鋼の錬金術師(短編)
「ほれほれ、どうした大将!
脇が甘いぞー」
「ちくしょー、負けるか!」
わずかなエドの隙をついて放たれたハボックの拳を、エドは後ろに飛び退いてすれすれで避けた。
東方司令部の練兵場の真ん中で、ハボックとエドが、ハボックの隊のメンバーが囲んだ円の中で、組み手をしている。
エドはコートと上着を脱ぎ、ハボックは軍服のズボンとインナー姿だ。
「大将―、負けるなー」
「隊長、ファイト―」
「エド―、負けるなー、おまえさんに昼飯のおかず賭けちまったんだからなー」
「隊長、彼女できましたかー?」
などと周りから声援(?)を受けながら、二人は一進一退の攻防戦を繰り広げていた。
「大将、俺の今日の一杯を守ってくれ!」
「隊長、からあげが、かかってるんです!」
「ほう?
軍内での賭け事は禁止されているはずだがな?」
輪の外側からの冷えた声に、群衆の背中が、びくりと震えた。
そこには、東方司令部司令官の、ロイ・マスタング大佐が、あきれた顔で立っていた。
「た、大佐っ」
下っ端たちはすぐさま、中で組み手をする二人が見えるように左右に分かれた。
大佐は、できた道をまっすぐ進み、組み手をしている二人に近づいた。
「ハボック、豆、いい加減にやめろ。
いい見世物になっているではないか。」
「だっれが豆じゃあ!」
エドがロイの言葉に気をとられた隙に、ハボックがエドの腕をつかんで地面に組み伏せた。
「あだだだだだだっ」
「勝負ありだな。大将」
エドの腕を背中にねじり上げ、ハボックはにかっと笑った。
「ちくしょ、わかったよ。
あーもう、大佐が邪魔するから、負けちまったじゃねえか!」
ハボックに放してもらい立ち上がったエドは、服をはたきながらロイをにらんだ。
「はっはっは。
戦場ではどんなことがあろうと隙を見せてはいかんぞ、鋼の。
気をそらして負けたのなら、君の責任だ。
ああそれと、この二人についての賭は、私が声を掛けた時点で二人の実力の勝負ではない。
賭は引き分けとし、この場は不問とする。
しかし、今後の賭け事については処罰するので、覚悟するように。」
顔を青くした群衆が、そそくさと自分たちの訓練に戻っていった。
「まったく。
困ったものだな。」
「いやー、勝っても負ても早めに切り上げて、事務室に戻るつもりだったんですけど、
大将がなかなか強くて楽しくなっちゃいまして。
いや、申し訳ないっす。」
ハボックが頭をかきつつロイに謝った。
「ほう、ハボックに強いといわれるとは。
なかなか鋼のも達者なのだな。」
エドはにやっと笑ってロイを見た。
「そりゃあ、鍛えてるからね。
そういえば、大佐って強いの?」
エドにいわれ、ロイは顎に手を当てて考えた。
「そうだな、さすがに体術ではハボックにはかなわないだろうが、訓練はかかしておらん。
射撃は、さすがに中尉の正確さにはかなわないだろうな。」
「えー、じゃあ体術はハボック少尉より弱くて、射撃は中尉にかなわないんじゃ、
大佐って結構弱いんじゃないの?」
「ほほう?
セントラルの一件を忘れたようだな鋼の。
では君は弱い私よりも弱いことになるが?」
「むっ」
「私は実力を正確に分析しているだけだ。」
けんか腰になるエドをいさめるように、ハボックが間にはいった。
「大将、たしかに正確さでは大佐は中尉にかなわないかもしんねえけど、
早撃ちじゃあ東方司令部一なんだぜ。」
「え?早撃ちってなに?
銃ってあたるかどうかだけじゃないの?」
きょとんとしたエドにハボックが説明した。
「そりゃあ当たるかどうかも大事だけど、
狙い定めるのに時間がかかりすぎてちゃ、あいてに撃たれちまうだろ?
懐に入れた銃を取り出して、目標を撃つまでの早さを競うのが早撃ちさ。
的の前に後ろ向きに立って、合図されたら、銃を取り出して振り向いて撃つっていう競技。」
「へえ、そんなのがあるんだ。」
感心しているエドに、柄ではないとロイは笑う。
「さて、そろそろハボックも仕事に戻れ。
鋼のも、報告書をもって来たんだろう?」
「へい、了解っす」
「ねえ、大佐。
俺と組み手しない?」
ハボックは立ち去ろうとしたが、エドは大佐に言った。
言われたロイはにやりとして、エドに向き直る。
「ほほう、弱いといわれたのがしゃくにさわったかね。
べつにかまわんがな。自主休憩中だし。」
「サボりじゃないかよ!」
エドは、突っ込みをいれながらロイに飛びかかった。
エドの拳を受け流し、ロイはエドの足を軽く払う。
「ひょい!?」
エドの足が空を蹴り、体が前に倒れかかる。
ロイはエドの腹を軽く持ち上げ、勢いのまま投げる。
頭を打たないように支えられながら、エドは背中から地面にたたきつけられた。
なにが起きたのかよく理解できなかったエドをのぞき込み、ロイは笑った。
「勝負あり、だな。
鋼の?」
一瞬で勝負に負けたのが悔しくて。
エドは、のぞき込んだロイに渾身の頭突きを食らわせたのだった。
END
さて、ここで問題、三人で誰が一番強いでしょーか。
答え、そんなの状況によって、コロコロ変わります
脇が甘いぞー」
「ちくしょー、負けるか!」
わずかなエドの隙をついて放たれたハボックの拳を、エドは後ろに飛び退いてすれすれで避けた。
東方司令部の練兵場の真ん中で、ハボックとエドが、ハボックの隊のメンバーが囲んだ円の中で、組み手をしている。
エドはコートと上着を脱ぎ、ハボックは軍服のズボンとインナー姿だ。
「大将―、負けるなー」
「隊長、ファイト―」
「エド―、負けるなー、おまえさんに昼飯のおかず賭けちまったんだからなー」
「隊長、彼女できましたかー?」
などと周りから声援(?)を受けながら、二人は一進一退の攻防戦を繰り広げていた。
「大将、俺の今日の一杯を守ってくれ!」
「隊長、からあげが、かかってるんです!」
「ほう?
