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鋼の錬金術師(短編)

雨の日の小話



滝のような雨が降っている日、珍しい客人が東方司令部にやってきた。

上から下までぐっしょり濡れて、疲れた様子で事務室のドアのところに立っていたのは鋼の錬金術師、エドワード・エルリックだった。



「ちーっす・・・。たぁいさぁ、報告書ぉ持ってきたぁ」



弱々しく挨拶をしたエドを見て、みんなは驚いたような顔をした。



「どうした鋼の、そんなにずぶ濡れで!」



東方司令部司令官のロイ・マスタングが、仕事の手を止めて話しかけた。



「ホテルから司令部に来る間に、いきなり雨が降り出してきて・・・。

あっという間にずぶ濡れになったぁ。」



肩を落とすエドに、リザがタオルを差し出し、かわりにエドから、たわんだ書類を受け取った。



「それは災難だったわね。」



「あ、ありがとう中尉。」



エドは渡されたタオルで顔を拭くと、タオルはすぐさま濡れてしまった。



「タオルでふくより、シャワーでもあびちまったほうがいいんじゃ無いか?

大将。

そのままじゃ、風邪ひいちまうぜ。」



たばこを吹かしながら、ハボックはエドに言った。

どうやら、ロイもそのほうがいいと判断したようだ。



「たしかにな、ハボック、鋼のをシャワーに案内してやれ。

ホークアイ中尉は鋼のに着替えを用意して、そのびしょ濡れの服を洗濯部に出してきてくれ。」



「了解しやした。

大将、ほれ、こっちだ。」



エドはハボックにつれられて、仮眠室などがならぶ区画のシャワー室に案内された。

脱衣所を隔てた先にあるシャワー室は、ひとつひとつのシャワーごとに間仕切りがされており、いまのところ誰もつかっていなかった。



「まー適当に使ってくれよ。

蛇口ひねってちょっとしないとお湯がでないから気をつけろよ。

そのうち中尉が着替え持ってきてくれるだろうから、今のうちに脱いじまえよ。」



「あ、あんがと」



エドは脱衣所のかごに濡れた服を入れると、先ほどリザに渡されたタオルを持ってシャワー室に入った。



シャワーを浴びて体を暖めていると、脱衣所の方でがさがさと音がした。



「エドワード君、着替えをかごの中に入れておいたから、使ってね。

濡れた服は預かっていくから。」



エドはシャワー室のなかから返事を返す。



「ありがとう中尉!」



シャワーから上がったエドは、脱衣かごのなかに用意されていた服を取り出した。

軍から支給されるシャツと下着、大人サイズのハーフパンツだ。

多少サイズが大きかったが、エドはぶかぶかのシャツを着た。

ロイの司令室に戻ろうと、靴を探すが、そこにはスリッパが一足用意されているだけだった。

中までぐしょぐしょだったために、回収されてクリーニングに出されてしまったのだろう。



エドはスリッパを足に引っかけて、司令室に戻った。



「ああ、鋼の。

少しはマシになったかな?」



忙しそうにしていたロイが、わざわざ振り向いてエドをみた。



「あ、うん。

体があったまった。

俺の服はどうなったんだ?」



ロイの隣で書類をしわけていたリザが、エドに笑いかけた。



「今、お洋服と革靴は、東方司令部内にある洗濯部にまかせてあるわ。

特急でやってもらっているから、今日の夕方には帰ってくるはずよ。

それまで、その格好になってしまうけど、我慢してちょうだいね。」



エドはしょうがないとばかりに頷いた。



「ありがとう。

あの雨じゃ、帰れないし。しばらく司令部で雨宿りさせてもらうよ。」

応接ようのソファに座ったエドに、今度はフュリーが声をかけた。



「エドワードくん、アルフォンスくんには、電話で伝えておいたから、帰りがおそくなっても心配しなくて大丈夫だよ。」



「あ、ありがとう、フュリー曹長。」



椅子に座ったエドを眺めて、ロイはクスッと笑った。



「軍内で一番サイズが小さい支給品を中尉にお願いしたのだが、君にはそれでもぶかぶかだったね。

今度君専用サイズの服も支給してもらえるように上に掛け合ってみるか?」



「誰がフリーサイズでもぶかぶかの超マイクロドちびか!!??

そんな心配いらん!大佐はとっとと仕事しやがれ、このサボり魔!」



飛びかかろうとしたエドだったが、スリッパ脱げたことで勢いがそがれて、結局椅子に座り直すだけで終わってしまった。



「君が持ってきた報告書、読ませてもらったよ。

相変わらず、誤字脱字が多かった。

君、小学生から国語を学び直したらどうかね・・・、錬金術や数学などは大の大人顔負けなのにねぇ。

まあ、とにかく、各地でまた派手に暴れたようだね。

君の報告書では、ひかえめに表現されているようだが、各地の軍からはもっと具体的な被害がこちらに報告されているよ。」



エドはぎくっとしたが、ロイは少しため息をついただけだった。



「いろいろ活躍するのはよいが、あまり怪我ばかりこさえていたら、命がいくつあっても足りないぞ?

君を心配している人間もいることを忘れないようにな。」



「わ、解ってるよ!」



「・・・・どうだかなぁ」



ロイはやれやれと肩をすくめた。



ロイになんで肩をすくめられたのか、いまいち理解できなかったエドは、ふてくされながらソファに深くもたれかかる。



エドが腰掛ける応接セットの机に、ブレダがココアの入ったマグカップを置いた。



「まあまあ、そんなにむくれるなって、大将。

あったかいココアでも飲んで、ゆっくりしてろよ。」



「あ、ありがとう、ブレダ少尉。」



ファルマンも、エドの前に本を一冊置いてくれた。



「お気に召すかどうかは、解りませんが、暇つぶしにどうぞ。

今週発売されたばかりの錬金術書ですから、まだ読んだことはないと思いますよ。」



エドは目を輝かせて本を受け取った。



「うわぁ!サンキュー、ファルマン准尉!」



エドがにっこりしながら、ココアを飲みつつ本をめくり出したのを見て、大人達も和やかな雰囲気になった。



2、3ページほどページをめくり、もう一口ココアを飲んだときエドはふいに気が付いた。



―俺、ここのみんなに心配されてたんだ・・・。



そのことに気が付いたエドは、顔を上げて忙しそうにする軍人達を見渡した。

それに気が付いたのか、リザがエドに笑いかけた。



「どうしたの?エドワードくん。」

「ううん・・・・。

なんでも、ないよ・・・。」



エドは慌てて本に視線をもどし、温かい気持ちで涙がでそうになったが・・・・、

それは気のせいだろうと目をつぶった。





雨の日の小話 END
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