錬金術師が住む屋敷
第九話
「喜ばれてるっていうのに、セスルファムさんはあんまり嬉しそうじゃなかったな。」
「ううん、実はただの医者行為じゃなくて、こっそり錬金術の実験も兼ねていたから、今になって
悪いと思ってるとか。」
「たしかに、あるかもな。
こっそりと人体実験の被験者にしてたって、術者じゃないとばれないし。
あ!」
エドは何か思い出したのか、急に立ち上がった。
「芋を渡すの忘れてた!
俺、ちょっとセスルファムさんに渡してくる!」
言うが早いか、エドは台所の布袋のところまでかけていった。
缶詰の間に、新聞でつつまれたままのジャガイモがもう一つ入っていた。
エドはそれを持って、セスルファムの研究室のドアを叩いた。
「どうかしたのかい?」
中からセスルファムが不思議そうな顔をしてあらわれた。
「いや、店のばあちゃんから、おまけにもらったの忘れてた。
俺はもう食っちゃったから、これ、セスルファムさんの分。」
エドはセスルファムの手の中にジャガイモを押しつけると、そのまま書庫の方へ帰って行った。
セスルファムは、あっけにとられながら手の中の新聞紙のつつみを見る。
「蒸かしたジャガイモ・・・・か。
あの子が好きだったな・・・。」
第十話
「ににににににに兄さん!
起きて起きて!」
「なんだよアルぅ~。
まだ夜じゃ無いかよー」
その夜、エドはいきなりアルにたたき起こされた。
窓の外はまだ完全に暗く、体の調子から考えると午前二時ごろのようだった。
やはり、まだ雨が降っている。
「あんだよー・・・?」
寝ぼけ眼をこすりながら、エドはアルに聞く。
「それが、それが、僕、あの視線の正体をみちゃったとゆーか、気づいちゃったというかその!」
「はあ?
はっきりしないな。
ストーカー野郎でもとっ捕まえたのか?」
「ちがうんだよ!
その、小さな女の子だったんだけど・・・」
「小さな女の子?
そんな子が俺たちのこと見てたのか?
セスルファムさん一人暮らしなのにどこから見てたんだよ。」
「その、ええと、簡単に言うと、お、お化けってやつかなと・・・。」
ざあざあざあざあざあ・・・・
「んな馬鹿な。」
「そうなんだけど、そうなんだけどさあ!
でもやっぱりいたんだよ!僕の目の前で、すう~って消えちゃったんだよ!
わあぁん、ここのお屋敷お化け屋敷だったんだぁ!」
慌てふためくアルをエドがうさんくさそうに見る。
「人間がそう簡単に消えるかよ。」
「ほんとに消えたんだよ!」
「とにかく落ち着いて、1から説明してみろよ。
俺、それを子守歌にもっかい寝るから。」
「薄情者!」
アルはエドの肩をがっくんがっくん振って、眠気を追い出そうとした。
「わかった!わぁかったって!
ちゃんと聞いてやるから、振るのやめろ!」
エドは仕方なく起き上がって、アルと向き合った。
エドとしては、暗いので、アルの赤い瞳だけが闇夜に浮かび上がって、(見慣れているのにもかかわらず)
けっこうホラーに見えた。
「それで何があったって?」
第十一話
「夜の間は兄さんが寝てるから、僕、小さい懐中電灯で、借りた本を読んでたんだけどね。
ドアの外で何かが当たる音がしたんだよ。
コンコンって、感じでさ。
だから、僕、てっきり雨漏りでもしてるのかと思ったんだよ。
ここの建物、ずいぶん古そうだから。
だから、簡単なものなら錬金術でどうにかなるんじゃ無いかって思って、外に出たんだ。
そしたら・・・・。」
「女の子がいたってか?」
「ううん。
セスルファムさんが、廊下の雨漏りを心配して見に来てた。」
「なんだよそりゃ!
かなり普通じゃねえか!
あー寝るぞもう!」
「あ、あ、違うんだって!これから!これからなんだよ!」
寝ようとしたエドをアルが必死になって止めた。
「とりあえず、まだ大丈夫って、セスルファムが帰ろうとしたんだけどね、おやすみっていって通り過ぎたセスルファムさんの、う、後ろに!
