錬金術師が住む屋敷
第十七話
エドとアルは、列車を乗り継ぎ、一日かけてイーストシティに到着した。
二人は報告書を持って、東方司令部の司令官執務室のドアをノックする。
「よーっす、大佐、久しぶり。
報告書持ってきてやったぞー。」
「ほお、珍しい客が来たな。
久しぶりだな、鋼の、アルフォンスくん」
ロイは執務机で仕事をさばきながら、二人に挨拶した。
「どれどれ、君の誤字の多い報告書を見せてもらおうか。」
「なんだよ、それ!」
ロイはエドから報告書を受け取ると、さっと目を通した。
「・・・ん?」
ロイが怪訝な顔をした。
「君、ニーネックに行ってきたと言うのか?
それとも、これはただの誤字か?」
エドはむっとした。
「誤字なんかしてない!」
「・・・そうか・・」
ロイの表情は晴れない。
「ファルマン。」
「はい、何かご用でしょうか?」
「これを見てくれ。」
ロイはエドの報告書をファルマンに見せた。
ファルマンも素早く目を通し、不思議そうな顔をした。
「二人ともなんだって言うんだよ。」
「・・・これはおかしいですね。
不可能です。」
「・・・。だろうな。私もそう思う。」
厳しい顔つきで話しをする二人に、エドとアルは顔を見合わせた。
「ニーネックの村がなんだってんだ。
別にどうってことない、普通の農村だったぜ。」
今度はロイとファルマンが、困ったように顔を見合わせた。
「・・・・。
鋼の、アルフォンスくん、落ち着いて聞いてくれ。
君の報告書にもあるように、ニーネックの村は六年ほど前に、感染力の強い病気が蔓延した。」
「うん、その時に、セスルファムさんが医療行為をしたから、村は・・・」
「全滅したんだ。」
「・・・・・・・え?」
「全滅したんだよ。
生き残りはいなかった。
真っ先に死んだのが、その病気を蔓延させた張本人、セスルファムという錬金術師だ。
今は村も、洋館も何も無い。
病気を根絶するために、無人になった村を私が焼いてしまったのだから。」
エドとアルは訳がわからす、おろおろと顔を見合わせた。
「え、でも、俺たち、行ってきたんだ、ニーネックって村に!
話しもしたし、買い物もした!
病気だって、その錬金術師が直したって聞いたんだ!」
「そ、そうですよ!
確かに、ありました!」
ロイは何とも言いがたい顔になった。
「ファルマン、二人に、ニーネックに関する報告書を見せてやってくれ。」
ファルマンは、資料室から分厚い報告書のファイルを持ってきて、エドとアルの前に広げた。
病気の詳細や、ゴーストタウンになった村の写真、ロイが焼き払った後の写真などが、事細かに記載されている。
そして、セスルファムは極悪な犯人として扱われていた。
病気を故意に蔓延させた張本人として逮捕され、獄中で病気が急変して死亡と書かれている。
エドとアルは絶句してその書類を食い入るように見つめていた。
「なんてこった・・・・!
じゃあ、俺たちが行ってきたのは、いったいどこで、あったのは誰だったんだ・・・?」
第十八話
エドとアルの二人は、再びセスルファムの屋敷を訪れていた。
正確に言えば、跡地だったが。
周りは、あれほど雨が降り続いていたようには思えないほど、からからに乾いていた。
焼け焦げた煉瓦の土台が少しだけ残っていて、そこに屋敷があった跡をかすかに残している。
ロイが言ったとおり、ニーネックの村は跡形も無くなっていた。
「俺たちがあったセスルファムさんやミリーナは、いったいなんだったんだ?
ただの夢だったていうのか?」
エドは一人ごちながら、屋敷の焼け跡に踏み込んだ。
「兄さん、ここみて!」
アルが屋敷の焼け跡の一点を指さした。
そこはかつて、セスルファムが研究室にしていた辺りであった。
エドがいってみると、そこには・・・。
焼け焦げた床一杯に画かれた錬成陣があった。
それはタペストリーに描かれていたものと同じ、ミリーナの魂の錬成陣だ。
陣の中央には、熊のぬいぐるみが横たわっていた。
先日別れた家にあったぬいぐるみのそのままの姿で。
呆然とした二人の目の前で、熊が、かすかにこちらを見た。
『・・・・・・・・・・、
おぉ・・・・にぃちゃ・・・・・・・・んたぁちぃ・・・・・・・・・・・・・・
おか・・・おぉかぁ・・・え・・・・・・・・・・・りぃ・・・・・・・・・・・・・』
「ミリ・・・!!」
しかし、二人が声をかけるよりも早く、ぬいぐるみから目の光が消える。
ビシッという音が響き、錬成陣が書かれていた床に無数のひび割れが走った。
ぬいぐるみも見る見る間に朽ちていき、最後はただの焼け焦げた塊になってしまった。
その様を見て、二人は理解した。
すべてが夢だった訳ではなかったのだ。
ミリーナが館に魂を宿していたのは間違いない。だとすれば・・・。
「お前がすべて見せていたんだな、ミリーナ。
すべて、お前のこうなればいいという願望だったんだ。
ごめんな、帰ってきたのが、お父さんじゃなくて。
待ってたんだな。
屋敷が体のお前は、錬成陣が朽ちるまでずっとずっと待ててしまった。
ごめんな、気づいてやれないで・・・・。」
エドとアルは村の残骸に背を向けて、山を下り始めた。
アルがちらりと振り向くと、洋館の入り口だったところで、白いワンピースを着たミリーナと、セスルファムが並んで手をふっているように見えたが・・・・・・・・。
それはきっと、目の錯覚であろう。
夏の1日1話連載小説「錬金術師の住む屋敷」
完
エドとアルは、列車を乗り継ぎ、一日かけてイーストシティに到着した。
二人は報告書を持って、東方司令部の司令官執務室のドアをノックする。
「よーっす、大佐、久しぶり。
報告書持ってきてやったぞー。」
「ほお、珍しい客が来たな。
久しぶりだな、鋼の、アルフォンスくん」
ロイは執務机で仕事をさばきながら、二人に挨拶した。
「どれどれ、君の誤字の多い報告書を見せてもらおうか。」
「なんだよ、それ!」
ロイはエドから報告書を受け取ると、さっと目を通した。
「・・・ん?」
ロイが怪訝な顔をした。
「君、ニーネックに行ってきたと言うのか?
