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鋼の錬金術師(短編)




ロイが振り向くと、そこには凶悪な牙に獲物の血を望む、狼男が二匹、こちらに飛び掛かろうとしていた。

ー鋼の達に今こいつらの相手までしている余裕はないな。

ロイは一瞬で標的を二匹の狼男に切り替えた。

狼男達も獲物が刃向かう気でいることに気がつき、一ひねりにするつもりで一斉に飛びかかっていた。

狼男達は訓練された動きと戦闘的な本能を兼ね備え、フォーメーションを組んでいる。

しかし、その動きは素早いが直線的で、ロイを軽く仕留められると踏んでいるようだ。

先行する一匹をフォローできるような位置で、もう一匹が岩場を蹴った。

「私を甘くみるなよ、ケモノどもめ!」

ロイの発火布が、閃光を弾けさせた。

ロイと狼男の間に火柱が燃え上がる!

先行していた狼男が警戒とも悲鳴ともつかない唸りをあげて火柱から離れた。

二匹目も避けようとするが、一匹目よりも後に加速していたので、判断が遅れた。

遅れたといっても、一秒にも満たない時間であったが、本気になったロイには十分すぎる時間だった。

両手にはめた発火布が、再び業火を放ち、判断が遅れた狼男を焼き払う。

逆巻く火炎が渦をまいて、炭と化した狼男を岩場の外へ吹き飛ばした。

「まずは一匹!」

ロイは、余裕をたたえた笑みを浮かべてつぶやく。

残り一匹は相棒があっという間にやられた事に驚いた。
そしてロイが油断ならない相手だとみとめて、間合いを計るように距離をとり、狙いがつけられないように素早い移動を繰り返した。

「その程度で私を撹乱したつもりか!?」

ロイが再び業火を放つべく一歩進み出た。
その一歩が岩場に着地した時、ロイの脇腹に息を詰めるような激痛が襲い掛かかった。

「ーっ!!」

ロイの表情が痛みに歪んだ。

ーこんな、時にっ!

そのスキを逃す狼男ではない。

「もぉらったぁっ!」

狼男は叫びながら長い爪でロイを切り裂いた。

「っ!」

すんでのところで飛びのいて逃れたロイだったが、痛みのあまり上がった息はなかなかおさまらない。

「くかかかか。
なんだぁ?てめぇケガもちかぁあ?
なぁに、おとなしくしてりゃあよぉ、すぅぐに楽にしてやるぜぇ?」

狼男は口角を歪めながら、嫌らしい舌なめずりをする。

「ぬかせ」

ロイは痛みのあまり流れる冷や汗をそのままに、今だ余裕のある表情で狼男を睨んだ。

ロイの発火布が、狼男の周りをぐるりと囲む火炎を作り出す。

「こぉれで動きを封じたつもりかぁ!」

狼男は炎を引き裂いてロイに突進してきた。

体制を低くし、岩場を蹴って、ロイの肉体を八つ裂きにしようと空をきる。

「うらぁぁぁああっ!」

狼男が勝利を確信して叫びながら、ロイに飛び掛かろうと岩場を一際強く踏み切った。

「かかったな」

ロイが静かにつぶやくのと、狼男の目が驚愕のあまり見開かれるのはほぼ同時であった。

狼男が踏み切った場所は、最初にもう一匹の狼男を焼き払った火柱を起こしたところであった。

岩場は業火の熱で融解していたらしく、固まりかけていたところを強く踏み締めた狼男の片足は、溶けた岩の中に沈んでしまっていた。

「ぐぁぁあっ!
足が焼けるぅぅうっ!」

狼男は岩場から抜け出そうともがいたが、あまりに足枷は強固だった。

ロイは痛みが疼く脇腹を片手で押さえながら、反対の腕をのばす。

「足と言わず、すべて燃やしつくしてやる。
何、大人しくしていたまえ、すぐに楽にしてやるぞ?」

火炎に照らされたその姿はまさに。

「っ!や、やめ…っ!」

無情、冷徹な

イシュヴァールの英雄。


腹に響くほどの爆発が巻き起こり、真っ黒になった狼男の体が、煙りを吹き出しながら大地に倒れ伏した。

ロイの関心はもはや狼男ではなく、背後で繰り広げられていた別の戦いに移っていた。

ロイの視界は、彼をとらえる。

「鋼の!」


ミロス本編に続く


なんで櫻樹がこんなのかいたのか、なんでロイが戦ってんのか、戦ってる狼男どもはなんなのか、知りたい方は、ミロスを見てね。
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