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薬鳴

夏の晴れた夜。
薬研は鈴虫の鳴き声に誘われる様に中庭に出ていた。
池の鯉は眠っているのか、ゆっくりと泳ぐ。
ぼうぼうに伸びた雑草の中に、銀髪の兄弟を見つけた。
兄弟と言っても、頼れる兄や可愛い弟達とは違い、いつもひっそりと目立たない位置に居る。
マスクの所為で、近寄りがたい印象を周りに与えてしまっていた。
ぼぅ、っとしているその姿に、お供の狐を見ない。
珍しいその光景に、興味からか薬研は隣に立った。
鳴狐は驚いた目で薬研を見る。身長は鳴狐の方が高かった。
鳴狐は右手を狐の形にして、手首を傾ける。
薬研も真似をして、右手を狐の形にして笑った。
鳴狐は右手の先を薬研の狐の先につん、と合わせる。
接吻を思わせるその仕草に、薬研は照れやら恥ずかしさで声を立てて笑った。



一瞬、何が起こったのか分からなかった。
瞬きの合間に、鳴狐のマスクから覗く唇が薬研の唇に合わさる。
音も無く起こった出来事に、薬研の頭がパニックを起こしていた。
鳴狐は微笑んでいた。薬研は悔しいやら恥ずかしいやらで赤面する。
仕返しにと接吻を返す。今度は顔を掴み、舌を入れた。

鈴虫が鳴いている。
お供の狐が現れて、絶叫するまであと一分。

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