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鋼の錬金術師(短編)


東方司令部といえば、アメストリスの、イシュヴァールを含む東部の要(かなめ)である。

毎日、様々な事件が発生し、迅速に処理されていく。

司令官ともなれば、スケジュールは多忙を極め、分単位で予定が組まれる。

つまり、東方司令部司令官ロイ・マスタング大佐は、ひじょーに時間に追われていた。

時間的余裕まったくなし。
ちょっとでもサボ…いや、自主的に休憩をとろうとすると、おっかない補佐官が睨みと銃口を向けてくる。

非常に忙しかった。
泣きたいくらいに。

そんなロイの目の前に、今、一通の手紙がある。

それがロイを悩ませていた。

何故かというと、忙しい上に、妙なやっかい事が舞い込んできたからだ。

手紙の差し出し人は、鋼の錬金術師。

それだけで、やっかいなのは目に見えている。

ちなみに、手紙にはこう書かれていた。

『家出します。
探して下さい。』

…………
…まず、どこから突っ込めばいいのか。

消印は、東部内ではあるが、とんでもない僻地(へきち)のものであった。
鉄道は通っておらず、車でいくとなると丸まる一日かかる。

「……嫌がらせか。
完璧で、絶対な、嫌がらせなのか!?
私にどーしろというのだ!?
このクソ忙しい時に、なにをさせたいのだあの豆はっ!」

と、力いっぱい怒鳴り付けてやりたいところだが、もちろん本人はいない。

ロイは苦虫をかみつぶしたように、顔をしかめた。

探してくれと言ってきているのだから、救難信号の可能性がある。

司令部に届くまで二日かかるとして、救援を求めているのならば迅速に行動するべきだが、こちらの部隊を動かすにも、現場に近いと思われる部隊を動かすにも、結局は一日かかる。

遭難しているなら、助からない可能性も考えられるが、そもそも遭難しているなら手紙なんか届かないはずで…。

しかも、探してくれと言っているのに探さなかったとなれば、あの豆はなんと言うか。

ロイは腕を組んで一瞬だけ逡巡すると、書類を持ってきたハボックに話しかけた。

「ハボック。
お前の隊に任せていた事件、昨日犯人捕まえたよな?」

「へい。
今取り調べ中ですが。」

「そいつはブレダに任せろ。お前は、鋼の錬金術師の捜索にいけ。」

「……。
また大将なんかしたんですか?」

「それがよく解らんから、探してこいといってるんだ。」

「まったく大将も人騒がせなんだからー」

やれやれとつぶやいたハボックだが、行動は機敏だ。
任せてしまえば、見つけてくるのは時間の問題であろう。

ロイは、ハボックがエドを捕まえてきたらどうやって怒ってやろうか考えながら、また書類の山に目を落とした。


エドとアルは、昼時のオープンカフェにいた。

注文したメニューが運ばれてくると、エドはすかさず皿を引き寄せた。

「うぉ!このサンドイッチうめぇっ!」

「よかったね、兄さん!でも、口の脇についてるよ。」

「後で拭けばよし!」

エドは決して上品とは言えない食べ方で、皿をどんどんからっぽにしていく。

エドが皿を抱えてポテトサラダを攻略している時だった。

ギュキュキュキュっ!

ものすごい音をたてて、何台もの軍用車の群れが、オープンカフェを取り囲むようにして、派手に横滑りしながら止まった。

エドとアルが目を丸くしていると、目の前の車両のドアが、さっと開く。

降りてきたのはものすごい不機嫌そうなロイで、肩を怒らせて二人の前までずんずん歩いてくると、腕を振り上げて他の軍人達に命令した。

「確保ーっ!」

「えぇえぇぇえ!?」

エドとアルはその場で問答無用に取り押さえられ、速やかに東方司令部まで護送された。

そして二人には手錠がかけられ、取り調べ室にほうり込まれてしまった。

まだショックから抜け出せず、呆気にとられていると、まだ不機嫌そうなロイが取り調べ室に入ってきて、エドとアルの真向かいの椅子にどっかと座った。

「お、おい大佐!
これはどーゆーことだよ!」

「それはこちらの台詞だ!
大馬鹿ものめっ!」

ロイの気迫と声で、室内の空気が震えた。

ロイが本気で怒っていることに気付いたエドは、ギクッとして身を引きかけたが、気を取り直して、負けじとロイを見た。

「なんだとー?
誰が大馬鹿なんだよ!」

「君だよ、君!
何だねこの手紙は!」

そう言ってロイは例の手紙を懐から抜き出して、エドの前に突き出した。

「あ、俺が書いたやつ」

「その通り。
この忙しい時期によくもまぁ、こんな嫌がらせを考えたものだ!

探してくれと言うから、仕方なく投函されたと思われる辺りに人をやれば、まったく見つからないし、
君らしき人物が山に入ったと報告を受けて行ってみれば、もう下山してると言われるし、
必死に探してやれば、ちょろちょろと逃げおおせおって!

しかも見つけてみれば、イーストシティの真ん中で飯など食らっているしな!

しかも家出ってなんだっ!?
君達の家は自身で燃やしたと言っておったのは、どこのどいつだっ?

君はいったい何がしたかったんだ!
返せ私の一週間っ!」

「え?あー、なんか悪かったな大佐。」

「に、兄さん、ちゃんと謝っとこうよ!
大佐、本気で怒ってるよ、燃やされちゃうよ!
とゆーか、そんなわかりにくい手紙出してたの!?」

「あー、実は大佐が言った山っつーところでな、遭難者が多いから、家族に『入山したからしばらく連絡が無かったら探してくれ』っていう手紙を書いてださなきゃいけなかったんだ。

そんで書いた手紙だったんだけど、入山したところと下山したところが違ってたから、取り消し忘れちまったみたいだなー。」

「気・楽・に・いいおって~っ!
では、なんで家出なんだ!?」

「あれ、遠くに出かける事を家出って言わなかったっけ?」

「言わないっ!
言ったとしても、君達には当て嵌まらない!
小学校一年生から国語やり直してこいっ!」

ひとしきり怒られてから二人はやっと解放され、この人騒がせな事件は幕を閉じた。

「なんだよ、あんなに怒らなくてもいーじゃんなぁ」

隣でぼやく兄を見て、心配の裏返しなんだろうけどね、なんてわかってしまうアルは、兄よりも少し先に大人の階段をのぼった気がした。


End

拍手再録です。
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