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クリムゾン†レーキ


…70、叡知が集う場所


セントラルにある、国立中央図書館は、アメストリス国内で一般出版された本ならば全て網羅している、まさにこの国において、叡知が集う場所である。

白亜の大理石で作られた美しい建造物は、職人技の粋を極めたもので、国の特別な図書館であることを差し引いても、素晴らしい建物であることに変わりはなかった。

一歩中に入ると、そこは気後れしてしまうほど立派な書棚と、隙間を埋め尽くす本の海が広がっている。

高い天井には、細かな彫り物やフラスコ画が施され、首が痛くなるほど見上げていても見飽きることはないだろう。

その天井の柱は、ギリギリまで本棚であり、柱が本棚なのか、本棚が柱なのかわからないほどだ。

高いところにある本は可動式の階段を使うことになる。

一般には一階と二階の一部が公開されていたが、特別な手続きや、閲覧できる資格があれば、その倍とも言われる禁書の棚を覗くことができる。

磨きあげられたマホガニーの机や書棚が、歴史と利用する人間の多さを物語っていた。

エドはここにくると、国家錬金術師にしか閲覧が許可されていない錬金術書や、医学書を読み漁るのが常なのだが、今日は一般書架の建築便覧や区画整備地図などを熱心に閲覧していた。

両脇に気になった本を山と並べ、確保した席で難しそうな顔をしてページを繰る。

気になった箇所を手帳にガリガリと書き込んで、次々に資料を取り替えた。

「ち、あいつさえ教えてくれれば、こんな真似しなくてもいいのに。」

エドは開いていた資料を、パタンと閉じて眉間にシワを寄せた。

あいつ、とは、もちろんホーエンハイムのことであった。

ホーエンハイムの口添えで図書館に来たため、この広い建物のどこかに本人がいるはずである。

ホーエンハイム曰く、調べたいことがあるそうだが、なんでも知っているような彼が、一体なにを調べたいというのかエドには謎だった。

「ま、聞いてもどうせ教えてもらえないだろうしな。」

エドは膨れっ面で呟きながら、次の資料を開いた。

「エドはこれまたデカイ山を作って。

ちゃんと使い終わったのなら、片付けないと他の人に迷惑だろう。」

「うわっ!本人!?」

エドは図書館であることを忘れて、思わずすっとんきょうな声を出してしまった。

ホーエンハイムは困ったような顔になり、エドを見た。

「こら。

エド、図書館で大きな声はダメだぞ。」

それがまるで幼児をたしなめる口調だったので、エドはカッとしたが、図書館であることを考慮して、小声で怒鳴った。

「誰がところ構わず騒ぎたてるお子さまかっ!

ホーエンハイムがいきなり出てくるのが悪いんだろーがっ!」

ホーエンハイムは苦笑しながら、頬を掻いた。

「そんなお化けみたいに言うなよ。

さすがに俺だって壁抜けはできないぞ?」

「お化けじゃなけりゃ、あんたは妖怪だよ。」

エドは半眼で、ボソッと毒づく。

「傷つくなぁ。」

ホーエンハイムは軽くため息をついた。

「建築や区画整備の資料か、何か発見はあったか?」

気をとりなおしたように、ホーエンハイムはエドが机に築いた本の山を見て尋ねた。

エドは肩をすくめる。

「いいや、めぼしいことは今のところない。

あんたが大人しく、素直に、すっきりすっかりさっぱり話してくれりゃあ、こんな手間はいらないんだけどな。」

エドの剣呑な言い方に、ホーエンハイムは目を伏せ、返答の代わりにエドの頭を撫でた。

「悪いな。

じゃあ、調べものの邪魔にならないように、もうしばらく他をうろついていよう。

また声をかけにくる。」

ホーエンハイムは言い、エドに背を向けて立ち去りかけた。

「ああ、そうそう。」

ホーエンハイムが立ち止まって振り返ったので、エドは片眉を吊り上げた。

「なんだよ?」

「いや、さっきも言ったが…。

ここは特別な許可がなくても入れる一般書架だから。

あまり本を独占して他の人の迷惑にならないようにな。」

そう言うと、ホーエンハイムは行ってしまった。

エドは言われて、自分の席の周りをみわたした。

本棚の一段まるごと持ってきたかのように山積みだ。

もう小声では届かないので、かわりにエドはホーエンハイムの遠ざかる背中を睨んだ。

「それぐらい、言われなくてもわかってらい!」

結局のところ、積んだ本を全て確認してしまったため、入れ替えなければならない。

エドは不貞腐れた顔になりながらも、山になっている本の一角をかかえて返却しに本棚の間を巡った。

「探すのはいいけど、返すのは面倒なんだよなー」

ボヤきながら数回返却を繰り返し、ようやく最初に作った山はハケた。

しかし、返却の途中で見つけた次の本を席に持ち込んだため、新しい山になっている。

「ふぅ、ようやく次の資料を調べられるぜ。」

エドは山の一番上の本を手に取った。

このようなことを数度繰り返し、結局、エドは肩を落としながら本を返却していた。

隅から隅まで、めぼしい本を漁ったが、求めるようなものは見つからなかったのだ。

「見つからねぇー。

くぅ、今まで読書を苦にしたことなかったけど、興味ない本を大量に読むことがこんなに辛いとは、思ってもみなかった。」

エドは抱えた本を棚に全て戻し終え、次の資料を探すために振り向く。

「ん?」

エドは、その時に視線を感じた。

気になって辺りを見渡してみると、隣の棚の列の間から、十歳かそれぐらいだろうか、子供がエドの方をキラキラした目線で見上げている。

エドには、その子供に見覚えがなかったので、熱い視線を向けられる理由が解らず首を傾げた。

子供はエドが自分に気づいたことがわかったのだろう。

エドの方へ、とてとてと小走りに駆けてきた。

「あの、あの、すみません、鋼の錬金術師、エドワード・エルリックさんではないですか!?」

エドは子供が自分の名前を知っていることに驚いた。

「あ、ああ、俺がエドワード・エルリックだけど。

何で俺の名前を?」

子供はきゃあっ!と歓声を上げて、ぴょんぴょんと跳ねた。

「僕、あなたの大ファンなんです!

僕の名前は、セリム。
セリム・ブラッドレイです。

よろしくお願いします、鋼の錬金術師!」



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続く
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