このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

血染めの鉛

今回ちょっぴりグロっぽい?
しょうがないよ、もともと鋼がダークファンタジーだもんね。

苦手な方は、引き返してくださいね。



第1話

????・山の中のうらぶれた小屋


ろうそくの明かりが照らす、狭い小屋の中、荒い息づかいがその空間を支配していた。

「はぁ、はぁ、・・・うぁ・・・。」

苦しげな、喘ぎ声が時折、まざる。

古い板張りの壁には、揺らめく人影がふたつ映っている。

横たわった子供の上に、覆い被さる黒髪の男。

「う、う、ふぐ、ふぁ・・・。」

子供の口には、ハンカチが猿ぐつわの代わりにかまされており、その悲鳴は声にならない。

男が手を動かすと、子供は床の上に敷かれた蓙(ござ)の上で、汗まみれになって体を引きつらせた。

「我慢しろ、もう少しだ。」

厳しい目で少年をにらむ男は、小さな、しかし強い口調で言う。

子供が体をいやがるようにしならせた時、その口からハンカチが外れた。

「大佐、たい、さ、あぁ、俺・・・。」

「すまない。鋼の。本当にもう少しなんだ、痛いなら、私の腕を噛んでいろ。

悲鳴は上げるんじゃない。」

床の上の子供、エドは泣きながら、目の前のロイの軍服をきている腕を噛みしめる。

ロイの指が、ひときわ強く中をまさぐった時、エドは力の限りロイの腕を噛んで声を殺すしかなかった。



第2話


6時間前・ニタルの町にて



ことの始まりは、半日前にさかのぼる。

ニタルという山間の町でおこった猟奇的殺人の捜査に、鋼の錬金術師エドワード・エルリックは、かり出されていた。

かり出したのは、もちろん、ロイ・マスタング大佐、エドの直属の上司にあたる男だ。

「東方司令部につくなり引っ張ってこられて。

冗談じゃないっての。

こういう観光地的なところに、こんな殺伐とした用事でこなきゃならなくなるなんて、最悪だな。」

ニタルという町は、白い壁の建物の連なりと、針葉樹の山々とのコントラストが美しいと評判の観光地であった。

初心者にも上りやすい山が多いため、家族連れでハイキングに訪れるお客も多いと聞く。

「まあまあ、むくれるな。

早く解決すれば、あたりを散策してもいいし、アルフォンス君のところに帰れるのだから。」

今回はとても危険な捜査なため、一応一般人アルフォンスは、イーストシティでお留守番であった。

エドはむすっとしながら、臨時の捜査本部の椅子にもたれかかっている。

ロイはその脇の机で報告書に目を通す。

「被害者は今のところ3人。

被害者はライフルで頭を一撃された以外は、共通点らしい共通点はないな。

使用された弾は、いずれも改造されたライフル弾。鉛がしこまれているようだ。

全員即死、たいした腕だ。」

ロイは感心したようにいった。

「なに関心してんだ。

どこから狙ってくるのかわからないような相手、どうやって捕まえるんだよ。

たとえ国家錬金術師だって、弾より早くなんか錬成できないぞ。

俺がいてもいなくても同じだと思うんだけど。」

「君がいれば、バリケードをはったり、トーチカを作るのはとても容易だからね。

(トーチカ:お椀をかぶせたような、丸い形のコンクリートのドーム。塹壕での戦闘の防衛基地の一つ。小さな窓があいており、そこから銃を撃って、身を守りながら攻撃する。)

ま、いわば土木要員さ。」

「大佐がいれば十分だろうに。あんただって腐っても国家錬金術師だろ?」

「私は指揮官としてここに来ている。

錬成しなければいけないところに私がいるとは限らない。」

ロイが肩をすくめながら笑った。

エドは納得できないように唇をとがらせる。

「とはいったものの、目撃情報によると犯人は、我々が来たことに気がついて、山に逃げ込んだらしいから、山狩りしかないかな。

市内戦になるかと思ったんだが。」

ロイの予想が珍しく外れたらしい。

エドは外に見える、低めだが連なる山を見て、眉間にしわをよせた。

「山狩りか。高いところからライフル撃たれたらたまらないぜ。

それに、軍に驚いて山に逃げ込んだんなら、今この瞬間にも遠くに逃げてるかもしれないぞ。」

「こちらにはホークアイ中尉がいる。場所さえ補足できれば、撃ち合いでもひけをとらないはずだ。

それに、今までの犯罪から推測するに、犯人は人間にむかってライフルをぶっ放したくてしかたがないやつだと思われる。

こんなに的になる軍人がわんさか自分のためにやってきたんだ。

犯人には撃たないという選択肢はないとおもうぞ。

大勢の軍人を相手にするのに、有利になるよう山に入ったんだ。

きっと今頃、狙い撃つのに好都合なポイントから、いまかいまかと潜んでいるんだろう。

さて、犯人の思惑通りで癪ではあるが、二時間後に山狩りをすると、伝えなければ。」

ロイが立ち上がったのを見て、エドも立ち上がった。

「どうせ、俺も参加しないといけないんだろ?

やるんなら、ちゃっちゃと終わらせて帰ろうぜ。」




第3話

二時間後・山の中にて



ロイの指示によって動いた軍人たちの動きは迅速だった。

目撃証言がある山と、地元の人間が怪しい場所があると教えてくれた山の二手に分かれて、山狩りが始まった。

前後左右に目を配らせながら、軍人たちは険しい道を上っていく。

エドは目撃証言がある方の山を、ハボックと一緒になってすすんでいた。

「気をつけろよ、大将に何かあったら、大佐やアルフォンスに顔向けできないからな。」

「安心しろよ。

俺だっていろんなところを旅して、場数はふんでるから。」

結局のところ、エドとハボックが進んだ山は、山頂までくまなく調べたが、人の痕跡は見つからなかった。

「ち!こっちじゃないみたいだな。

大佐たちが見つけてるといいんだが。」

ハボックは苦々しくいうと、上ってきた部下たちに、気を配りながら下山して、大佐のほうの部隊と合流するように指示をだした。



エドは、ハボックたちと一緒に山を下りながら、隣の山を眺めた。

隣の山はロイたちが捜索している山なので、あぶり出された犯人が、木の間から見えたりしないかと思ったのだ。

よく目をこらせば、針葉樹の木々の間から、青い軍服が時折見える。


しかし、問題の狙撃犯はさっぱり見つからなかった。

「ちぇ」

エドは悔しそうに舌打ちすると、少しおいていかれてしまったので、急いでハボックたちの後ろ姿を追いかけて足を速めた。

もうすぐロイたちが捜索している方の山の登りにさしかかる、というとき、どこからか鋭いライフルの銃声が聞こえた。

「!伏せろ!」

ハボックが叫ぶのとほとんど同時に、軍人たちは地面に伏せった。

しかし、エドは立ったままだった。

その銃声は、自分たちに向けられたものではないと直感したからだ。

ライフルの弾は音よりも早く飛ぶので、音がしても周りで何もなければ、弾は自分に向けられてはいないのだ。

「大将!危ない!伏せろって!

遠くからの銃声だが、やつは狙撃の名手だ、次の弾がこっちに飛んでこないとは限らないんだぞ!」

しかし、エドはハボックの忠告を聞いていられなかった。

「大変だ!大佐が撃たれた!」

エドはそう言うと、山道ではない藪の中に、躊躇なく飛び込んでいってしまう。

「何だって!?おい!大将!!!」

ハボックがとっさに腕を伸ばしたが、エドを捕まえることはかなわなかった。


第4話へ続く
1/3ページ
スキ