鋼の錬金術師(短編)
崩れ落ちた建物、火の粉を散らす炎、どこかで聞こえる銃声。
黒い煙が上る空、中の鉄骨が折れ曲がった柱、砕けた敷石。
ここは何処だ?
がれきの山の中、エドは立ち尽くしていた。
エドには、なぜ自分がここに立ち尽くしているのか、そして、いつからここにいるのかが解らなかった。
どうすることもできず、ただ、立ち尽くす。
エドは不意に、弟のことが心配になった。
そうだ、アルはどこにいるんだ?
エドはアルを探そうと、一歩前に出た。
エドはまったく気が付いていなかったが、近くの建物の上で、人影が動いた。
人影の手には、標準機がついた狙撃用のライフル。
人影はそれを音もなく構えた。
標準機の中の十字の印の真ん中に目標を合わせる。
エドの金髪は、灰色の戦場の中で、よく、目立つ。
人影は狙撃手となり、引き金を引いた。
「危ない!!」
叫んだ声と共に、エドの前に何者かが走り出てきて、その身を擲(なげう)った。
長い鉛の弾は、その人物を貫く。
「・・・!」
エドの目の前で、その人物は撃たれた。
その人物は、エドに覆い被さるように倒れ込んできて、結局、エドは支えきらずに二人して倒れてしまった。
エドをかばった人物、それは・・・。
「た、大佐・・・・・・?」
エドは、庇った人物を呼んだ。
黒髪、黒目のいけ好かない上司、ロイ・マスタング大佐が、目を閉じてエドに覆い被さっていた。
エドが呼んでも、ロイは目を開けなかった。
「お、おい、大佐!大佐!
しっかりしろよ!!大佐!!」
エドはロイの背中に手を回して支えようとした。
触れた手のひらに、温かくぬめるものが触れる。
エドは、その感触を知っていた。
「そんな、うそだ・・・。」
エドは、ロイの体が邪魔をして、其れが何かはっきりと視認することはできなかった。
だが、それの正体に思い当たるエドは、蒼白になった。
「大佐・・・嫌だ・・・。」
ぬめるものの範囲は、どんどんひろがっているようだった。
そしてその分、ロイの顔色は悪く、冷たくなっていく。
叫びたくなったエドが、無意識に流した涙の間から、建物の上に見つけた狙撃手の顔は、
誰であろう、リザ・ホークアイだった。
「うわあああああああっ!」
エドは叫びながらベッドの上に飛び起きた。
「わあ!兄さん、大丈夫!?」
手元の明かりだけで本を読んでいたのだろうアルが、驚いて声を上げた。
「あ、アル・・・。」
エドは、荒い息を落ち着かせながら、ゆっくりと周りを見渡した。
そこは宿の一室だった。
がれきも、狙撃手も、もちろん、ロイもいない。
あれは、夢だったのだ。
「兄さん、大丈夫!?
なんか、うなされてたよ。」
アルが心配して近づいてきた。
エドはその弟の大きな体を見上げ、どうにか自分を落ち着けた。
「・・・・ああ、なんともない。
ちょっと夢見が悪かっただけだ。
驚かせて悪かったな。」
エドが汗で張り付いたシャツを脱いで、脇にあった椅子に引っかけた。
そのまま再び横になると、冷えたシーツが肌に心地よい。
アルが心配して、エドのことをのぞき込んだ。
「兄さんが悲鳴をあげるほどの夢だなんて。
どんな夢だったの?」
エドはアルに言おうかどうしようか迷ったが、夢のことを思い出そうとすればするほど、夢の陰は薄れていく。
とても怖かった気がしたが、なぜ怖かったのかエドには思い出せなかった。
「いや、たいしたことじゃない。
寝直すよ。」
エドは言うと、再び布団の中に潜り込んだ。
目を閉じた瞬間、夢の続きを見てしまいそうで少しだけ怖くなったが、襲ってきた睡魔には叶わなかった。
次の日の朝、エドはなんとなく寝不足の顔で、宿の食堂で朝食を一人で食べていた。
アルは食事ができないのに場所をとるのは申し訳ないと、部屋でまっている。
エドはウインナーを口の中でかみ砕きながら、昨日の夢について考えていた。
内容は思い出そうとすればするほど霞んだが、それゆえに言いしれぬ恐怖がある。
知り合いが出てきた気がするのが、余計に怖かった。
「誰かが殺される・・・。そんな夢だった気がするんだよな・・・。」
「誰が殺されると言うのかね?鋼の。」
エドは声を掛けてきた人物をぎょっとして見上げた。
「げ、大佐・・・。
お、おはよう。」
「いきなり朝一番に嫌な顔をするんじゃない。
おはよう鋼の。
昨日は君の部屋から悲鳴が聞こえた気がしたんだが・・・。
ベッドから落ちたのか?」
ロイは朝食のトレイをテーブルの上に置いてから、エドの真向かいに断らずに座った。
「だれがそんなことするか!
