クリムゾン†レーキ
…56、最強の矛
エドとヒューズとブレダがラストに挑みかかる!
ブレダが銃でラストの足を撃って足止めをし、その隙にヒューズがラストの心臓向けて投擲ナイフを投げ付けた。
ラストの胸にナイフが突き刺さるとほぼ同時に、エドが錬成した大砲が発射され、ラストに向かって突き進む。
「甘い!」
ラストが体のあちらこちらから錬成光を弾けさせながら、素早く腕を横様に振るうと、ラストに向かって飛んでいた砲弾が、空中で真っ二つに割れた。
砲弾はそのまま感性の法則に従ってラストの脇を掠めると、奥の壁に当たって爆発を起こした。
ラストがニヤッと笑って一歩前に出る。
「私はまだまだ死なないわよ?
さぁ、次は私の番ね。」
背後の爆炎が、ラストを背後から赤く照らし出し、その紅い瞳がより艶やかに煌めく。
普通なら誰も持ちこたえられないはずの猛攻を、あっさりと踏み越えたホムンクルスの実力に、エド達が一瞬怯んだ。
ラストはその隙を縫って前に勢いよく駆け出す。
目指すは、アルと負傷しているハボックであった。
脇を抜けられたエドが咄嗟に振り向く。
「アルっ!」
ラストの目が、獲物を狙う蛇の如く殺気を帯びた。
「させないっ!」
目標はハボックだと直感したアルが、ラストとハボックの間に立ち塞がる。
「邪魔よ!
鎧の坊や!」
ラストはたとえアルが立ち塞がろうと、スピードを緩めはしなかった。
アルがラストに向かって殴りかかると、ラストはその腕を掴んでひねり、アルが殴ってきたそのスピードとパワーを利用して一瞬背中に担ぎ上げ、そのまま床に叩きつけた。
もしも東洋の技を知るものがいれば、一本背負いという名前が思いうかんだであろう。
「あうっ!!」
アルが悲鳴を上げたその隙に、ラストはアルの両足の金具を爪で切断し、立てなくする。
「そこで寝てなさいな。
鎧の坊や。」
これでラストとハボックの間に立ち塞がるものはなくなった。
ラストがハボックに狙いを定める。
「くっ!」
ハボックはどうにか逃げようとして体を起こそうともがくが、意に反して足に力が入らないのか、腕の長さ分しか動けない。
「ジャン。お待たせ。
貴方にはだいぶしてヤられたわ。
私をはめようとしてきた男の中で、一番下手くそで上手だった。
腹立たしいほどに愛してるから、悶えながら死んでちょうだい。」
ハボックの首へラストの爪が降り下ろされる!
「させっかよぉぉおっ!!」
ブレダが叫びながらラストの首を撃ち抜く。
2発目も放とうともう一度引き金を引くが、弾切れだった。
「ちっ!」
ブレダは首を撃ち抜かれて動きが止まったラストから、ハボックを遠ざけようと腕を伸ばす。
しかし、ハボックを助けるより、ラストが復活する方が早かった。
ラストが手首を返して翻した爪は、ブレダの左肩を貫いていた。
「ぐぁぁあぁっ!」
ブレダが血を吹き出す肩を押さえて膝をつく。
「邪魔しないでちょうだいな。」
ラストは冷ややかに言う。
「いいや!
させてもらう!」
エドはラストの足元を錬成し、巨大な拳骨を作ってラストを殴り付けた。
「くっ!」
ラストは仕方なく一旦ハボックから離れ、その拳骨を避ける。
拳骨がラストを掠めた瞬間、指が割れて広がり、ラストを羽交い締めにしようと鎖が飛び出した。
「全く、次々と!」
ラストは向かってきた鎖の束を、全て凪ぎ払う。
刻まれた鎖はただの鉄の破片となった。
「5人のうちすでに3人が負傷者なのに、まだ諦めないというの?」
「悪いね、生きることへの諦めが悪いのが人間なんでね。」
ブレダは、口と右手で軍服のモールを肩口にきつく縛り付け、ラストに貫かれた傷を止血する。
「最後に1人だけになったって、戦うのをやめたりなんざしねぇんだよ!
