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クリムゾン†レーキ


…55、最後の名を持つ女



エド、ヒューズ、ブレダ、アル、ハボックは、殺風景な地下通路を必死に進んでいた。

一番先頭をエドが行き、しんがりをヒューズが守っている。

二人に守られながら進むハボックは、最初こそブレダとアルに支えられながらも自力で歩いていたが、進むにつれて、苦しそうに眉をひそめブレダとアルに寄りかかりながら進むようになっていた。

「早く地上に戻って医者にみせねぇと、ハボックがそろそろ限界だな。」

ヒューズは辺りへの警戒は弛めずに、ハボックを横目で確認したあと、苦々しげに言った。

「奥が深そうな通路だ。

入り口があそこだけとは思えないんだがな…。」

ヒューズは自分たちが進んできた通路の後ろに目を凝らした。

所々に小さな明かりがついているので真っ暗な訳ではないが、通路は少しずつカーブしているので、あまり奥まで見張ることができない。

だが、軍人の勘とでもいうのだろうか。

言い知れぬ何かが、息を潜めて接近してきているのを、ヒューズは感じた。

「みんな!

あそこに部屋があるみたいだ!

上への階段かもしれない!」

先頭を行くエドが、通路の途中にある入り口を指差した。

エドが指差した入り口とは、扉はなく、そこだけ通路のコンクリートが、人が通れるくらいに四角く切り取られているものだった。

エドが中を確認して危険がないことを調べると、手で合図して中に入る。

「うわ、なんだこりゃ!

広いな!」

ハボックを支えるブレダが、中にあった空間に驚いて声を上げた。

そこは立方体の形をしただだっ広い殺風景な場所で、入ってきた向かいの壁に石の巨大な扉がある意外は、コンクリートの壁と天井と床があるばかりであった。

「ひゃー、普通のサイズの家なら、余裕で2件ぐらい入りそうだな。」

エドは空間全体を見渡して言った。

何か罠でも仕掛けてないかと思ったのだが、これだけだだっ広くて何もない空間では、待ち伏せや罠があるというのも考えにくい。

エドは走って部屋を横切ると、大きな扉に手をついて、押したり引いたりしてみたが、扉には鍵でもかかっているのか、はたまた、これは扉ではないのか、びくともしない。

「うぎぎぎぎっ!

ダメだ、押しても引いても動かない。

錬成してぶち壊そう。」

エドが硬い扉に手をついてヒューズに言った。

「そうだな…」

「そうはさせないわ。」

ヒューズが頷きかけた時、入り口の方から声がした。

全員が一斉に振り返ると、そこにはラストが立っていた。

構えたヒューズやエドに臆することもなく、ヒールの踵を鳴らしながら近づいとくる。

「止めに入るってことは、どうやらこの先にはなにかあるらしいな。」

ヒューズの言葉に、ラストは髪をかきあげながら答える。

「そうねぇ。

家の玄関を、簡単に壊されちゃたまらないわ。」

ラストは爪を伸ばして、エドたちに突きつけた。

「さぁ。

いらない人間には死んでもらいましょうか。

首を深く突っ込みすぎるから、長く生きられないのよ。

うふふ、生身のころのマスタング大佐みたいにね。」

ラストの言葉に、エド達全員が固まった。

最初にその呪縛から抜け出したのは、ヒューズだった。

「てめぇ、そいつはどういう意味だ…?」

ヒューズの唸るような問いに、ラストは、にたりと笑う。

「あぁ、そう言えば貴方達は知らなかったわね。

ウィルファットで、ハイエストを鋼の坊や達が追いかけていったとき、残った焔の大佐と遊んであげたのは、私よ。

普段ならそのまま殺してしまうのだけれど、彼は人柱候補だったから生かしておいてあげたの。

今はグリードとして、お父様に新しい生を与えていただけたんだから、私に感謝してほしいくらいね。」

ラストが世間話のような軽い口調で言う。

怒りに目をつり上げたヒューズが、ラストに向かって投擲ナイフを投げつける。

ラストはナイフを首を傾けるだけで避け、鋭い目線をヒューズに向けた。

「人が話している時に攻撃するなんて、無粋ね。ヒューズ中佐。」

「うるせぇ」

ヒューズは人が殺せそうな目線をラストに向けた。

「てめぇが…っ!

てめぇがロイを殺しやがったのかっ!」

ヒューズの視線に怯みもしないラストは笑っていた。

「ふふふ、そうねぇ。

グリードは今もちゃんと生きてるけれど。

生身の、オリジナルの大佐を殺したのは私かも知れないわね。」

ラストの言葉に、ヒューズが叫ぶ。

「てっめぇぇかぁぁぁぁあっ!!」

ヒューズは続けざまに3本のナイフをラストに投げた。

ラストは最強の矛で2本のナイフは弾いたが、3本目のナイフが眉間に突き刺さる。

ラストの体がぐらりと傾くが、踏みとどまって眉間に刺さったナイフを引き抜いて床に投げ捨てた。

「やぁねぇ。ヒューズ中佐。一回死んでしまったじゃないの。」

ラストは自分の眉間から流れ出た血を、ペロリと舐めた。

その眉間の傷痕は、錬成光を放ちながらみるみるうちにふさがっていく。

「化け物が…っ!」

ブレダが苦々しく言うと、ラストはため息をつく。

「私は、化け物じゃないわ。

ちゃんと感情がある。知性がある。肉体がある。

人間よ。

私が化け物に見えるのなら、それは貴方達が弱いからだわ。」

ラストは両手の爪を伸ばして構える。

「いいわ。

マスタング大佐の敵をとりたいと言うならかかってくるといい。

このホムンクルス、ラストがお相手してあげるわ。」

ラストはデートにでも誘うかのように、色っぽく手まねいた。

「アル!

悪い、ハボを頼む!」

ブレダはそう言うと、ハボックをアルに預けて、一歩前に出た。

手には銃を構え、怒りを湛えた目でラストを睨んでいる。

「来なさい。

汚れにまみれた人間ども!」

「ロイの敵!」

ヒューズが叫ぶ。

「てめぇ、大佐をよくも!」

エドも両手を合わせて吠えた。

「生きて帰さないのは俺たちのセリフだ!」

ブレダもラストに向けて引き金を引く。

ラストの爪が弧を描く。

「いいわ、ぞくぞくして。

さぁ、皆まとめてかかってきなさい!

愚かさを噛みしめて果てるがいいわ!」

全員の殺気が膨れ上がり、アルはあわててハボックを脇へ避難させる。

人間対ホムンクルスの戦いが、幕を開けた!



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続く
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