鋼の錬金術師(短編)
拍手に掲載していた小説です。
「絶対、渡れる」
「いーや、無理だね」
サバイバル装備のロイとヒューズが、崖っぷちで睨み合う。
今二人は士官学校、最高学年三年生。
学校で技術と知識を学んだ生徒は、学期末試験として二人一組で荒れ地にほうり出され、自力で学校まで戻ってこなくてはならない。
二人はいままさに試験の最中。
太陽で位置をはかり、獣を狩りながら山道を進んでいた。
立ち塞がったのは、崖。
小さな沢を挟んだ向こう側にいかなければならないのだが、飛び移れるぎりぎりぐらいの幅がひらいている。
谷底までは、目も眩む高さというほどではないが、5メートルほどの落差で、ごつごつした岩肌は所々苔むし、落ちれば危険だ。
ロイは「飛び移れる」と主張し、ヒューズは「無理だ」と言う。
結局意見は割れて、崖っぷちで言い合いになっていた。
「軍人たるもの、これしきの障害で任務を諦めるわけにはいかないだろう!
迂回できる道が見当たらない以上、飛び移るしかない!」
「何いってんだよ。
それでいうならいつ何時も冷静さを失わず、最良の策をこうじるのが軍人だろーが!
ロープを木の枝にひっかけて、慎重にだなぁ!」
しかしロイは譲らない。
「私だって冷静さは欠いていない!
木の枝というが、見ろ!
あちらの木は細い。
ロープを渡しても体重は支えられないだろう。」
「しかし、ここから落ちたら骨折ぐらいするぜ?
動けなくなれば、それこそ一大事だ!
点数的にもな。」
二人とも平行線だ。
埒があかないと判断したロイが一歩前に出た。
「何にしても、このままでは進めない。
私があちらに飛び移ってロープを張る。
ヒューズはここで待っていろ。
私が失敗して怪我しても、ヒューズがいれば応急処置はしてもらえるだろ?」
ロイはロープを手に巻き付けると、助走をつけるために少し下がる。
ヒューズが心配そうに見守る中、ロイは助走をつけ、崖の淵で踏み切る!
だが、踏み切った瞬間、崖の岩はロイの体重を支えきれず、音をたてて崩れた!
「っ!?」
ロイがバランスを崩す。
「ロイ!!」
咄嗟にヒューズがロイの腕を掴んだが、二人の体は重力に掴まれてそのまま落下を始めた。
「こなくそっ!」
ヒューズはヤケ気味に叫びながら、腕を伸ばす。
岩が少しだけ飛び出たところに、運よく指がかかった。
一瞬にして、引っ掛けたヒューズの指に二人分と装備のすべての重さがかかる。
「うぎっ!」
ついつい、歯を食いしばった間から悲鳴が漏れる。
「ヒューズ!」
ヒューズに腕を掴まれたロイは、すべての体重をヒューズに預けていた。
指が滑れば、二人とも谷底に落ちてしまう。
「ぐぎぎぎぎっ」
「私を落とせヒューズ!
そうすればおまえだけなら登れる!」
「バーロイ!
落としたんじゃなんのために掴んだのかわかんねーじゃねーかっ!
俺たちゃタッグだろが。
死ぬときゃ一緒だ!」
ヒューズが叫んだ瞬間、岩に引っ掛かっていたヒューズの指が滑った!
