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万雷の白虎

第17話



都会の一駅は短い。

十キロ二十キロ駅がない田舎に比べると圧倒的に短い。

イーストの列車の隣駅は四キロ先にあり、辻馬車でもすぐであった。

駅前の辻馬車のロータリーに降り立ちながら、エドは周りを見渡す。

「ふう、着いた着いた。

すぐだっていっても、結構乗ってたな。

ここら辺の情報知ってるなんて、あのフォートレスってやつ、情報通だな。」

エドに続いて辻馬車を降りながら、ダグラスが言う。

「ああいった子供には、彼らなりのネットワークがあるのですよ。

彼らにとっては、情報は命綱ですからな。

情報があれば駆け引きの材料になったり、逃げるタイミングをはかったりできる。

特に仲間が殺された事件の直後ですから、絶対に情報を集めていると思いましてな。」

そのまた後ろから降りてきたアルは少しばかりご立腹ぎみであった。

「まったく、今回僕、おざなりじゃない?

待ちぼうけにされたり、勝手に話し進められたり!

こっちに調べに来るのだって相談されなかったし。

やんなっちゃうよ全く。」

「悪かったよ。アル、機嫌直せって。」

アルが怒ると怖いことを知っているエドは、身振りを交えながら謝った。

エドがアルに謝っている間に、ダグラスは通行人に聞き込みをして、事件のおきた場所を聞き出した。

「ここからさほど遠いところではないようです。」

ダグラスの仕事の速さに驚きながら、エドは頷いた。

「よし、そこまでいってみよう。

事件現場に入れるかどうかは分からないけどな。」

所々で道を尋ねながら、三人は事件が起きたという家に向かう。

「殺された人間は、この町で便利屋として重宝されていた錬金術師のようですな。」

先ほど道を尋ねた時に聞いてきたのだろう、ダグラスが教えてくれた。

それを聞き、エドは少し考え込む顔になる。

「それは、ようやく、虎が錬金術師専門の殺し屋らしい仕事をしたってことなのかな。

まだ虎が犯人だと確定した訳じゃないけど。」

虎が犯人かどうか定かではない。それならとアルが続けた。

「虎が犯人なら、マークがあるはずなんだよね。

調べている軍人さんに尋ねられないかな?」

近くまできてみると、事件現場の家はすぐにわかった。

捜査のための軍人がその屋敷の前にたくさんいたからだ。

黄色いテープが貼られて、立ち入り禁止になっているその家は、こぎれいな建物だった。

そこそこの広さがあり、デザインもなかなかしゃれている。

住人のセンスの良さがうかがえた。

エドたちは中にどうやって入れてもらうか考えたが、結局、正面から堂々と訪ねることにした。

現場で指揮をとっていた責任者の少尉に銀時計を見せ、事情を説明すると、その少尉はすぐに中に案内するといってくれた。

「殺されたのは、この家にすんでいた錬金術師と娘です。

錬金術師の名前はロベルト・ウーフー、29歳、娘はジェニー、5歳。

妻は昨年病気で亡くなっていますので、今回の事件とは無関係です。

二人の死因ですが、父親は窒息死、娘は失血死かショック死のどちらかだと考えられらます。

まだ司法解剖がすんでいないので、確実ではないですが。

とにかく現場がひどくて、この事件の犯人はかなり残酷なやつか、相当恨みを持っている人物ではないかと思います。

現場、ご覧になりますか?

あまりオススメはできないような状態ですが。」

それを聞いたエドは少し体を引いた。

「そんなひどい状態なのか?」

エドに聞かれた軍人は、少しげんなりした顔で答えた。

「父親は肺を刺されただけですから、まだそんなにひどくありませんが、娘の方はグロテスクそのものですよ。

戦場でライフルに撃たれた方がよっぽどスマートです。」

ライフル銃といえば、頭を軽く吹っ飛ばせるだけの威力が出せる、中長距離射撃用の銃身の細長い銃のことである。

ライフルで撃たれればかなりひどい状態になるのだが、そのほうがスマートだといわせる現場はどれほどのものなのだろうか。

しかし、ここまできた以上、引き下がる訳にはいかない。

三人は現場を見せてもらうことにした。



第18話

殺人現場は、話の通り凄惨を極めた。

被害者が血を流しながら転がったのであろう床と絨毯は、どす黒い模様が書き足され、過ごしやすかったであろう居間は悪夢を描き出すキャンバスに様変わりしていた。

調度品の至る所に血しぶきが飛び散り、まるでスプラッタ映画のワンシーンだ。

父親の遺体はすでに司法解剖のために移動されていたが、娘の遺体は未だ部屋中に散乱していた。

猛獣に食いちぎられたような断面の小さな指が転がっていたり、生首が片目をなくして空中を見つめていたり、皮を剥がれた大腿部がソファーの上で放り出されていたり、四肢のない胴体の腹が開腹され、臓物が散らばっていたり・・・。