・・・ちょっと夢見が悪かっただけだ。」
エドはどうせ笑われるのだろうと思ったが、予想に反してロイの顔は真剣だった。
「君もいくつも修羅場を超えているから、夢見が悪いこともあるかもしれないな。
あまりひどいようなら、軍の精神科医に相談すればカウンセリングを受けられるぞ?」
本当に心配しているような口ぶりに、エドは少し調子が狂う。
「・・・なんだよ、ちゃんと心配してくれるんだ。」
エドの少しばかり嫌みを含んだ言い方に、ロイはかすかにため息をついた。
「戦場を体験したものは、外傷はなくても精神に深い傷を負うことがある。
その度合いを知るために、夢は大切な情報源なんだよ。
君は戦争を体験した訳ではないが、命の危険には何度もあっているだろう。
君のような・・・、いや、君たちのような子供ならなおさらだ。
我々のような、鈍感な大人でさえ、深く傷つくような体験を君たちは超えてきている。
事情をしっている数少ない人間が心配してはいけないか?」
エドは口を開きかけ、やめた。
怖い陰が、目の前の男に乗り移ったら困る。
「・・・・よく覚えていないんだけど・・・。
知り合いが、死んだ夢を見た・・・気がする。
ただ、誰がどんな風に死んだのか・・・。
殺されたのか、病気か何かだったのか、覚えてないんだ。
ただ、とても怖かった気がする。」
ロイは、エドの生身の方の手を取って、手袋の上から握った。
「な・・・!?」
「そんなに深く心配するな。
所詮、夢は夢。
君は現実にいる。
君の周りの人間は誰も死んでいないよ。
私の手には、ちゃんと体温があるだろう?
夢だったらきっと私の手に触れても何も感じないよ。」
そうだろうか、とも思ったが、エドはロイの言葉に従うことにした。
自分の手を握っているロイの手には、温かさと疑えないほどの存在感があったから。
「うん、そうだな。
ありがとう、大佐。」
エドはそう言いながらロイの手をゆっくりと外した。
「朝飯の邪魔して悪かったな。
俺は終わったからアルのところに戻るよ。
後でな。」
エドはそう言うと、空の皿ののったトレイを持って席を立った。
去りゆくエドの背中を眺めていたロイだったが、エドが食堂から出て行ったことを確認してからぽつりとつぶやいた。
「君が生きていて、安心したのは・・・私の方だよ。」
エドとアルが泊まっていた宿にロイがいたのは偶然ではない。
今、エドとアル達が滞在している村の近くでは、最近、凶暴なキメラの被害が多数報告されていた。
どこかの研究所から逃げ出したらしい戦闘キメラは、一般の銃火気は通じなかった。
それゆえ国家錬金術師であるロイが出向くことになった。
偶然その出発の日に居合わせたエドとアルも協力を求められ、一緒に作戦に従事することになったのだった。
最寄りの村で情報を集め、休憩をとった一団は、さっそく作戦を開始することにした。
この作戦に参加するのは、エド、アル、ロイ、リザとその射撃部隊、ハボックとその部下達である。
