クリムゾン†レーキ
…64、行方を探して
エド、アル、ホーエンハイムの三人は、半場追い出されるように病院から出てきた。
エドは乱暴に頭を掻く。
「あーっ!
ヒューズ中佐たちはどこいっちまったんだぁっ!」
ヒューズ達がエド達に連絡をくれなかったことへの苛立ちと、何かあったのではという不安が、エドの中を駆け巡る。
「しかし、看護婦のあの言い方からすると、病院内で暗殺された訳ではないようだ。
退院して行く当てに心当たりはないのか?」
ホーエンハイムの言葉に、エドは腕を組む。
「うーん、一番戻ってきそうな基地には、帰って来なかったし。
ヒューズ中佐の家かな?
盲点をついて中尉の官舎とか。
あ、アームストロング少佐は行方知らないかな?
連絡して聞いてみよう。」
エドの言葉に、同じように隣で考えていたアルが頷く。
「なるほど、ヒューズ中佐の家族は、今避難しているから、お家なら休めるかもしれないね。
ホークアイ中尉の官舎は、もう他の人が入ってるんじゃないかなぁ。
とりあえず、病院の電話でアームストロング少佐に連絡を入れようよ。」
三人は病院内にとって返し、公衆電話でアームストロング少佐に電話をかけたが、残念ながら外出中とのことだった。
「まさか、少佐まで行方不明じゃないだろうな!?」
嫌な予感を振り払うように、エドは努めて明るくアルとホーエンハイムに言う。
「じゃあ、ヒューズ中佐の自宅に行ってみようぜ。」
★★★★★
「おい!
こら、グリード!
メガネの中佐たち、病院にいなかったぞっ!」
エンヴィーは、地下の基地の中で、ロイ・グリードを見つけるなり指を指して怒鳴った。
ほとんど出会い頭で怒鳴られたロイ・グリードは、一瞬キョトンとしたのち、軽いため息をついた。
「父上があれらの暗殺はしないとお決めになったのに、病院に行ったんだな?
エンヴィー。」
ロイ・グリードにズバリと言い当てられて、エンヴィーはちょっと身を引いたが、すぐに気をとりなおして食って掛かる。
「うるさい!
人間より優れた僕らホムンクルスが、人間になめられっぱなしなのは許せないんだよ!
それよりっ!
あのメガネの中佐が勝手に退院しちゃってたぞっ!
鋼のおちびさんも行方を知らないみたいだった。
このままじゃ人柱の二人も行方不明になりかねないぞ?
あいつら生かしておけば、勝手にどこか行かないっていっておいて、まんまとやられたらグリードの責任だからなっ!?」
エンヴィーが怒鳴り散らすのを煩そうに聞いていたロイ・グリードだったが、実際、エドたちの行方が分からなくなったら困る。
ロイ・グリードは、エンヴィーの文句が一巡した辺りで、背中を向けて立ち去ろうとした。
「こらっ!
どこいくんだよグリード!」
ロイ・グリードは、少しばかり振り向く。
「決まっている。
鋼の達が行方をくらます前に、尾行につく。
奴らの動きの報告、感謝するよエンヴィー。」
グリードの名を持つ彼から、素直な礼の言葉を貰うと思っていなかったエンヴィーは、驚いて言い返す言葉を失ってしまった。
ロイ・グリードはそのスキに、とっとと通路を早足で進んでいく。
「まったく、世話を焼かせてくれる人間どもだ。」
★★★★★
エドたちは、セントラルの住宅街にあるヒューズの自宅にやってきていた。
ヒューズの家には灯りもなく、しばらく人の出入りがないことがすぐにわかる。
そして、ヒューズの家の前には、アームストロング少佐が、家を見上げて立っていた。
「アームストロング少佐!」
エドが驚き混じりに名前を呼びつつ駆け寄ると、アームストロングは驚いたように振り向いた。
「エドワード・エルリック!
