このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

鋼の錬金術師(短編)

拍手に掲載していた小説です。


「絶対、渡れる」
「いーや、無理だね」

サバイバル装備のロイとヒューズが、崖っぷちで睨み合う。

今二人は士官学校、最高学年三年生。
学校で技術と知識を学んだ生徒は、学期末試験として二人一組で荒れ地にほうり出され、自力で学校まで戻ってこなくてはならない。

二人はいままさに試験の最中。
太陽で位置をはかり、獣を狩りながら山道を進んでいた。

立ち塞がったのは、崖。

小さな沢を挟んだ向こう側にいかなければならないのだが、飛び移れるぎりぎりぐらいの幅がひらいている。

谷底までは、目も眩む高さというほどではないが、5メートルほどの落差で、ごつごつした岩肌は所々苔むし、落ちれば危険だ。

ロイは「飛び移れる」と主張し、ヒューズは「無理だ」と言う。

結局意見は割れて、崖っぷちで言い合いになっていた。

「軍人たるもの、これしきの障害で任務を諦めるわけにはいかないだろう!
迂回できる道が見当たらない以上、飛び移るしかない!」

「何いってんだよ。
それでいうならいつ何時も冷静さを失わず、最良の策をこうじるのが軍人だろーが!
ロープを木の枝にひっかけて、慎重にだなぁ!」

しかしロイは譲らない。

「私だって冷静さは欠いていない!
木の枝というが、見ろ!
あちらの木は細い。
ロープを渡しても体重は支えられないだろう。」

「しかし、ここから落ちたら骨折ぐらいするぜ?
動けなくなれば、それこそ一大事だ!
点数的にもな。」

二人とも平行線だ。
埒があかないと判断したロイが一歩前に出た。

「何にしても、このままでは進めない。
私があちらに飛び移ってロープを張る。
ヒューズはここで待っていろ。
私が失敗して怪我しても、ヒューズがいれば応急処置はしてもらえるだろ?」

ロイはロープを手に巻き付けると、助走をつけるために少し下がる。

ヒューズが心配そうに見守る中、ロイは助走をつけ、崖の淵で踏み切る!

だが、踏み切った瞬間、崖の岩はロイの体重を支えきれず、音をたてて崩れた!

「っ!?」

ロイがバランスを崩す。

「ロイ!!」

咄嗟にヒューズがロイの腕を掴んだが、二人の体は重力に掴まれてそのまま落下を始めた。

「こなくそっ!」

ヒューズはヤケ気味に叫びながら、腕を伸ばす。

岩が少しだけ飛び出たところに、運よく指がかかった。

一瞬にして、引っ掛けたヒューズの指に二人分と装備のすべての重さがかかる。

「うぎっ!」

ついつい、歯を食いしばった間から悲鳴が漏れる。

「ヒューズ!」

ヒューズに腕を掴まれたロイは、すべての体重をヒューズに預けていた。
指が滑れば、二人とも谷底に落ちてしまう。

「ぐぎぎぎぎっ」

「私を落とせヒューズ!
そうすればおまえだけなら登れる!」

「バーロイ!
落としたんじゃなんのために掴んだのかわかんねーじゃねーかっ!

俺たちゃタッグだろが。
死ぬときゃ一緒だ!」

ヒューズが叫んだ瞬間、岩に引っ掛かっていたヒューズの指が滑った!

『あっ』

指を伸ばしても、再び引っ掛かってくれることはなく…。

『だぁぁああぁああっ!』
今度こそ、二人は揃って谷底まで転げ落ちた。



「!」

どすんっ!と背中を打ち付けた二人は、案外衝撃がなかった事に驚いた。

倒れた下を触ってみると、落ち葉がふかふかに積もっていて、クッションになったようだった。

呆然と座りこんでいた二人は、お互い顔を見合わせると、安心したのか吹き出して笑い出してしまった。

「はー…、しかし、死ぬ時は一緒、か。
なかなか言ってくれるな。」

「うっせーな。
死ななかったんだからいーだろべつに!」

照れたヒューズはそっぽ向いてしまった。

「とにかくいこーぜ。
あー時間くった!」

落ち葉を払いながらヒューズは立ち上がり、ロイに手を差し延べた。

「ああ、そうだな」

ロイも差し延べられた手をとり、立ち上がる。


懐かしい青春の1ページの出来事であった。


End
9/27ページ
スキ