鋼の錬金術師(短編)
アメストリスの東方司令部、その司令官執務室に、
でっかい木箱が届いた。
「なんだ?このでかい木箱は。」
「毒物や火薬の反応はないですが。」
「邪魔だからって、大佐宛ての荷物を勝手に片付けるわけにはいかねーしな。」
あいにく届いた時、当の大佐は会議中。
おかげで事務室にいたハボックやブレダは、どうしたものかと腕組みしていた。
ブレダが、一抱えほどの木箱の脇に、宅配便のタグを見つけた。
「あ、見ろよ。
差出人、鋼の大将だぜ。」
それを確認して、みんな意外そうな顔をした。
「へぇー、あの大将がねぇ。大佐になにを送り付けたのやら。
品物はナマモノって書いてあるぜ?」
「う、悪くなってないといいですね。」
そういいながら木箱を囲んでいたら、会議が終わったのかロイが部屋に入ってきた。
「そこで集まってどうした?」
「あ、大佐。
いや、鋼の大将から大佐宛てにでっかい荷物が届いてんですけど、ナマモノって書いてあるんですよ。」
「……。中身は大丈夫なのか?」
「未開封なんでなんとも。」
「とにかく開けてみよう。
ハボック、バールでこじ開けてみろ。」
言われたハボックが、工具を使って蓋を開けた。
するとそこにあったものは!
「コーヒー豆っすね」
「コーヒー豆:アカネ科の常緑樹、果実は楕円形で中に二個の種子が入っている。コーヒー豆はその種子。炒って粉にしたものを湯で煮出したものは嗜好飲料。」
「あーファルマン、説明ありがとう。
それよりも、何故、鋼のがこんな大人の嗜好品を送ってきたのかが問題だ。
しかも、これは大総統閣下にも献上されている、ハハマラの最高級品。
あれはコーヒーなんて飲めないだろうに。
見かけ通りの子供舌だからな。」
ははははと、大人達が笑っていると、いきなりドアが開いて、エドが怒鳴り込んできた。
「だぁぁぁあれが、ハンバーグしか食べられない幼稚園児かぁぁぁぁあ!!」
ロイはいきなり入ってきたエドにも冷静に対処する。
「おや、鋼のにアルフォンスくん。久しぶりだな。
相変わらず、落ち着きがないなぁ、君は。
成長したまえよ。」
「してる!毎日邁進中!」
「お帰りさん、大将。
今、お前さんが送ってきた荷物が届いたんで、話してたんだぜ」
「んー?あ、コーヒーな。
飲んでいいよ。」
「それよりも、なんで君は私にコーヒー豆を送ってくれたのかね?
あまり君らしいチョイスには見えないのだが。」
「いや、それには訳があってさ。」
「ハハマラってところに、赤い宝石って呼ばれているものがあるって噂を聞いて、賢者の石に関係してるんじゃないかと思って行ってみたんだ。」
「ほぉ、それで?
何か収穫はあったのか?」
「いや、それが、その赤い宝石って、幻って言われるくらいめずらしいコーヒーの最上級品のことだったんだ。」
「あぁ、なるほど。
コーヒーの実は完熟すると赤くなるからなぁ。」
「それで僕たち、諦めて帰ろうとしたら、コーヒー泥棒のグループと鉢合わせしてしまいまして…。」
「憂さ晴らしに取っ捕まえたら、なんかコーヒー農家がかなり手をやいてた奴ららしくてさ。
お礼にってコーヒー豆貰ったんだ。」
「でも、コーヒーミルもありませんし、兄さんも一箱なんて飲めないので、司令部に送らせていただいたんです。」
「大佐ならミルぐらい持ってんじゃねーかなーって。
ほら、いっつもうっすいコーヒーだって文句言ってたし。」
「なるほどな。
合点がいったよ。
そうとなれば、皆で馳走になろうではないか。」
『賛成ー!』
そういうことで、司令室はしばらく芳醇な香りにつつまれたそうな。
めでたしめでたし。
End
拍手再録です。