「目撃情報から推測するに、キメラはこの村の東に3㎞ほど行った場所にある廃屋をねぐらにしているらしい。
夜行性で、この時間帯は寝ているものと思われる。
ハボック隊で周辺を包囲し、私と鋼の、アルフォンス君で廃屋に行く。
ホークアイ隊は援護に回ってくれ。
我々は気配を消して接近し、中にキメラが寝ていると確認できしだい廃屋もろとも燃やしてしまうつもりだが、相手は畜生だ。
不測の事態はいくらでも考えられる。
おのおの油断しないように作戦に当たってくれ。以上!」
廃屋は、荒野の中にポツンと取り残された林の中にあった。
まず、ハボック達が、気配をけして静かに、そして素早く展開した。
次に、近くのいくつかの岩の上に、リザが率いる射撃部隊が二人一組で陣取った。
ハボックとリザから準備完了の報告を受けたロイは、エドとアルを見た。
「二人とも、準備はいいか?」
エドとアルは頷いて返した。
三人は慎重に林の中をのぞき込んだ。
まばらに生えた木の根元には、深い下生えが茂っていたが、キメラが通るのだろう獣道だけは踏み固められていた。
「大佐。」
アルがロイを呼んで指さしたのは、首輪をした猫の死骸だった。
村の飼い猫の末路であろう。
「やはり、間違いなさそうだな。
慎重に行こう。」
三人が慎重に獣道を進んでいくと、ついに廃屋にたどり着いた。
二階建ての建物で、装飾が施された柱や手すりから、昔は立派な建物で会ったのであろうことがうかがえる。
今は蔓草が絡まり、窓ガラスは割れて、室内から木が生えているところもあった。
「ここ、みたいだな。」
エドが木の陰に身を隠しながら、そっと建物を覗う。
ロイとアルも、木の陰から建物を覗った。
「中の様子はよくわからないな・・・。
キメラが中にいることが解ればすぐにでも火祭りにしてやるのだが。」
ロイは、発火布の手袋をはめ直しながら言った。
「僕、中の様子を見てきましょうか・・・?」
アルがロイに言うが、ロイは了解しなかった。
「いや、君は一般人だ。そんな危険なことはさせられない。
それに・・・・」
ロイがすっと目を細めたのを見て、二人ともはっとその気配に気が付いた。
「あちらから、おでましのようだ。」
三人の背後に、巨大な猛獣が襲いかかる!
「ぐおぉんっ!」
三人はとっさにその場から離れ、キメラの一撃を避けることができた。
木漏れ日に照らされたキメラの体は、しなやかな虎の体をしており、黒い縞が紋様のように全身を取り巻いていた。
頭からはライオンのようなたてがみが、長毛種の猫のように長く伸びていて、首の周りを隠している。
猫科の猛獣を掛け合わせたキメラのようだ。
「この化け猫やろうが!」
エドは両手を合わせてから地面に触れると、キメラの足下からするどい円錐が伸び上がってキメラにおそいかかった。
キメラは巨体を軽々と跳躍させ、円錐を避けて廃屋の方へ着地する。
「好都合だ!