どの部位がなくてどの部位があるのか。見ただけでは判断できない少女の死体は、ブラックジョークにもならないような有様で、部屋に生々しい彩りを添えていた。

「また、子供か。」

エドが顔をしかめながら言った。

「なんてひどい有様。

こんな、あんまりだよ。」

アルがエドの後ろで立ち尽くし、震える声で嘆いた。

エドが近くで捜査をしていた軍人を一人捕まえて尋ねたところ、遺体の手の甲には血で書かれた×があったということだった。

「やっぱり、虎か。

フォートレスのいってたこと、信用がおける情報だったみたいだな。」

「さっそく、先ほどの少尉に協力をあおいで周辺の聞き込み調査をしてもらいませんと。

具体的なイメージがあればそれだけ見つけやすい。」

三人はすぐに案内をしてくれている少尉に聞き込みを命令する。

少尉はすぐにうなずくと、すでに聞き込みに走っている隊に伝令を送ってくれた。

「フォートレスがなかなか正確な情報を得ることができるネットワークを持っているということがわかりました。

彼らに頼んで、彼ら独自の情報網で虎を探した方が早いかもしれません。

彼らに依頼するのも手かとも思いますが。」

ダグラスがそうエドに提案したが、エドは難しい顔をした。

「たしかに、あの兄弟なら手伝ってくれるだろうけど、彼らは一般人、しかも子供じゃないか。

危険なことに巻き込むのはいい気がしないぜ。」

ダグラスはエドの言い分も勿論理解してくれている用だったが、そこは軍人、冷静な分析は時に無情なこともある。

「ごもっともです、しかし、奴らがいつ次の標的に手を出すかわからない以上、今は時間が惜しい。

誰かが殺される前に虎を見つけるべきです。

確かに、軍人たちが聞き込みをしていますが、軍人相手には身構えてしまうもの、有力な情報が手に入らないかもしれない。

もう一つ手を打っておいてもよいかと思うのです。」

ダグラスからは、一刻も早く虎を捕まえたいという気持ちが、手に取るようにわかった。

ロイには手柄が上がらなくてもかまわないといったていたが、やはり長い間追い続けた相手が捕まえられるかもしれないというのは、ダグラスにとって逃しがたいチャンスなのだ。

エドにはダグラスから伝わってくる熱意の意味もよくわかったので、腕を組んで悩んだ。

悩むエドに、さらにダグラスはたたみかける。

「それに、情報を探らせるだけです。

居場所らしき場所特定できれば、それ以上関わらせません。そんなに危険はないでしょう。

我々が悩んでいる間にも、誰かが虎にやられているかもしれないのです!」

ダグラスは、握り拳で力説する。

エドは悩み続けたが、最終的にはうなずいた。

「わかった。

ダグラス中尉がそこまで言うなら、あの三人の力を借りてみよう。

ここの調査はここの軍人たちに任せて、さっきのあたりに戻ろう。

まだ近くにいるかもしれない。」




××××



夢の中で虎は、絶望のあまり、誰にも聞き届けられない絶叫をあげていた。

「いやだ!いやだ!

助けて、痛いのはいやだ!

もう、やめてぇぇ!」

天井には、無影灯。

自分は仰向け。

見下げる二人分の目。

泣き叫ぼうが、暴れようとしようが、動かない体。

ゴム手袋に包まれた手が、虎に見せつけるように鋭い針のついた注射器をちらつかせる。

その注射器の中には、何も入っていない。

シリンダーの部分には、空間が入っている。

空気注射。

危険な針の先が皮膚に突き刺さる一瞬前に、虎はついに利き腕の皮を犠牲にしながら、片腕の拘束具を引きちぎることに成功した。

がむしゃらに雄叫びを上げながら、虎は注射器を持った人物を襲う。

襲われた人物は胸を強く突かれて悲鳴を上げた。

注射器は床に落ちて割れ、その人物は倒れる。

「このケンタイ風情が!」

もう一人の人物が、虎の頭をつかんで、虎を激しく寝ていた台にたたきつけた。

「うあああ!」

堅い寝台にたたきつけられた虎の額からは血が噴き出し、真っ白い実験台を汚す。

勢いよく流れ出た生暖かい血が視界を埋め、虎の目はふさがれてしまった。何も見えない。

怖い、怖い怖い怖い!

