。
「よぉお供。鳴狐借りてたぜ」
お供は薬研の顔の前に座る。
「薬研、鳴狐を呼び出して何をしていたんです?」
さっき疑問に思っていた事を口に出した。薬研は目を丸くしたが、笑って誤魔化そうとする。
「たまにわたくしを置いて行ってしまうでしょう?一体何を?」
「あー…想像つかないか?」
「ただの獣にはさっぱり」
「イケナイこと」
「イケナイ…?」
「要するにセックスだよ」
さらっと、至ってさらっと言うものだから、お供も一瞬理解できなかった。
「せっ!!!!!!せっくす!!!!!!???」
抗体の無いお供はすっとんきょうな大声を出す。
「声でかいぞ」
お供は口を隠したが、遅かった。鳴狐が目を見開いてこっちを見ている。
ヤバい。
鳴狐は珍しく口を開いた。
「…薬研、何言ったの」
お供の大声で目が覚めた鳴狐は、静かに問うた。
お供の口からそんな言葉が出るなんて、誰かに何かを吹き込まれたに決まってる。
そしてお供の目の前には薬研が居た。
「…な、何って」
薬研もお供も目を丸くしていた。沸々と、沸き上がる感情。
「お供が俺達の関係が知りたいみたいだったから」
「…だから、セックスの事言ったの」
薬研なら解っていると思っていた。
お供に知られたくなかったから、いつも離していたこと。知られたら恥ずかしいから、お供の前では我慢してたこと。
薬研は何も考えてなかったんだ。
沸々と、沸き上がる、怒り。
「馬鹿。何で言うの」
感情で口が動く。
「薬研もお供も考えてよ」
鳴狐、と伸ばす手を力いっぱい払い、鳴狐は立ち上がる。
悪かった、の声も聞かず、近侍室を出ていった。
大広間を通り過ぎ、なるべく遠い所へ。
馬小屋の中で座り込む。
薬研はデリカシーが無さすぎる。お供は首突っ込みたがりの癖に思考が浅い。
何で解らないんだ。恥ずかしいんだぞ普通に。
女々しいとも思ったが、別にそれくらいとも思ったが、お供は別だ。
いつも一緒だから、知られたくなかった。
自分が薬研の下で恥ずかしい姿を曝す事を。
聞くなら自分に聞けばいい。まあ、教えないけど。
なんで、薬研に。
そんな事を悶々と考えていると、気配を感じた。
「な、鳴狐」
ばつの悪そうな顔のお供を見て、少し冷静になれた。
「ごめんなさい、そんな気にする事とは」
何も言えなかった。
自分が怒って言ってしまった事は、取り消せない。
これだから言葉は厄介だ。
「驚きましたが、鳴狐と薬研は恋仲ですものね。それくらい当たり前ですよね」
恥ずかしくて顔に血が昇るのが分かる。面頬で隠せているだろうか。
「見たいなどとは言いません。これからもわたくしは席を外しましょう。…だから、赦してください」
お供の耳が垂れている。鳴狐はお供を抱き抱えた。
言葉にしなくてもお供は解った様で、安心した顔になる。
「鳴狐!!鳴狐!!」
薬研の呼ぶ声が聞こえる。馬小屋から顔を出すと、薬研は息を切らしていた。
「わ、悪かったって!!」
必死そうな顔をじとりと睨むと、薬研は本当に困った顔をした。
鳴狐は何故か吹き出す。
それを見て薬研は地面を向いた。
「本当…アンタそんな喋れるんか…」
鳴狐は薬研の頭をこずく。
いてえ、と薬研も笑った。
秘密を持つのは美しいが、それを解くのも美しい。
お供にしていた最大の秘密が無くなり、より一層仲良くなれる気がした。