生き残るためになっ!」
ヒューズがそう言いながらラストに向かって突っ込む。
「特攻とは、ヒューズ中佐も落ちたものね!」
ラストはヒューズを凪ぎ払うために腕を伸ばす。
しかし、ヒューズにラストの爪が届く寸前、ヒューズとラストの間に、錬成光を放ちながら壁が立ち上がり、ラストの爪がヒューズを貫くことはなかった。
ラストは一瞬左腕を引いた後、指を壁へつきだす。
するとラストの5本の爪は壁を貫通し、壁の後ろのものまで突き通した。
壁の後ろにヒューズがいれば、確実に仕留めているタイミングだ。
出前にそびえた壁の向こう側で手応えを感じたラストは、ふっと笑う。
「まずは1人。」
「何が1人なんだ!?」
仕止めたと思っていたヒューズの声が上から聞こえ、ラストは咄嗟に仰ぐ。
「!?」
そこにはヒューズの軍靴の踵が迫っていた。
ラストが避ける間もなく、ヒューズの踵落としがラストの顔面をえぐり、そのまま床に叩きつける。
「くぁっ!!」
ラストの首から鈍い音が聞こえ、壁に爪が刺さったままだったため、肩も外れる。
「ようやく跪いたなぁっ!
ホムンクルス!」
ヒューズがラストの頭を踏みつけながら、見下した口調でいい放つ。
壁の向こうにいるヒューズに向けて、ラストが爪をつきだした時、エドはヒューズの足元に壁を錬成してその体を上に押しあげたのだ。
ヒューズはその勢いと高さを使い、ラストのほぼ真上から踵をお見舞いしたのだった。
「さっき、お前さん言ったよな。
まだまだ死なねぇって。
と言うことは、殺し続ければ、いつか死ぬってことだ。
ラストさんよぉ。
あと何回死にたい?」
ラストの目が、ギョロっ上を向き、ヒューズを睨み付ける。
「その前に貴方が死ぬわよ。
ヒューズ中佐ぁっ!」
ラストの右手の爪が鋭利に伸びた。
ヒューズが咄嗟に飛び退いた時、ラストの爪はヒューズがいた場所と、自分の外れた肩を切り裂く。
爪先が掠めたのか、ヒューズの軍服の前にも、浅い切れ込みが入った。
ラストの切り落とされた右腕は塵になって崩れさり、自由になったラストは立ち上がりながら駆け出した。
狙いはヒューズである。
「ヒューズ中佐!」
エドはヒューズとラストの間に障害物を錬成しようとするが、二人の距離が近すぎる。
ヒューズはラストの爪を掻い潜るように避けるが、10本の刃を全て避けることはできなかった。
ヒューズが身を反らして爪を避けた時、ヒューズの軍服の胸元が縦に切り裂かれ、血が飛んだ。
「っ!」
だが、軍服のおかげで爪はあまり深く達しなかったらしく、ヒューズはそのまま後退し、隠していた最後の投擲ナイフを左手で投げつけながら、右手で懐から銃を抜く。
ラストはナイフを深く身を沈めて避けると、そのままヒューズの懐に入り込む。
そして、ヒューズがつきだしていた左腕を、手首より少し上で切断する!。
「ーっ!!」
ヒューズの目が見開き、切断された腕から血が吹き出した。
切り落とされた手首は、下に落ちる前にラストにもう一度撫でられ、ただの肉塊となって床に散る。
「あ゛ぁぁっ!」
ヒューズが悲鳴とも絶叫ともとれる声を上げてのけ反った。
「てっきりデスクワーク派かと思ったら、なかなか腕が立つのね、ヒューズ中佐。
腕が立つのが運の尽きだわ。」
ヒューズの足がガクッと折れて、床に膝をついた。
一度に大量の出血と、腕を切り落とされたショックでヒューズは喘いだ。
「よくもヒューズ中佐を!」
エドが無我夢中でラストの背中に飛びかかる。
「!
鋼の坊や!」
体勢を崩したラストは、オートメイルの腕で首を羽交い締めにされてヒューズから引き離される。
「おどきなさい!」
ラストの肘鉄がエドの腹に直撃した。
「ぅっ!」
腹を突かれたエドの腕でが一瞬弛む。
ラストはエドの腕を掴んで、力任せに投げつけた。
「いでぇっ」
エドは床に背中から叩きつけられて、数回転がり、アルのすぐ脇でようやく止まった。
「兄さん!
足を!」
痛みで顔を歪めていたエドは、アルの言葉ではっとすると、すぐに両手を合わせてアルの足を直した。
「しまった…!」
ラストが悔しげに睨むなか、アルがしっかりと立ち上がる。
「兄さん、僕はヒューズ中佐の止血をするから、ラストの気を引き付けておいて!」
エドがギョッとした。
「ヒューズ中佐、腕をぶったぎられてんだぞ!?
いくら知識があるったって、生体治療じゃねーか!」
「大丈夫。
僕、父さんに習ったんだ。」
アルの声は緊張していたが、怯えてはいない。
エドは弟に賭けることにした。
「わかった。ヒューズ中佐を頼んだぜ!
いくぞホムンクルス!」
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続く