いつ、次の注射器が現れて、皮膚の下に潜り込み、血管の中に空気を送り込んでくるか、わかったものではない。

虎の目からは絶望の涙が流れた。

殺される。

涙でも、次々流れてくる血を洗い流すことはできない。

ひるんだ瞬間、虎の細い手首が捕まれて、体を実験台に押しつけられた。

「手間取らせヤガッテ。」

腕が露わにされ、その真上で殺気が狙いを定めているのを、虎は目が見えていなくてもはっきり感じ取ることができた。

「とっととクタバレ、お前はタダノ、実験動物ナンダヨ。」

それは死刑宣告だった。

何かが風を切る音が、聴力のすぐれた耳にいたいほど鳴る。

虎は身を固くして、自分の短い人生を呪う。

なんで、俺に、おまえらは、命を与えたんだ。

与えた命なら、自分たちが、勝手に、なくしてもいいと、思ってでもいるのか?

凄まじい衝撃が体を撃つ。

「あぎゃああぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

しかし、死刑宣告により刑を処されたのは、虎に狙いを定めていた男の方であった。



第19話

「くると思って待ってたんだ。

ダグラスの旦那と、金髪のやつと、鎧のあんちゃん。」

粗大ゴミ捨て場に三人が急いで戻ってきてみると、その近くでフォートレスと二人の弟たちが待っていた。

「どうだった?情報、役だったか?」

フォートレスと、マーリン、グリフォンの三人は、木箱に座り、ズボンのポケットから豆のいったもののようなものを、剥きながら食べていた。

うまく剥けないらしい弟たちのために、綺麗に皮が剥けたものをあげているところは、さすが兄、といったところだろうか。」

ダグラスがいち早く三人を見つけると、肩を怒らせながらずんずんと近づく。

「ああ、確かにワシたちが探していた人物のようだったわい。

ワシたちはおまえたちを信頼しよう。

信頼した上で頼みがある。

おまえたちのその情報網で、虎と灰ネズミの情報をもっと集めてきてほしい。

ちゃんと、仕事として金をはらうぞ。」

ダグラスが言うと、フォートレスは木箱から立ち上がり、豆の渋皮を叩いた。

「まかせとけ、ダグラスの旦那。

俺たちだって、仲間を殺したやつをみすみす逃がしたりなんかしない。

ダグラスの旦那は、話がわかるやつだと思ったぜ。」

フォートレスは得意げに笑うと、腕を組んでダグラスを真正面から見上げた。

威圧感させ漂わせるダグラスを、臆せずに見上げられるとは、たいした胆力である。

「ここらへんに潜んでいるはずの虎と灰ネズミについて調べてもらいたい。

虎は危険な男だ、油断するなよ。」

フォートレスは、胸をはった。

「まかせておけ、見慣れない変な髪の男と、貧相なスリの二人組だろ。

簡単だぜ。」

ダグラスは懐から硬貨をを取り出し、フォートレスに向かって指ではじいた。

「前金としてとっておけ。

有益な情報を持ってきたら、三倍払ってやる。」

フォートレスが受け取ったのは、アメストリスで流通しているセンズ硬貨のもっとも価値のあるものだった。

「わかった、情報がわかったら、どこに教えに行けばいい?」

エドは少し悩んだが、ホテルと東方司令部の二カ所の住所と電話番号を教えた。

「電話は使うかどうかわからないけど、一応教えておく。

ホテルも東方司令部も、鋼の錬金術師あてだっていえば話を通してくれるようにいっておくから、情報がはいったら教えてくれ。」

フォートレスは、いたずらを考えついた子供のように笑う。

「ははは、こんな薄汚いガキがちゃんと正規の用事で東方司令部に行くことになるなんてな。

きっと一生に一度だろうな。」

「東方司令部には、ハルトのやつもいるぜ。」

エドがいうと、フォートレスは柔らかく笑う。

「へへへ、そうだな。

あいつも死んだかと思ってたけど、生きていてよかった。

今あったらきっと余計寂しいだろうから、おまえらの仕事が終わったら会いに行くことにする。

じゃあ、さっそく仕事しにいくぞ、マーリン、グリフォン!」

フォートレスが、そう言って弟二人を引き連れて走り出すと、すぐに街角に消えた。