それとも、これはただの誤字か?」
エドはむっとした。
「誤字なんかしてない!」
「・・・そうか・・」
ロイの表情は晴れない。
「ファルマン。」
「はい、何かご用でしょうか?」
「これを見てくれ。」
ロイはエドの報告書をファルマンに見せた。
ファルマンも素早く目を通し、不思議そうな顔をした。
「二人ともなんだって言うんだよ。」
「・・・これはおかしいですね。
不可能です。」
「・・・。だろうな。私もそう思う。」
厳しい顔つきで話しをする二人に、エドとアルは顔を見合わせた。
「ニーネックの村がなんだってんだ。
別にどうってことない、普通の農村だったぜ。」
今度はロイとファルマンが、困ったように顔を見合わせた。
「・・・・。
鋼の、アルフォンスくん、落ち着いて聞いてくれ。
君の報告書にもあるように、ニーネックの村は六年ほど前に、感染力の強い病気が蔓延した。」
「うん、その時に、セスルファムさんが医療行為をしたから、村は・・・」
「全滅したんだ。」
「・・・・・・・え?」
「全滅したんだよ。
生き残りはいなかった。
真っ先に死んだのが、その病気を蔓延させた張本人、セスルファムという錬金術師だ。
今は村も、洋館も何も無い。
病気を根絶するために、無人になった村を私が焼いてしまったのだから。」
エドとアルは訳がわからす、おろおろと顔を見合わせた。
「え、でも、俺たち、行ってきたんだ、ニーネックって村に!
話しもしたし、買い物もした!
病気だって、その錬金術師が直したって聞いたんだ!」
「そ、そうですよ!
確かに、ありました!」
ロイは何とも言いがたい顔になった。
「ファルマン、二人に、ニーネックに関する報告書を見せてやってくれ。」
ファルマンは、資料室から分厚い報告書のファイルを持ってきて、エドとアルの前に広げた。
病気の詳細や、ゴーストタウンになった村の写真、ロイが焼き払った後の写真などが、事細かに記載されている。
そして、セスルファムは極悪な犯人として扱われていた。
病気を故意に蔓延させた張本人として逮捕され、獄中で病気が急変して死亡と書かれている。
エドとアルは絶句してその書類を食い入るように見つめていた。
「なんてこった・・・・!
じゃあ、俺たちが行ってきたのは、いったいどこで、あったのは誰だったんだ・・・?」
第十八話
エドとアルの二人は、再びセスルファムの屋敷を訪れていた。
正確に言えば、跡地だったが。
周りは、あれほど雨が降り続いていたようには思えないほど、からからに乾いていた。
焼け焦げた煉瓦の土台が少しだけ残っていて、そこに屋敷があった跡をかすかに残している。
ロイが言ったとおり、ニーネックの村は跡形も無くなっていた。
「俺たちがあったセスルファムさんやミリーナは、いったいなんだったんだ?
ただの夢だったていうのか?」
エドは一人ごちながら、屋敷の焼け跡に踏み込んだ。
「兄さん、ここみて!」
アルが屋敷の焼け跡の一点を指さした。
そこはかつて、セスルファムが研究室にしていた辺りであった。
エドがいってみると、そこには・・・。
焼け焦げた床一杯に画かれた錬成陣があった。
それはタペストリーに描かれていたものと同じ、ミリーナの魂の錬成陣だ。
陣の中央には、熊のぬいぐるみが横たわっていた。
先日別れた家にあったぬいぐるみのそのままの姿で。
呆然とした二人の目の前で、熊が、かすかにこちらを見た。
『・・・・・・・・・・、
おぉ・・・・にぃちゃ・・・・・・・・んたぁちぃ・・・・・・・・・・・・・・
おか・・・おぉかぁ・・・え・・・・・・・・・・・りぃ・・・・・・・・・・・・・』
「ミリ・・・!!」
しかし、二人が声をかけるよりも早く、ぬいぐるみから目の光が消える。
ビシッという音が響き、錬成陣が書かれていた床に無数のひび割れが走った。
ぬいぐるみも見る見る間に朽ちていき、最後はただの焼け焦げた塊になってしまった。
その様を見て、二人は理解した。
すべてが夢だった訳ではなかったのだ。
ミリーナが館に魂を宿していたのは間違いない。だとすれば・・・。
「お前がすべて見せていたんだな、ミリーナ。
すべて、お前のこうなればいいという願望だったんだ。
ごめんな、帰ってきたのが、お父さんじゃなくて。
待ってたんだな。
屋敷が体のお前は、錬成陣が朽ちるまでずっとずっと待ててしまった。
ごめんな、気づいてやれないで・・・・。」
エドとアルは村の残骸に背を向けて、山を下り始めた。
アルがちらりと振り向くと、洋館の入り口だったところで、白いワンピースを着たミリーナと、セスルファムが並んで手をふっているように見えたが・・・・・・・・。
それはきっと、目の錯覚であろう。
夏の1日1話連載小説「錬金術師の住む屋敷」
完