軍内での賭け事は禁止されているはずだがな?」
輪の外側からの冷えた声に、群衆の背中が、びくりと震えた。
そこには、東方司令部司令官の、ロイ・マスタング大佐が、あきれた顔で立っていた。
「た、大佐っ」
下っ端たちはすぐさま、中で組み手をする二人が見えるように左右に分かれた。
大佐は、できた道をまっすぐ進み、組み手をしている二人に近づいた。
「ハボック、豆、いい加減にやめろ。
いい見世物になっているではないか。」
「だっれが豆じゃあ!」
エドがロイの言葉に気をとられた隙に、ハボックがエドの腕をつかんで地面に組み伏せた。
「あだだだだだだっ」
「勝負ありだな。大将」
エドの腕を背中にねじり上げ、ハボックはにかっと笑った。
「ちくしょ、わかったよ。
あーもう、大佐が邪魔するから、負けちまったじゃねえか!」
ハボックに放してもらい立ち上がったエドは、服をはたきながらロイをにらんだ。
「はっはっは。
戦場ではどんなことがあろうと隙を見せてはいかんぞ、鋼の。
気をそらして負けたのなら、君の責任だ。
ああそれと、この二人についての賭は、私が声を掛けた時点で二人の実力の勝負ではない。
賭は引き分けとし、この場は不問とする。
しかし、今後の賭け事については処罰するので、覚悟するように。」
顔を青くした群衆が、そそくさと自分たちの訓練に戻っていった。
「まったく。
困ったものだな。」
「いやー、勝っても負ても早めに切り上げて、事務室に戻るつもりだったんですけど、
大将がなかなか強くて楽しくなっちゃいまして。
いや、申し訳ないっす。」
ハボックが頭をかきつつロイに謝った。
「ほう、ハボックに強いといわれるとは。
なかなか鋼のも達者なのだな。」
エドはにやっと笑ってロイを見た。
「そりゃあ、鍛えてるからね。
そういえば、大佐って強いの?」
エドにいわれ、ロイは顎に手を当てて考えた。
「そうだな、さすがに体術ではハボックにはかなわないだろうが、訓練はかかしておらん。
射撃は、さすがに中尉の正確さにはかなわないだろうな。」
「えー、じゃあ体術はハボック少尉より弱くて、射撃は中尉にかなわないんじゃ、
大佐って結構弱いんじゃないの?」
「ほほう?
セントラルの一件を忘れたようだな鋼の。
では君は弱い私よりも弱いことになるが?」
「むっ」
「私は実力を正確に分析しているだけだ。」
けんか腰になるエドをいさめるように、ハボックが間にはいった。
「大将、たしかに正確さでは大佐は中尉にかなわないかもしんねえけど、
早撃ちじゃあ東方司令部一なんだぜ。」
「え?早撃ちってなに?
銃ってあたるかどうかだけじゃないの?」
きょとんとしたエドにハボックが説明した。
「そりゃあ当たるかどうかも大事だけど、
狙い定めるのに時間がかかりすぎてちゃ、あいてに撃たれちまうだろ?
懐に入れた銃を取り出して、目標を撃つまでの早さを競うのが早撃ちさ。
的の前に後ろ向きに立って、合図されたら、銃を取り出して振り向いて撃つっていう競技。」
「へえ、そんなのがあるんだ。」
感心しているエドに、柄ではないとロイは笑う。
「さて、そろそろハボックも仕事に戻れ。
鋼のも、報告書をもって来たんだろう?」
「へい、了解っす」
「ねえ、大佐。
俺と組み手しない?」
ハボックは立ち去ろうとしたが、エドは大佐に言った。
言われたロイはにやりとして、エドに向き直る。
「ほほう、弱いといわれたのがしゃくにさわったかね。
べつにかまわんがな。自主休憩中だし。」
「サボりじゃないかよ!」
エドは、突っ込みをいれながらロイに飛びかかった。
エドの拳を受け流し、ロイはエドの足を軽く払う。
「ひょい!?」
エドの足が空を蹴り、体が前に倒れかかる。
ロイはエドの腹を軽く持ち上げ、勢いのまま投げる。
頭を打たないように支えられながら、エドは背中から地面にたたきつけられた。
なにが起きたのかよく理解できなかったエドをのぞき込み、ロイは笑った。
「勝負あり、だな。
鋼の?」
一瞬で勝負に負けたのが悔しくて。
エドは、のぞき込んだロイに渾身の頭突きを食らわせたのだった。
END
さて、ここで問題、三人で誰が一番強いでしょーか。
答え、そんなの状況によって、コロコロ変わります