「さて、遠回りはしたけど、残る二カ所の怪しい場所、見に行ってみるか。」

「そうだね、でも、なんだか昨日のあれのせいで、何かありそうでなんだか怖いなぁ」

アルは少し気が重そうだ。

「なんなら、ホテルで待っていてもいいんだぜ?」

一般人であるアルに無理をさせたくないのだろう、エドは心配したようにいったが、アルのほうが頷かなかった。

「だいたいそういう間に兄さんってば怪我するんだもん。

待ってる方が心配だよ。」

肩をすくめて言ったアルの言葉を聞いて、ダグラスは笑った。

「どちらが兄だか分かりませんな、鋼の錬金術師。」

「俺の方が兄っ!」

ダグラスが快活に笑うのを、エドは蹴っ飛ばしてやろうと頑張ったが、ダグラスは簡単によけてしまう。

結局捕まえられなかったエドは少し悔しそうな顔をしながら、馬車でつぎの場所に向かうのだった。






第20話


ダグラスが目星をつけた二カ所目の場所は、はやらなくなった住宅地だった。

団地を作った頃はたくさんの入居希望者がいたのだろうが、今となっては過去の繁栄で空き家も多く点在している。

雑木林を伐採して作った宅地らしいので、周りは手入れされていない林に囲まれており、じめじめしたイメージである。

エドとアルとダグラスは、団地の入り口でその住宅地を見渡していた。

「なんともまあ、悪いことがあってもおかしくないようなところだな。」

エドはあきれたような顔で、区分けされた家々を見渡す。

空き家は一見しただけで手入れされていないとわかるほど草ボウボウで、煉瓦作りの建物の表面には、ツタが生い茂っている。

「とりあえず、奥の方にまでいってみますか。

住民がいたら、話を聞いてもいいですし。」

「そうだな、そうしようか・・・。」

エドたちが団地の中に入り少しいったところに道の脇に、小さな公園があった。

三人は、その公園に入り、足を止める。

「・・・・アル、ダグラス中尉。

気がついてるか?」

エドが小声で二人に尋ねる。

ダグラスとアルは小さく頷いた。

「うかつでした。

確認しただけで三丁の銃がこちらを向いております。

みすみす罠の中に飛び込んでしまうとは。」

ダグラスは周囲に視線を走らせながら、苦々しくいう。

「でも、なんで僕たちがこんなに熱烈歓迎されてるんでしょう。

僕たちがここに来るのがわかっていたみたいだ。」

アルも、いつでも対処できるように身構えた。

一瞬の、永遠にも感じる時間が流れた時、公園の向かいの建物の中から、リーゼント頭でスーツを着た男が現れた。

スーツをきているといっても、その雰囲気は確実に気質ではなく、どうも裏の組織の幹部といった面持ちの男である。

表情が隠れるサングラスをかけ、シルクらしいスーツの中に着ているワイシャツは白地に黄色のストライプ。

ネクタイはセンスを疑う奇抜な柄で、かなりずっしりと重たそうでキンキラキンのネクタイピンをつけている。

「どうも、いらっしゃいませ。

お待ちしておりました、暗殺者、虎。」

言葉としては丁寧だったが、その口調が完璧にけんか腰である。

ドスがきいた声の迫力は、ダグラスといい勝負だ。

ダグラスは、しっかりと胸をはり、エドの盾になるように前に出た。

「これは歓迎痛み入る。

しかし、ワシらは虎ではない。」

スーツの男は、やれやれと肩を竦める。

「こんなへんぴなところに、用がない輩が入ってくるわけないだろうが。

ここが貴様らの墓場じゃわれぇ!」

品のない怒声が、三人に向かって飛んできた。

「話を聞いてもらえぬか。

ワシらはけっしておぬしたちに危害を加えにきたわけではない。

おぬしたちが、ワシたちに危害を加えることがなければの話だがな。」

スーツの男は、懐から銃を取り出して、ダグラスの頭に標準を合わせた。

「本当にそうだとしても、おまえたちをおとなしく返してやるつもりは、無いんだよなぁ。」

スーツ男がねっとりした口調でいうと、周りにいた男たちが一斉に銃をエドたちに向けた。

「実力行使しかないか。」

エドが緊張しながら、しかし、楽しそうに言った。

スーツ姿の男が、にやりと笑って叫ぶ!

