このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

錬金術師が住む屋敷

夏の1日1話更新
連載小説

「錬金術師の住む屋敷」

第1話

「迷ったな」
「迷ったね」

エドとアルは山の中をさまよい歩いていた。
この先の村に、かなりの実力がある錬金術師、セスルファムという人物がいると聞きつけて山に入ったいいものの、地図もなく、道も見失い、二人はただ前に突き進むしか無い状態になっていた。

「あー、そろそろつかないかな・・・。
天気まで悪くなりかけてるし。」

エドが、木々の間から、空を見上げると、黒雲が模様を描いて空を覆い尽くしているのが見えた。

「山の天気は変わりやすいって言うし、崩れなきゃいいんだけどね」

アルが心配そうにいったとたん、不吉な音が二人の耳に届いた。

ごろごろごろ・・・・

「・・・雷、今鳴らなかったか?」
「・・・うん、雷だと思う・・・。
急ごうよ兄さん!」

二人は慌てて獣道をかき分けたが、雲のスピードにはとうていかなうはずも無く、
雷の音はだんだんと近づいてきているようである。

そして、ついに・・・

ぴぃっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあん!!

「ひぃ~~!!」

エドとアルが進んでいた獣道の、脇に立っていた高い杉に、雷が直撃した!
真っ白い光が杉を引き裂き、てっぺんから根元までを真っ二つにしていた。
目の前で雷が直撃したのを見て、唖然としていた二人に、今度は大粒の雨が降り注いだ。


「うわっ!
ついに降り出したか!
アル、血印大丈夫か?」

「う、うん、一応、山に入る前にカバーかけておいたから、今のところは大丈夫だけど、

はやく村を見つけないと、兄さんも風邪引いちゃうね。」

二人は、豪雨の名に恥じない雨の中を、村を探して闇雲に走り回った。

「アル!あそこに道みたいのがあるぞ!」

エドが指さしたさきには、たしかに轍(わだち)の跡がある道が、森のさらに奥に延びていた。

「とにかく、ここの道をいけば、何かしらの建物につけるだろう。
そこで雨宿りさせてもらおうぜ!」

二人は轍の跡をたどり、走り出してすぐだった。
突然、森の中にお化け屋敷のような洋館が現れたのだ。
轍もその洋館の前まで伸びて終わりになっている。

「ちょうどいい、ちょっと雨宿りさせてもらおうぜ!」

第二話

エドとアルは、エントランスのひさしの下に逃げ込むと、一息つくことができた。

「あー上からしたまでぐっちゃぐちゃだ。
パンツのなかにまで水しみてやンの。
アルの血印はどうにか無事みたいだな。」

「うん、どうにかね。
でもぼくの足のパーツの中に泥が入り込んじゃったのか、すごく歩きにくいよ。」

雨粒はさらに強く大きくなり、まるで滝の中にいるかのようだった。
しばらくは出られそうにない。

「ここ、人がすんでるのかな?」

アルが玄関の扉を見ながら言った。
重厚な木の扉で、真鍮のドアノッカーや取っ手がついている。

「ほこりもついてなさそうだし。
もしかしたら住んでるのかもな。
なかで少し休ませてもらえないかな?」

エドは、真鍮のドアノッカーを二回叩いた。

「すみませーん。ごめんくださーい。
誰か、いませんかー?」

しかし、エドの問いかけに屋敷内は静かなままだった。

「留守なのか、それとも誰もいないのか。
誰もいないんだったら、ドアぶっ壊して中にはいっちまおうかな・・・」

不穏なことを言い出したエドを、アルは慌ててとめた。

「兄さん!さすがにそれはまずいでしょ!」
「えー?そうか?
錬金術で治しておけばいいじゃねえか。
泥棒に入る訳じゃ無いんだから。」

エドはやるきまんまんで両手を合わせる。
その時、エドはかすかな視線を感じた。
あれっと、思ったとき、目の前の扉が開いた。

「どなたかな?」

扉の中からは、中年ほどの白髪の男性が現れた。
エドは、慌てて両手を放した。

「あ、すみません、突然!
俺たち、この先にあるっていうニーネックっていう村のセスルファムって人に会いに行くところだったんだけど、
大雨にたたられちまって・・・。」

「すみませんが、少しの間、雨宿りさせていただけませんか?」

男性は少し驚いたようだったが、二人を快く迎え入れてくれた。
男性はタオルを二人分出してきてくれたばかりか、空いている部屋に二人を通してくれたので、エドは服を着替えて、アルの鎧の掃除をすることができた。

「ああ、すっきりした!」
「うん、僕も!いい人でよかったね!」
「お礼言いに行かなきゃな」

エドとアルは部屋を出たところ、男性とちょうど廊下で行き会った。

「おや、今から君たちをお茶に誘おうかと思っていたんだが・・・。
君たちの方から来てくれるなんてね。
暖かいお茶が入ったんだ、二人ともどうかな?」

第三話

エドとアルは男性に連れられて居間に案内された。
部屋の真ん中には絨毯が敷かれ、応接セットがおかれている。
棚には熊のぬいぐるみが、壁には大きなタペストリーが飾られていて、細かな刺繍で鮮やかな模様を描きだしていた。
応接セットの大きなテーブルに、三人分のお茶が用意されていた。

