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鋼の錬金術師(短編)


「焦げてんじゃん」

エドは皿の上に置かれたものを凝視した。
真っ黒に炭化したモノが皿の上にある。
目玉焼きになる予定だったものだ。

真っ黒炭化物、それがミュンヘンのアパートに住む親子の今日の朝ごはんのメニューであった。


「とゆーか、炭化しちゃってるし。
どこを食えと?」

フォークで真っ黒いものを突きながら、エドは目の前の男を睨む。
名をホーエンハイム。
エドの…血縁上の親の男の方である。

「いやぁ、ちょっと目を離した隙に炭化してしまってな…。
とりあえずもったいないから皿に移して出してみたんだが。」

はっはっはと笑いながら頭をかくホーエンハイム。
ちなみに彼の皿にも真っ黒なものが乗っかっている。

「てめー、わかってんの?
このごろ物価の上昇が著しいにも半端ねーってこと。

すっとこどっこいなお偉方がバンバン金刷るからよぉ」

「そうなんだよなー。

この前マルク紙幣を乳母車に山と詰めて買い物してるお母さんがいたっけな。

一億マルクとかふつーに値札に書いてあるのはこの国ぐらいだろう。」

「だーかーらー!
タマゴ二個もすんげー貴重なわけ!
わかってんのか!
多少焦げたぐらいなら食えるけど、こんな真っ黒どーすんだよ!」

エドはビシッと皿を指さして怒りもあらわにホーエンハイムを怒鳴る。

ホーエンハイムは一度自分の皿を見つめ、せつなそうな顔を上げた。

「……どうしよう。」

「ぁーもー!
くそ親父っ!」

ホーエンハイムはしょんぼりして言う。

「本当にすまない。
タマゴが古かったから、お前が腹壊したらまずいと思ってよく焼こうと思ったんだ。」

「…け、いらん気をつかいやがって。」

ちょっと照れたエドがそっぽ向いていう。
そしてがたっと立ち上がり、自分の皿とパンを掴んだ。

「エドワード?」

「こんなに真っ黒じゃどーしよーもねーから、かわりにサンドイッチでも作る。

ほら、あんたも皿とパンよこせ。」

エドはホーエンハイムから皿を奪い取り、目の前のキッチンで洗いものをしてからサンドイッチを作り始めた。

二人分のサンドイッチに何を挟むか考えているエドの後ろ姿をみて、ホーエンハイムはついつい笑みが零れる。

頬杖をつきながら、ホーエンハイムはエドの後ろ姿を見守る。

息子は失敗した私を許してくれた。
息子は私のために、サンドイッチを作ってくれている。

何気ない日常。
しかし 今までは夢見ても手に入れられなかった、憧れの日常。

こういった日常が、地上の楽園なのかもしれない。

「おー、できたぞ。
中身すかすかだけど我慢…」

いいながらエドが振り向くと、ホーエンハイムがさもうれしそーに、ニコニコしている。

「…っ!

何ニヤついてんだよ!
このバカ親父!」

エドの鉄拳がホーエンハイムに命中した。


二人の朝はいつもだいたいこんなもんである。


End
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