それに、アルフォンス・エルリックと、ホーエンハイム氏まで!」
「アームストロング少佐も、ヒューズ中佐を探しに?」
エドが訪ねると、アームストロングは弱り顔で頷いた。
「うむ、実はそうなのだ。
例の基地にも連絡しようと思って訪ねたのだが、先に退院すると聞いていたエルリック兄弟もおらんかったのでな、行き合えてなによりであった。
つい一時間ほど前にヒューズ中佐を訪ねたのだが、すでに退院したと言われてな。
我輩も寝耳に水の話、そのような連絡は受けておらんかった。
退院しても、中佐やハボック少尉の怪我の状態を考えると、休む場所が必要なはず。
思いあたる場所をいくつか回ったのだが、全て外れでな。
最後の望みをかけて、ヒューズ中佐の自宅を訪ねたのだが、ここも空振りだったようだ。」
残念そうにいうアームストロングの話を聞いて、エドは頭を掻いた。
「中佐ったら、アームストロング少佐にまで連絡いれてねーのかよ。」
エドの横で、アルも困った声を出す。
「ヒューズ中佐たちはどこにいってしまったんでしょう。
そんなに遠くにはいけないはずなのに。」
四人は、困ったように頭を捻る。
「アームストロング少佐が、思いつくところはすでに探したっていうし、こういう時に得意だろうマダムは、表だって動けないし。
どうしたらいいんだ。
誘拐とかじゃないといいけど。」
考えが悪い方に転がり始めると、暗い予想しかでてこない。
やがて、アームストロングは、観念したようにため息をついた。
「致し方ない。
行方不明になっている旨を、ヒューズ夫人とエリシア嬢にお伝えするしかないか。」
それを聞いて、エドは顔を上げた。
「そうか、グレイシアさんとエリシアちゃんは、今、アームストロング少佐の家に匿ってもらってるんだっけ。
ヒューズ中佐達がアームストロング少佐の家に向かったってのは、考えられないのか?」
アームストロングの表情は晴れない。
「いや、もともとヒューズ夫人とエリシア嬢に、危険が及ばぬよう我が家に滞在中なのだ。
狙われているとわかっておる中佐達が、会いに行くとは考えにくい。」
エドは、肩を落とす。
「まぁ、そりゃそうだよな」
エドは、厳しい表情でアームストロングを見上げた。
「ヒューズ中佐たちを、巻き込んだのは俺たちだ。
腕を無くしたのも、行方不明になったのも!
俺たちも、一緒についていっていいか?
グレイシアさんに、謝りたいんだ。」
★★★★★
国の大動脈の中心、アメストリス国鉄セントラル駅。
天井は、高い大ホールになっており、その下に何本ものホームがならんでいる。
いくつもの機関車がホームに止まって、ゆっくりと煙を吐きながら、乗客を待ち受けていた。
一日に何万という人間がこの駅を利用する。
そのセントラルの駅には、軍の専用ホームがいくつかある。
そのホームの一つに、黒い車体を唸らせて、列車が滑りこんできた。
何事かと一般人が振り向けば、ホームには出迎えなのだろう。
何人かの軍人が列車の到着を、今か今かと待ち受けていた。
少しずつ速度を落としていく列車は、やがて騒々しいブレーキの音を立て、重い体を停止させた。
蒸気を吹き出し、ホームには石炭の焼ける匂いが新たに加わる。
止まるとすぐに中から、まず係りの者がさっと降りてきて、乗車口のドアを開け、脇に退いて敬礼する。
待っていた軍人たちも、ドアの左右に列をつくり、出迎えのために折り目正しく敬礼した。
軍人達が素早く出迎えの準備を整えた直後、出迎えられる張本人が、列車の中から現れる。
その姿は堂々として勇ましいばかりだ。
外に出るなり、辺りを見渡して、苦々しく文句を言いはなつ。
「まったく、内地の空気は悪くていかん。
そうは思わんか?」
背後を守るように付き従う部下が、頷いた。
「はい、まったくですな。マム。」
列車から降りてきたのは、北壁と名高い女将軍。
オリヴィア・ミラ・アームストロング少将と、バッカニア大尉の二人であった。
クリムゾン†レーキ65へ 続く