「どうぞ、召し上がれ、まあ、あまりたいしたものは出せないんだけどね。
いい香りがでているといいのだが・・。」
「ありがとう、いただきます!」

体が冷えていたエドは、すぐさま飛びついた。
エドは一気にお茶を飲み干す。

「あー、あったまった!
十分おいしかったよ。
おっちゃんありがとな、助かった。
中に入れてもらえなかったら、今頃風邪引いてたところだったぜ。」

男性は、エドに笑いかけた。

「こちらこそ、わざわざ私を訪ねてきてくれたお客さんを、雨の中に立たせておくわけにはいかないからね。」
「え?」

思わず、二人はきょとんとしてしまう。

「名乗り遅れてしまったが、私が君たちが探していたセスルファムだ。」

探していたセスルファム氏が目の前の男性だと知り、エドは驚いてしまった。

「そ、そうだったのか!
あ、すみません、俺、エドワード・エルリックです。
こっちは弟のアルフォンス。
俺たちも錬金術師なんだけど、あなたが肉体系の研究者だってきいて、文献なんかを見せてもらえないかと思って来たんだ。
あなたの研究を見学させてもらえないかな?」

セスルファムは少し考えるそぶりを見せたが、最後は二人にむかって頷いた。

「・・・わざわざ来てもらったしね、できる限りのことはしよう。
君たちの力になれるかどうかは解らないが。」

「ありがとう!セスルファムさん!」

セスルファムは二人を書庫や研究室に案内してくれた。
書庫には、大きな棚に古くて貴重な文献がたくさん陳列されており、研究室には、大きな机に実験道具や資料が山積みになっていた。
ごちゃごちゃした部屋を二人に見せ、セスルファムは、少し恥ずかしそうにした。

「お客さんがくるんなら、もっと掃除をしておけばよかったね。」

セスルファムは申し訳なさそうにつぶやいたが、二人は目を輝かせていて、聞いていない。
書庫に戻ってきた二人は、早速中を物色し始めた。

「うわ、すっげ!
セントラルの中央図書館にも無かった本が、上下巻そろってる!」
「すごい!
兄さん、こっちには先生が昔からずっと読みたいんだって言ってた本が、ちゃんと完結まで番号順にあるよ!」

二人のあまりの喜びぶりに、セスルファムの方が驚いてしまった。

「ここにある本なら、好きなだけ読んでいいよ。
雨もまだまだ止みそうにないしね。
私は研究室にいるから、なにかあったら声をかけてくれるかな?」

しかし、二人は聞いているのかいないのか、本の海にこぎ出してしまっている。

二人は思い思いの本を棚から取り出して、床に座り込んで読みふけりだしていた。
セスルファムは苦笑すると、静かに部屋から出て行った。

第四話

どれくらい時間が過ぎたのだろうか。
エドとアルは床に本の小山を作り出し、埋もれるようにまだ本を読んでいた。
暗くなり、文字が見えなくなりかけたので顔を上げると、ちょうど居間の柱時計が5時を告げるところであった。
外の雨は未だ本降りで、雨のせいで暗くなるのが早いようだった。
エドは本にしおりをはさんで傍らに置くと、腕を伸ばしてのびをした。

「あー、だいぶ読んでたな
アルはなんかおもしろいもの見つけたか?」

アルは本から顔を上げた。

「うん、先生が読みたいって言うだけあって、すごく読み応えあるよ。
兄さんは?」

「うん、すごいおもしろかった。
ここは宝の山だな。
セスルファムさんは、すごい書庫もってんな。」

二人は小山にしていた本を棚に片付けながら、お互いに読んだ本の感想を言い合った。


「セスルファムさんの屋敷があるんだから、村も近いんだろうな。
宿やってるところがあるか、聞いてみよう。」

二人はセスルファムの研究室の扉をノックすると、セスルファムはすぐに中から出てきた。

「おもしろい本はあったかい?」
「うん、すごい本ばっかりで、読み応えあって、セスルファムさんの書庫はすごいな!

それで、また明日読みに来させてもらおうと思って、挨拶しにきたんだ。
この先に村があるんだろ?そこで宿やってるところってある?」

セスルファムは、少し考えたが、残念そうに言った。

「いや、この先の村には宿はないね。
さっきの部屋でよければ、泊まっていってくれてもかまわないが。」

「え!でも迷惑じゃないか?」
「いや、もともと一人暮らしだし、君たちがいてくれれば賑やかになるからね。
食べ物は少し心許ないが、缶詰でよければ一応買い置きもあるし。
私は迷惑じゃないよ」

二人は勢いよく頭を下げた。

「すみません、じゃあ、よろしくお願いします!」

三人は、買い置きの缶詰を少し暖めただけの食事を作ると、テーブルに並べて食べ始めた。
しかし、鎧のアルは食べることができない。
セスルファムは小首をかしげた。

「どうかしたのかい?アルフォンス君冷めてしまうよ。」
「え、あ、いやその!」

慌てて言い繕ろうとするアルだったが、エドは止めた。

「たぶん、しばらくやっかいになるんだから、セスルファムさんには言っておいた方がいいと思う。」
「兄さん・・・」

話が見えないセスルファムの前で、エドはオートメイルを見せた。

「セスルファムさんを信用して明かす。
俺たち、禁忌を犯しているんだ。
俺は右手と左足を、アルは体を持って行かれた。
だから、アルはものが食べられないんだ。」

ざわ・・・・っ

『!?』

エドが言った瞬間、居間の雰囲気が一瞬変わった。
二人は、身震いするほどの強烈な視線をどこからか感じたが、周りを慌てて見回しても三人の他には人間はいなかった。

二人はセスルファムに視線を戻す。
二人の目の前で、セスルファムは平然としていた。

「そうか、それは悪かった。
アルフォンスくんの事情はよくわかったよ。
だから、お茶も手がつけられなかったんだね。」

セスルファムは謝ると、再び缶詰を口に運んだ。
先ほどの視線に気をとられたままの二人に、セスルファムは言う。

「大丈夫、君たちに危害を与えるようなものではないよ。
気にしなくていい。
すまないね。」



続く
1/5ページ
スキ