消えろ!」
ロイは手前に立つキメラもろとも館を焼いてしまおうと、発火布をはめた指を打ち鳴らした。
虚空を火花が走り、キメラに迫る。
「がるるるるるる!」
キメラがうなった瞬間、キメラの目の前に壁が出現し、キメラに迫っていた火花はその壁に防がれ爆発を起こした。
「何!?」
ロイが驚愕した声をはっする前で、爆発を防いだ壁はそのまま勢いよく三人に襲いかかってきた。
「避けろ!」
ロイの警告よりも早く、エドとアルは回避の構えをとっていてが、後退してお互いが離れた瞬間に壁はその間を横切り、ロイとエドとアルは三人ばらばらにされてしまった。
「大佐!アル!」
分厚い壁は先ほどの爆発の熱をもっていて、周りの木を焦がすほどであった。
向こう側に分断されてしまった二人の様子はわからなかった。
「キメラは大佐が避けた方か。
くそ、この壁、どこかにキメラの飼い主が潜んでるのか!?」
エドは仕方なく廃屋の方から回り込んでロイとアルの援護に向かうことにした。
壁の向こうからは戦っている気配が伝わってくる。
エドが先ほどキメラが立っていたところから壁を回り込もうとした瞬間、壁の向こう側から炸裂してきた火球が炸裂し、エドの体を吹き飛ばした。
「どあああああ!!」
エドはどうすることもできないまま、爆風に体をとられ、廃屋の壁を突き破って生えている木に背中からぶつかった。
「ぐ、いてて・・・、くそ、大佐やり過ぎだって・・・。」
エドはくらくらする頭に手を当てながら、どうにか起き上がろうともがいた。
どこかに頭でもぶつけたのか、目の前がちかちかする。
枝はずいぶん過密に絡んでいて、そこにとられたエドの足は、ふらふらしているエドにはなかなか抜くことができない。
あがくエドの耳に、ガサガサという音が聞こえてきた。
エドはぼやけた視線でそちらに視線をむける。
林のなかの暗さと、くらんだ目ではそれが誰だか解らなかったが、背格好と軍服から、エドはそれがロイだと判断した。
「大佐、あんたいくら何でもやりすぎだろ・・・。」
エドはロイに文句を言おうと顔を上げると、その人影の背後の木の枝の隙間から、荒れ地の空が見えることに気が付いた。
林のなかは薄暗かったが、林の周りの荒れ地にはさんさんと日が降り注いでいて、暗い近くよりも遠くの荒れ地の方がエドにははっきり見ることができた。
木の葉の間から見える茶色い岩と青いそら、そして、その岩の上には、狙撃用のライフルを構えて引き金をひこうとしているリザが見えた。
エドはどこかでこれを見た。そして、この後のことを知っている気がした。
大佐が撃たれて殺される。
エドは霞んだ目で見たものを信じ、叫ぶ。
「大佐ぁぁぁぁぁぁあ!!」
それは悲鳴だった。
「危ない!!」
紛れもないロイの声を聞き、エドはぎくりとした。
きちゃいけないんだ、あんたは!
タ―――――――――ン!
そしてエドは、誰かに抱きしめられていた。
エドを抱きしめていた人物、それは・・・。
「た、大佐・・・。」
エドは、庇った人物を呼んだ。
黒髪、黒目のいけ好かない上司、ロイ・マスタング大佐が、目を閉じてエドに覆い被さっていた。
エドは真っ青になってロイを呼んだ。
「大佐!!おい!大佐!!」
「大丈夫だ。
それよりも、君こそ無事か?」
ロイはすぐに顔を上げて心配そうにエドを見た。
エドは、ロイが目を開けたことに少なからず驚き、そして安堵した。
「お、俺は大丈夫。
ちょっとくらくらしたぐらい。
そ、それより、いまの銃声は!?」
ロイが体を起こすと、地面には軍服を着た人物が倒れてのたうち回っていた。
肩から激しく出血している。
リザに狙撃されたのだろう。
「おそらく、君の危険を見て取った射撃部隊が援護してくれたのだろう。
このみごとな狙いはホークアイ中尉だろうな。」
ロイはのたうっている人物を止血してから拘束し、モールで手を縛り上げた。
そこに遅れてアルもやってきた。
「兄さん!大佐!無事ですか!?今の銃声は!?」
「ああ、何とも無いよアルフォンス君。
犯人を捕まえることができた。」
そうですか、とアルは胸をなで下ろした。
「そういえば、あのでっかいキメラはどうなったんだ!?」
「あれはもう仕留めた。
壁のこちらからは見えないが、向こう側で炭になっているよ。」
エドは、自分を吹き飛ばすほどの、あの火球がとどめを刺したのだろうと思った。
そうやっているうちに、周りを警備していたハボックたちが駆けつけてきて、すみやかに現場の調査が始まった。
がっくりとうなだれている軍人の認識表を確認して、ロイはマユをひそめる。
「こいつは、あのキメラが脱走した時に殺されたと思われていた、研究所勤務の軍人だ。
まさか、こいつが逃がしていたとはな。」
軍人はきっと顔を上げてロイを睨んだ。
「うるさい!