『あっ』
指を伸ばしても、再び引っ掛かってくれることはなく…。
『だぁぁああぁああっ!』
今度こそ、二人は揃って谷底まで転げ落ちた。
「!」
どすんっ!と背中を打ち付けた二人は、案外衝撃がなかった事に驚いた。
倒れた下を触ってみると、落ち葉がふかふかに積もっていて、クッションになったようだった。
呆然と座りこんでいた二人は、お互い顔を見合わせると、安心したのか吹き出して笑い出してしまった。
「はー…、しかし、死ぬ時は一緒、か。
なかなか言ってくれるな。」
「うっせーな。
死ななかったんだからいーだろべつに!」
照れたヒューズはそっぽ向いてしまった。
「とにかくいこーぜ。
あー時間くった!」
落ち葉を払いながらヒューズは立ち上がり、ロイに手を差し延べた。
「ああ、そうだな」
ロイも差し延べられた手をとり、立ち上がる。
懐かしい青春の1ページの出来事であった。
End
「絶対、渡れる」
「いーや、無理だね」
サバイバル装備のロイとヒューズが、崖っぷちで睨み合う。
今二人は士官学校、最高学年三年生。
学校で技術と知識を学んだ生徒は、学期末試験として二人一組で荒れ地にほうり出され、自力で学校まで戻ってこなくてはならない。
二人はいままさに試験の最中。
太陽で位置をはかり、獣を狩りながら山道を進んでいた。
立ち塞がったのは、崖。
小さな沢を挟んだ向こう側にいかなければならないのだが、飛び移れるぎりぎりぐらいの幅がひらいている。
谷底までは、目も眩む高さというほどではないが、5メートルほどの落差で、ごつごつした岩肌は所々苔むし、落ちれば危険だ。
ロイは「飛び移れる」と主張し、ヒューズは「無理だ」と言う。
結局意見は割れて、崖っぷちで言い合いになっていた。
「軍人たるもの、これしきの障害で任務を諦めるわけにはいかないだろう!
迂回できる道が見当たらない以上、飛び移るしかない!」
「何いってんだよ。
それでいうならいつ何時も冷静さを失わず、最良の策をこうじるのが軍人だろーが!
ロープを木の枝にひっかけて、慎重にだなぁ!」
しかしロイは譲らない。
「私だって冷静さは欠いていない!
木の枝というが、見ろ!
あちらの木は細い。
ロープを渡しても体重は支えられないだろう。」
「しかし、ここから落ちたら骨折ぐらいするぜ?
動けなくなれば、それこそ一大事だ!
点数的にもな。」
二人とも平行線だ。
埒があかないと判断したロイが一歩前に出た。
「何にしても、このままでは進めない。
私があちらに飛び移ってロープを張る。
ヒューズはここで待っていろ。
私が失敗して怪我しても、ヒューズがいれば応急処置はしてもらえるだろ?」
ロイはロープを手に巻き付けると、助走をつけるために少し下がる。
ヒューズが心配そうに見守る中、ロイは助走をつけ、崖の淵で踏み切る!
だが、踏み切った瞬間、崖の岩はロイの体重を支えきれず、音をたてて崩れた!
「っ!?」
ロイがバランスを崩す。
「ロイ!!」
咄嗟にヒューズがロイの腕を掴んだが、二人の体は重力に掴まれてそのまま落下を始めた。
「こなくそっ!」
ヒューズはヤケ気味に叫びながら、腕を伸ばす。
岩が少しだけ飛び出たところに、運よく指がかかった。
一瞬にして、引っ掛けたヒューズの指に二人分と装備のすべての重さがかかる。
「うぎっ!」
ついつい、歯を食いしばった間から悲鳴が漏れる。
「ヒューズ!」
ヒューズに腕を掴まれたロイは、すべての体重をヒューズに預けていた。
指が滑れば、二人とも谷底に落ちてしまう。
「ぐぎぎぎぎっ」
「私を落とせヒューズ!
そうすればおまえだけなら登れる!」
「バーロイ!
落としたんじゃなんのために掴んだのかわかんねーじゃねーかっ!
俺たちゃタッグだろが。
死ぬときゃ一緒だ!」
ヒューズが叫んだ瞬間、岩に引っ掛かっていたヒューズの指が滑った!
『あっ』
指を伸ばしても、再び引っ掛かってくれることはなく…。
『だぁぁああぁああっ!』
今度こそ、二人は揃って谷底まで転げ落ちた。
「!」
どすんっ!と背中を打ち付けた二人は、案外衝撃がなかった事に驚いた。
倒れた下を触ってみると、落ち葉がふかふかに積もっていて、クッションになったようだった。
呆然と座りこんでいた二人は、お互い顔を見合わせると、安心したのか吹き出して笑い出してしまった。
「はー…、しかし、死ぬ時は一緒、か。
なかなか言ってくれるな。」
「うっせーな。
死ななかったんだからいーだろべつに!」
照れたヒューズはそっぽ向いてしまった。
「とにかくいこーぜ。
あー時間くった!」
落ち葉を払いながらヒューズは立ち上がり、ロイに手を差し延べた。
「ああ、そうだな」
ロイも差し延べられた手をとり、立ち上がる。
懐かしい青春の1ページの出来事であった。
End