いたんだよ、女の子が!」
「んじゃあ、あれか?
セスルファムさんは、一人暮らしじゃなくて、秘密にして隠してる住人がいるってことなのか?」
「そうじゃないんだよ、なんか違うんだよ。
なんか半透明とゆーか、ふわふわしてるんだよ。
白いワンピース着た女の子が、ふわふわしながらセスルファムさんの後をくっついていくもんだから、
僕驚いちゃって、その子何なんですかってきいたら、セスルファムさん、きょとんとして、何のことかって、
訪ねてきたんだ。
僕の言ってることがよくわからなかったのか、きょろきょろしてた。
これって僕にしかみえてなかったってことだよね!?」
「あーどうだろうな、本当にお前にしか見えてなかったのか、それとも、セスルファムさんが、見えない振りをしていただけなのか。」
「なんで僕にしか見えない振りをしなくちゃいけないのさ。」
「セスルファムさんは、確実にあの視線の正体を知っていたけど、なんでか俺たちには教えてくれない。
つまり、視線の正体を秘密にしておきたいんだろ?
かなり疑わしくて怪しげな女の子が、秘密にしたい視線の正体だとして、そいつをつれてるときに、おまえとうっかりかちあっちまったとしても、お前しか見えないとなりゃあどうにでも言い訳できるじゃないか。」
「ううん、まあ、たしかにそうかもしれないけど。」
「そういえば、なんでお前はそいつが視線の正体だと思ったんだ?」
「ああ、うん、セスルファムさんは、首をかしげながら、女の子を背中にくっつけてかえっていったんだけど、
その途中でその女の子が振り向いて、僕を見たんだよ。
その時の視線が、あの視線だったんだ。
それで、僕があっと思った時に、もう姿がすーっと消えていったんだよ」
エドは、アルの話を聞きながら、大あくびをした。
「兄さん!本気で聞いてないでしょ!」
「わかったよ、そこまで言うんなら、明日セスルファムさんに聞いてみようぜ。
それなら、はっきりするだろ?」
第十二話
すっかり目が覚めてしまったエドは、アルにぶつからないようにしながらベッドから降りた。
「どうしたの?
兄さん。」
「んー、ちょっくら便所。」
「ひ、一人で大丈夫!?」
「一人が怖いのはアルの方だろ。
おとなしく部屋にいろよ。」
そう言うと、エドはシャツをめくってお腹をかきながら、ドアを開けた。
暗い廊下が部屋の左右に伸びている。
左側に行くとすぐに行き止まりで窓があり、右側に行くと玄関や居間、トイレなどの方に続いている。
建物全体はT型をしており、上の横棒の左端の場所が、エドたちがいる客間だ。
まっすぐ行くと玄関ホールで吹き抜けになっていて、壁に寄り添うように階段があり、使われていないという二階に続いている。
玄関ホールで曲がらずに行くと、セスルファムの自室。
玄関ホールを曲がると、廊下が続き、廊下の左側に居間、書庫、研究室が、右側に台所とダイニングがある。
そして階段の裏に隠れるようにトイレがあった。
エドはトイレで用を足すと、洗った手をシャツで拭きながら出てきた。
「あれでアルも恐がりなんだよな~」
独り言をしみじみつぶやいたエドは、部屋に戻ろうとした。
ごとん・・・・
「ん?」
エドは、重いものが動くような音に気がついて、足を止めた。
音は誰もいないはずの居間から聞こえた気がしたが・・・。
「・・・まさか泥棒じゃないだろうな。」
エドは、居間のドアに耳を当てる。
今のところ音はしないが、こちらの気配に気がついて隠れているのかもしれない。
エドは思い切ってドアを開けた。
そこには、目が・・・。
そのとき、
ぴしゃぁぁぁぁぁん!
雷が外を明るく照らし出した!