「撃て!」

言った瞬間、スーツの男も引き金を引いて発砲していた。

周りを取り囲んでいた五十人全員から一斉に銃声があがり、弾幕と土煙で一瞬にして中心部で狙われていた三人の姿は見えなくなってしまった。

「はははははははは、さすがの虎とて人間、一斉に蜂の巣にされてしまえば一巻の終わりだ!」

スーツ男が嬉々として笑いながら叫び、それにつられてその取り巻きたちも、下卑た笑いを浮かべる。

拳銃に込められていた弾を撃ち尽くした後も、しばらく立ちこめた土煙は収まらなかった。

一陣の風が吹き抜けて立ちこめていた粉塵を吹き払ったとき、周囲からはどよめきがおきた。

なかったはずの分厚い壁が、三人がたっていた場所を守って立ちはだかっていたのである。

唖然としている男たちの目の前で、壁は錬成光をきらめかせながらあっという間に土塊に還り、地面に飲み込まれていった。

その後には、何事もなかったかのように立ち、やる気満々の様子で拳をならす、エド、アル、ダグラスの姿。

「さぁぁぁぁぁて、次はこっちの番だぜぇぇぇぇっ!!

鋼の錬金術師の恐ろしさ、とくと思い知れぇぇい!」

今度はエドが、嬉々として言い放ち、三人が一斉に五十人の荒くれ者に飛びかかった。

最初に仕留めた気になっていた荒くれ者たちは、生きていた三人に驚き、浮き足だって、全く統制がとれていなかった。

そんな奴らに、エド、アル、ダグラスの猛攻が食い止められる訳がない。

五十人のごろつきたちは、千切っては投げられ、地面にたたきつけられ、もろに拳を頬に受け、けちょんけちょんに伸されていく。

茫然自失のスーツの男を残して、手下どもが全滅するまで、ものの五分ほどであった。

「さぁて、なんで俺たちに襲いかかってきたのか、洗いざらいはいてもらおうか?」

まるでエドのほうが悪役のような口調で脅しながら、スーツ男に刃の欠けたナイフを突きつけた。

「勘弁してくれ、人違いだったんだ!

襲ったことは謝る、この通りだ、だから見逃してくれぇぇ!」

スーツの男は身も体も忘れて、地べたに這いつくばり、手を合わせてエドに懇願する。

「素直に吐け、なぜこのようなことをしたのだ?」

ダグラスも、鈍色に輝く拳でスーツ男を脅す。

「ひいい、お、俺たち、しょぼい裏組織なんすけど、俺たちの組織の錬金術師が、虎ってん殺し屋に狙われてるってたれ込みがありまして、で、そいつがなにやら軍も捕まえられない名うての殺し屋なんで、討ち取れれば俺たちの組織の名前に箔がつくって、

誘い出して始末しちまおうと思ったんですぅぅぅぅぅ、ごめんなさい!」

ダグラスは、情けない顔で話すスーツ男の話を聞きながら、眉間に指をあててため息をついた。

「ワシたちが虎でなくて、おぬしたち命拾いしたな。

奴ならば、おぬし、今ここで話していることなどできんぞ。

虎は待ち伏せして襲いかかってきた相手を生かしておくほど甘くはないからな。」

ダグラスは拳でスーツ男の頭を一撃して、あっけなく昏倒させた。

「でも、虎の次の標的がわかったな。

この組織の錬金術師だってんなら、罠を仕掛けられないかな。」

ダグラスが難しい顔をした。

「似たようなことを西で行ったことがありますが、うまくいきませんでしたからな。

ワシはおすすめしかねます。」

エドはそう簡単にうまくいかないか、と少し残念そうな顔をした。

「この大量の悪い人たちどうしましょうか、このまま転がしておくのも気が引けますが。」

アルが、周りを見渡しながらいう。

確かに周りはチンピラの山ができていて、このまま放っておくというのも迷惑だろう。

「一番近い軍の詰め所に連絡して、ここの調査などをお願いしてはいかがでしょう。

はたけばたくさん埃がでる輩どもだと思いますので。」

そうダグラスが提案し、エドとアルもそれ以外の手段が思いつかなかったので、その案に賛成するしかなかった。


続く
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