鋼の錬金術師(短編)
「とゆーわけでぇ、ここらへんの地下通路の場所はだいたいわかった?
グリード」
僕は漆黒の髪を滑らかに翻して、後ろをくっついてきたグリードに声をかけた。
「ん、まぁだいたいな」
グリードはキョロキョロしながら僕に生返事をかえした。
僕はエンヴィ-、嫉妬の名前をもつホムンクルス。
烏の濡れ羽色の髪と、仲間うちで一番かわいい容姿、加えて華奢な細身の体をもつ、お父様に造られた人造人間さ。
で、後ろの柄の悪いお上りさんが、最近造られたばかりのホムンクルス、グリード。
造られたばかりのホムンクルスは、基本的な知識はお父様から与えられるんだけど、実体験はないから秘密基地の通路なんかを案内して体験させないといけない。
じゃないと、道がわかっているのに道に迷ったりしてしまう。
しかもまだ感覚がしっかりなじんでないから、散歩して歩幅や目線、会話なんかのコミュニケーションなどを確認するんだ。
今回、お父様が案内役に僕を抜擢した。
「とりあえず、道案内はこんなもんだよ。
あとは習うより馴れろだね。
他に聞きたいことある?」
僕は腕を組んでグリードを見る。
グリードはちょっと考えてから僕に質問した。
「じゃあ、聞きてぇんだけどさ。」
「ん、何?」
「頭んなかに知識はあってもイマイチピンとこない言葉があるんだ。
意味を聞いてもいいか?」
「僕は辞書じゃないんだけど…。
まぁ、いいでしょ。
どんな言葉?」
「愛ってなんだ?」
うわ、またしょうもないことを…
でも、僕は答えられないと思われたくないから、一応答える事にした。
「まぁた、別にどうでもいいような事聞くなぁ。
そうだなぁ。一番利用しやすい人間の感情の一つだよ。
他人を好き以上に好きになる事さ。」
「ふーん、好き以上に好きかぁ。イマイチよくわかんねぇな。」
「僕達がお父様へ向ける気持ちが一番近いかもしれないね。」
グリードはちょっと考え、納得したみたいだった。
「何となくわかった。
じゃあ、恋と愛って違うのか?」
「恋は気の迷い、愛は盲目になること」
「…なんだそりゃ、最悪だな。」
グリードはなんか嫌そうな顔をしたが、恋と愛が違うものだということは納得したらしい。
「じゃあよぉ」
「まだあるの?」
「最後だ。
なぁ、世界ってなんだ?」
グリードは僕を見てそういった。
「世界、世界は僕達が弄ぶ全てのものだよ。」
僕は答えた。
「国も土地も人間も空間も時間も、全てさ。
それが世界だよ。」
「ふぅん、全てか…」
グリードは確かめるように舌の上で言葉を転がした。
僕は笑って近くの梯子に手招きした。
「ほら、見せてやるよ。
世界を」
梯子を上り、階段を上り、僕は現れたドアを開けた。
そこは古いビルの屋上で、目の前いっぱいに夕日が輝いていた。
それがグリードが生まれて始めて地下から出た時だった。
グリードは目を輝かせて、真紅の夕日や、群青色にそまっていく空、建物のシルエットとのコントラストを眺めていた。
「すげぇなあ!
コレが世界か!」
「そうだよ。
そしてもっともっと広いんだ。」
グリードと僕はしばらくそこで夕日を眺めた。
色が変わっていく街を眺めるグリードは、とても無邪気に見えた。
しばらくして、グリードは僕達をお父様を裏切り出ていった。
彼はグリード、強欲の名前をもつホムンクルス。
グリードは、恋も愛も世界も欲しがった。
そして恋も愛も、世界も教えたのは僕。
あいつがいなくなったのは、もしかしたら僕のせいかもしれない。
End
★★★
書いてから気付いたんですが、お父様に造られたのは、グリードの方が先でした。
グリード」
僕は漆黒の髪を滑らかに翻して、後ろをくっついてきたグリードに声をかけた。
「ん、まぁだいたいな」
グリードはキョロキョロしながら僕に生返事をかえした。
僕はエンヴィ-、嫉妬の名前をもつホムンクルス。
烏の濡れ羽色の髪と、仲間うちで一番かわいい容姿、加えて華奢な細身の体をもつ、お父様に造られた人造人間さ。
で、後ろの柄の悪いお上りさんが、最近造られたばかりのホムンクルス、グリード。
造られたばかりのホムンクルスは、基本的な知識はお父様から与えられるんだけど、実体験はないから秘密基地の通路なんかを案内して体験させないといけない。
じゃないと、道がわかっているのに道に迷ったりしてしまう。
しかもまだ感覚がしっかりなじんでないから、散歩して歩幅や目線、会話なんかのコミュニケーションなどを確認するんだ。
今回、お父様が案内役に僕を抜擢した。
「とりあえず、道案内はこんなもんだよ。
あとは習うより馴れろだね。
他に聞きたいことある?」
僕は腕を組んでグリードを見る。
グリードはちょっと考えてから僕に質問した。
「じゃあ、聞きてぇんだけどさ。」
「ん、何?」
「頭んなかに知識はあってもイマイチピンとこない言葉があるんだ。
意味を聞いてもいいか?」
「僕は辞書じゃないんだけど…。
まぁ、いいでしょ。
どんな言葉?」
「愛ってなんだ?」
うわ、またしょうもないことを…
でも、僕は答えられないと思われたくないから、一応答える事にした。
「まぁた、別にどうでもいいような事聞くなぁ。
そうだなぁ。一番利用しやすい人間の感情の一つだよ。
他人を好き以上に好きになる事さ。」
「ふーん、好き以上に好きかぁ。イマイチよくわかんねぇな。」
「僕達がお父様へ向ける気持ちが一番近いかもしれないね。」
グリードはちょっと考え、納得したみたいだった。
「何となくわかった。
じゃあ、恋と愛って違うのか?」
「恋は気の迷い、愛は盲目になること」
「…なんだそりゃ、最悪だな。」
グリードはなんか嫌そうな顔をしたが、恋と愛が違うものだということは納得したらしい。
「じゃあよぉ」
「まだあるの?」
「最後だ。
なぁ、世界ってなんだ?」
グリードは僕を見てそういった。
「世界、世界は僕達が弄ぶ全てのものだよ。」
僕は答えた。
「国も土地も人間も空間も時間も、全てさ。
それが世界だよ。」
「ふぅん、全てか…」
グリードは確かめるように舌の上で言葉を転がした。
僕は笑って近くの梯子に手招きした。
「ほら、見せてやるよ。
世界を」
梯子を上り、階段を上り、僕は現れたドアを開けた。
そこは古いビルの屋上で、目の前いっぱいに夕日が輝いていた。
それがグリードが生まれて始めて地下から出た時だった。
グリードは目を輝かせて、真紅の夕日や、群青色にそまっていく空、建物のシルエットとのコントラストを眺めていた。
「すげぇなあ!
コレが世界か!」
「そうだよ。
そしてもっともっと広いんだ。」
グリードと僕はしばらくそこで夕日を眺めた。
色が変わっていく街を眺めるグリードは、とても無邪気に見えた。
しばらくして、グリードは僕達をお父様を裏切り出ていった。
彼はグリード、強欲の名前をもつホムンクルス。
グリードは、恋も愛も世界も欲しがった。
そして恋も愛も、世界も教えたのは僕。
あいつがいなくなったのは、もしかしたら僕のせいかもしれない。
End
★★★
書いてから気付いたんですが、お父様に造られたのは、グリードの方が先でした。
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