白い光が、カーテン越しに、部屋を照らし出し
部屋の真ん中にいるものも、克明に浮き立たせた。
つづく
「喜ばれてるっていうのに、セスルファムさんはあんまり嬉しそうじゃなかったな。」
「ううん、実はただの医者行為じゃなくて、こっそり錬金術の実験も兼ねていたから、今になって
悪いと思ってるとか。」
「たしかに、あるかもな。
こっそりと人体実験の被験者にしてたって、術者じゃないとばれないし。
あ!」
エドは何か思い出したのか、急に立ち上がった。
「芋を渡すの忘れてた!
俺、ちょっとセスルファムさんに渡してくる!」
言うが早いか、エドは台所の布袋のところまでかけていった。
缶詰の間に、新聞でつつまれたままのジャガイモがもう一つ入っていた。
エドはそれを持って、セスルファムの研究室のドアを叩いた。
「どうかしたのかい?」
中からセスルファムが不思議そうな顔をしてあらわれた。
「いや、店のばあちゃんから、おまけにもらったの忘れてた。
俺はもう食っちゃったから、これ、セスルファムさんの分。」
エドはセスルファムの手の中にジャガイモを押しつけると、そのまま書庫の方へ帰って行った。
セスルファムは、あっけにとられながら手の中の新聞紙のつつみを見る。
「蒸かしたジャガイモ・・・・か。
あの子が好きだったな・・・。」
第十話
「ににににににに兄さん!
起きて起きて!」
「なんだよアルぅ~。
まだ夜じゃ無いかよー」
その夜、エドはいきなりアルにたたき起こされた。
窓の外はまだ完全に暗く、体の調子から考えると午前二時ごろのようだった。
やはり、まだ雨が降っている。
「あんだよー・・・?」
寝ぼけ眼をこすりながら、エドはアルに聞く。
「それが、それが、僕、あの視線の正体をみちゃったとゆーか、気づいちゃったというかその!」
「はあ?
はっきりしないな。
ストーカー野郎でもとっ捕まえたのか?」
「ちがうんだよ!
その、小さな女の子だったんだけど・・・」
「小さな女の子?
そんな子が俺たちのこと見てたのか?
セスルファムさん一人暮らしなのにどこから見てたんだよ。」
「その、ええと、簡単に言うと、お、お化けってやつかなと・・・。」
ざあざあざあざあざあ・・・・
「んな馬鹿な。」
「そうなんだけど、そうなんだけどさあ!
でもやっぱりいたんだよ!僕の目の前で、すう~って消えちゃったんだよ!
わあぁん、ここのお屋敷お化け屋敷だったんだぁ!」
慌てふためくアルをエドがうさんくさそうに見る。
「人間がそう簡単に消えるかよ。」
「ほんとに消えたんだよ!」
「とにかく落ち着いて、1から説明してみろよ。
俺、それを子守歌にもっかい寝るから。」
「薄情者!」
アルはエドの肩をがっくんがっくん振って、眠気を追い出そうとした。
「わかった!わぁかったって!
ちゃんと聞いてやるから、振るのやめろ!」
エドは仕方なく起き上がって、アルと向き合った。
エドとしては、暗いので、アルの赤い瞳だけが闇夜に浮かび上がって、(見慣れているのにもかかわらず)
けっこうホラーに見えた。
「それで何があったって?」
第十一話
「夜の間は兄さんが寝てるから、僕、小さい懐中電灯で、借りた本を読んでたんだけどね。
ドアの外で何かが当たる音がしたんだよ。
コンコンって、感じでさ。
だから、僕、てっきり雨漏りでもしてるのかと思ったんだよ。
ここの建物、ずいぶん古そうだから。
だから、簡単なものなら錬金術でどうにかなるんじゃ無いかって思って、外に出たんだ。
そしたら・・・・。」
「女の子がいたってか?」
「ううん。
セスルファムさんが、廊下の雨漏りを心配して見に来てた。」
「なんだよそりゃ!
かなり普通じゃねえか!
あー寝るぞもう!」
「あ、あ、違うんだって!これから!これからなんだよ!」
寝ようとしたエドをアルが必死になって止めた。
「とりあえず、まだ大丈夫って、セスルファムが帰ろうとしたんだけどね、おやすみっていって通り過ぎたセスルファムさんの、う、後ろに!
