式神を飛ばしてからしばらくたった頃。

アヤカちゃんは甲板でずっと空を見つめていた。


『母さん…。』



ｻ｢アヤカちゃん。｣



『サンジ君…。』



ｻ｢大丈夫かい？」



『うん…。』



母さんにもしものことがあったら私は家の仕来たりに従って当主を継がなければならない……。

当主を継げばもうみんなと同じ海賊という立場にはいられない……。

もうみんなと旅をすることができなくなる……。



ｻ｢……ちゃん？アヤカちゃん。｣



『あ…ごめん。ぼーっとしてた…。』



ｻ｢ほんとに大丈夫？｣



『うん、大丈夫だから心配しないで。』



今さら何考えてんだろ…。
私は退魔師として当主を継ぐために修行をしてきたのに海賊でいたいなんて…。

私には私のやるべきことがあるのに。









その日の夜。

仕込みを終えてキッチンを出ると甲板にはまだアヤカちゃんの姿があった。



ｻ｢寝れねぇのか？｣



『ううん。もう少し起きていたいだけ。』


そう言いながら真っ暗な夜空を見つめるアヤカちゃん。


その瞳はどこか寂しげだった……。




翌朝。

朝早く
仕込みのためにキッチンへ向かうと甲板にはアヤカちゃんの姿があった。


ｻ｢一晩中起きてたのかい？｣


『うん。式神がちゃんと帰ってこれるか心配で…。』



ｻ｢そうか。腹減ったろ？すぐ飯にするからな。｣



『ありがと♪』



しばらくして他のクルー達も起きてきて騒がしい食事が始まった。



するとアヤカが突然立ち上がった。



ﾅ｢アヤカ？｣



『帰ってきた！』



ﾁｮ｢わかるのか？｣



『うん！』



アヤカは慌ただしくキッチンを出ていった。


他のクルーもアヤカに続いて甲板へ出た。



しばらくすると遠くから鳩が飛んでくるのが見えた。


アヤカちゃんが飛んできた鳩を腕に止まらせると鳩はふわりと消えた。



ﾁｮ｢消えたゾ！？」



『………。』



ﾅ｢アヤカ？｣



ｻ｢アヤカちゃん？｣



『……っ…。』



ｻ｢おっと！」


不意にアヤカちゃんの体が傾き、サンジがとっさに支えた。



ｻ｢大丈夫か？｣



『…母さん…無事だって。命に別状なかったみたい…。安心したら体の力が抜けちゃった。』


そう言ってアヤカちゃんは俺に微笑んだ。



ｻ｢よかった。｣



ﾅ｢少し休みなさい。｣



『うん、ありがと。みんなも心配かけてごめんね。もう大丈夫だから。』



ﾁｮ｢よかったな。｣



ｻ｢さ、行くか。｣



『うん。』


サンジはアヤカを抱えて女部屋へ向かった。