俺たちが大切に研究していたキメラ達を、非効率だと簡単に殺処分しようとするお前達に何が解る!」
ロイは冷ややかな一瞥をくれた。
「言い分は指令部の取り調べ室でじっくり聞いてやろう。
つれていけ。」
ハボックの部下達に引っ立てられて行く犯人の後ろ姿が見えなくなってから、ロイは傍らのハボックに耳打ちした。
「あんな大型のキメラを抱えて長期間逃げられる訳がないが、それでもあえて脱走兵になったのだから、ただ殺処分にされたくなかったという理由だけではあるまい。
あのキメラはかなりの戦闘力をもっていたから、どうせどこぞの組織にでも流そうとされていたのかもしれん。
裏も徹底的に洗え。研究所と組織のキメラの横流しがわかるかもしれない。」
「了解しやした。」
ハボックがロイに敬礼してさっていった。
「大佐忙しそうだな。」
廃屋の階段に座って休んでいたエドが独り言を漏らした。
「そうだね。
ああいうところ見ると、司令官って感じがするよね。」
エドとアルが話していると、ロイがこちらに近づいてきた。
「体調はどうだね、鋼の。
まだめまいが続くようならきちんと医師に診せた方がいい。」
エドはそこまでは必要ないと首を振る。
「もうめまいは収まったよ。
大丈夫だって。」
しかし、どことなくロイの目は戸惑いの色を宿していた。
「・・・いや、頭は油断成らないからな。
車までつれていってやろう。」
ロイは言うが早いか、アルに手伝ってもらいながらエドを背中に負ぶった。
「うわ、ちょっと!大佐!恥ずかしいじゃないかよ!!
下ろせ下ろせ!!」
エドが多少暴れても、ロイはエドを下ろさなかった。
「だめだ。
車まででいいから、安静にしていなさい。」
ロイにぴしゃりと言われて、エドはむすっとしながら黙るしか無かった。
「兄さん、大佐も心配してくれてるんだから、安心させてあげなよ。」
エドは納得いかなかったが、背中に負ぶってもらうということは、その人物の体温をダイレクトに感じることができるということだったので、一瞬でもロイが殺されるかも知れないと思って冷えた体には、とても温かく心地よいというのも事実だった。
しかし、その反面、そう思ってしまうことが悔しかったので、エドは唇をとがらせた。
「大佐、今日はなんか優しくない?」
「そうかね?
私はいつも優しいつもりだよ?」
ロイがちょっとエドのほうに振り返って言う。
「どの口で其れをいうか、この司令官様は。」
はははと笑いをこぼすロイが前を向いて、車に向かって歩き出したので、エドからはその表情は覗うことができなくなった。
雑木がしげる林の中を通る人物の背中にくっついているというのは、飛び出た枝などが邪魔してあまり快適とはいえなかった。
エドは跳ね返ってくる枝にぶつからないようにロイに体を寄せると、その体の奥から、心臓の鼓動と体温を感じることができた。
「君が死ぬ夢を見たからかな。」
ロイがぼそりと言った言葉は、エドの耳にはちゃんとした言葉として届かなかった。
「なんか言ったか?大佐。」
「ん?いいや。なんでもないよ。
・・・・君が無事でいて良かったと、思っただけだ。」
「・・・・俺もだよ。」
獣道を抜けて、明るい荒野に出た。
仕事をするハボックや、指示をだしているリザ達が見えて、エドは夢が正夢にならなくて良かったと、ぼやり思った。
そして、その瞬間、エドの中の緊張がすっとほぐれた。
心地よく揺れる温かい背中と、昨日の寝不足がたたって、それがあんまりにも気持ちよいと気づいてしまったものだから。
車に到着したときには、エドは安らかな寝息を立て始めていた。
END
今回は珍しく、テーマが食べ物じゃ無くて、睡眠。
でも、食事シーンは出てくるのね(笑)
誰かに庇ってもらうとか、自己犠牲の描写が大好き。
庇われるキャラも、庇うキャラも、毎回お疲れ様です。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。