いたんだよ、女の子が!」
「んじゃあ、あれか?
セスルファムさんは、一人暮らしじゃなくて、秘密にして隠してる住人がいるってことなのか?」
「そうじゃないんだよ、なんか違うんだよ。
なんか半透明とゆーか、ふわふわしてるんだよ。
白いワンピース着た女の子が、ふわふわしながらセスルファムさんの後をくっついていくもんだから、
僕驚いちゃって、その子何なんですかってきいたら、セスルファムさん、きょとんとして、何のことかって、
訪ねてきたんだ。
僕の言ってることがよくわからなかったのか、きょろきょろしてた。
これって僕にしかみえてなかったってことだよね!?」
「あーどうだろうな、本当にお前にしか見えてなかったのか、それとも、セスルファムさんが、見えない振りをしていただけなのか。」
「なんで僕にしか見えない振りをしなくちゃいけないのさ。」
「セスルファムさんは、確実にあの視線の正体を知っていたけど、なんでか俺たちには教えてくれない。
つまり、視線の正体を秘密にしておきたいんだろ?
かなり疑わしくて怪しげな女の子が、秘密にしたい視線の正体だとして、そいつをつれてるときに、おまえとうっかりかちあっちまったとしても、お前しか見えないとなりゃあどうにでも言い訳できるじゃないか。」
「ううん、まあ、たしかにそうかもしれないけど。」
「そういえば、なんでお前はそいつが視線の正体だと思ったんだ?」
「ああ、うん、セスルファムさんは、首をかしげながら、女の子を背中にくっつけてかえっていったんだけど、
その途中でその女の子が振り向いて、僕を見たんだよ。
その時の視線が、あの視線だったんだ。
それで、僕があっと思った時に、もう姿がすーっと消えていったんだよ」
エドは、アルの話を聞きながら、大あくびをした。
「兄さん!本気で聞いてないでしょ!」
「わかったよ、そこまで言うんなら、明日セスルファムさんに聞いてみようぜ。
それなら、はっきりするだろ?」
第十二話
すっかり目が覚めてしまったエドは、アルにぶつからないようにしながらベッドから降りた。
「どうしたの?
兄さん。」
「んー、ちょっくら便所。」
「ひ、一人で大丈夫!?」
「一人が怖いのはアルの方だろ。
おとなしく部屋にいろよ。」
そう言うと、エドはシャツをめくってお腹をかきながら、ドアを開けた。
暗い廊下が部屋の左右に伸びている。
左側に行くとすぐに行き止まりで窓があり、右側に行くと玄関や居間、トイレなどの方に続いている。
建物全体はT型をしており、上の横棒の左端の場所が、エドたちがいる客間だ。
まっすぐ行くと玄関ホールで吹き抜けになっていて、壁に寄り添うように階段があり、使われていないという二階に続いている。
玄関ホールで曲がらずに行くと、セスルファムの自室。
玄関ホールを曲がると、廊下が続き、廊下の左側に居間、書庫、研究室が、右側に台所とダイニングがある。
そして階段の裏に隠れるようにトイレがあった。
エドはトイレで用を足すと、洗った手をシャツで拭きながら出てきた。
「あれでアルも恐がりなんだよな~」
独り言をしみじみつぶやいたエドは、部屋に戻ろうとした。
ごとん・・・・
「ん?」
エドは、重いものが動くような音に気がついて、足を止めた。
音は誰もいないはずの居間から聞こえた気がしたが・・・。
「・・・まさか泥棒じゃないだろうな。」
エドは、居間のドアに耳を当てる。
今のところ音はしないが、こちらの気配に気がついて隠れているのかもしれない。
エドは思い切ってドアを開けた。
そこには、目が・・・。
そのとき、
ぴしゃぁぁぁぁぁん!
雷が外を明るく照らし出した!
白い光が、カーテン越しに、部屋を照らし出し
部屋の真ん中にいるものも、克明に浮き立たせた。
つづく