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クリムゾン†レーキ


…51、第三研究所

エドとアルとブレダは、出勤時間前の閑散とした道をそろそろと進み、道を隔てたところの建物の陰から第三研究所の様子を伺った。

「中に入る申請をするのは大将だが、護衛という名目なら俺やアルも入れるはずだ。

何せ昨日から軍を動かす動かさないの問答をしちまってるからな、疑われて最初から入れなかったり、中で襲われないとも限らない。

慎重にいこう。」

エドとアルは、ブレダの言葉に了解したとうなずいた。

間近にから見た第三研究所は、軍の施設にふさわしく無愛想だ。

飾り気のないコンクリートの建物は段がついた5階建てで、塀で周りを囲まれている。

入り口は道に面した一ヶ所のみ。

その一ヶ所の入り口には、小さな詰所があり、番兵がいるはずだが、エドたちがいるところからは見えなかった。

「でもブレダ少尉、こんな朝早くじゃ、職員来てないんじゃないか?

取り調べとかするなら、人がいないと困るんだろ?」

「それがな、調べてみたら今日の夜も開けないころに、ここの所長が職員に緊急召集をかけてるんだ。

軍法会議所で抜き打ちかましてそこらへんも問い詰めるつもりだったんだが、どうしても交渉が難航して派手になっちまってる。

きっと検査をされると困る上の奴らが時間を稼いで、証拠隠滅を謀ってるんだろう。

それを危惧したヒューズ中佐が俺をこっちに寄越したんだ。

とんでもない量があるはずだから、まだこのタイミングなら間に合うはずだってな。」

それを聞いたエドは慌てた。

「それなら、早く行かなきゃダメじゃないか!」

しかし、それを止めたのはアルだった。

「でも兄さん、慌てて証拠隠滅をしているなら、もっとなんか慌ただしい雰囲気がありそうだけど、何か…静か過ぎない?」

ブレダもうなずいた。

「そうなんだ。

俺もそれが気になっててな。
もっとトラックとかの動きがあるかと思ってたんだが…。」

辺りは先ほどから静かなままだ。

「…もう逃げたってのは考えられないのか?

とにかく中にいって確認してみようぜ。

人がいたらとっちめればいい。

何にせよ早くしないと!

ハボック少尉が手遅れになっちまったから…!」

エドの言葉に、ブレダはうっと詰まった。

そして仕方がないと頷く。

「わかった。行こう。」

三人は建物の陰を出て、道を渡り、第三研究所にさらに近づいた。

「何か…変な臭いしないか?」

エドの言葉に、後ろについていくブレダも眉を潜める。

「確かにかすかに、何か臭うな…この臭い…まさか…。」

エドは建物の入り口にたどり着き、まず番兵に声をかける為に詰所を覗こうと首を伸ばした。

その瞬間、臭いの元に思い当たったブレダがエドに叫んだ。

「大将!離れろ!」

「え?」

しかし、エドの眼はしっかりと詰所のなかを覗いてしまっていた。

そこでは、黒い軍服を着た番兵が、腹を切り裂かれて血まみれで事切れていた。

「っ!?」

エドが真っ青になって数歩後ずさったのを見て、ブレダが小さく舌打ちする。

「大将!」

エドはブレダに肩を掴まれてはっとした。

「ぶ、ブレダ少尉…!

人が…人が…!」

真っ青なエドから詰所を隠すように前に出たブレダは、警戒しながら中を厳しい顔でのぞきこんだ。

「…こいつはひどいな…。

良く切れる刃物でバッサリやられてる。

ウィルファットの事件の写真も見たが、手並みはあれ以上だ。」

ブレダは言い、道の方へゆっくりと後退した。

「非常事態だ。

いったん下がって応援を呼ぼう。

まだ中に犯人がいるかもしれねぇ。」

三人は先ほど身を潜めていた建物の陰をに引き返した。

ブレダは懐からフュリー特製の小型無線機を取り出す。

「俺は今から連絡を入れる。

二人は建物から誰か出てこないか見張っていてくれ。」

フュリーの無線機は問題なく動き、すぐにブレダが硬い声で連絡をし始めた。

先ほどの不意討ちからずっと顔色の優れないエドに、アルが心配そうに声をかける。

「兄さん、大丈夫?」

エドはどうにか心を落ち着かせながら、アルに頷く。

「あぁ…。

悪い、不意討ちだったから…。」

エドは歯切れ悪く言うと、一度目をぎゅっとつぶって頭を振った。

アルはこれ以上いうと兄が無理をしてしまうのがわかっていたので、目線を兄から第三研究所に移した。

いまだに研究所は静寂に包まれている。

それが余計に恐怖を煽る。

アルは体がないというのに、背筋がぞくりとした。

「…番兵さんがあのようすじゃあ…、まさか、あの研究所にいるはずの人は…」

エドが暗い声で最悪のパターンをぼそりと呟いた。

「や、止めてよ兄さん!

そんなことになったら…、中にいるはずのハボック少尉も…。」

先ほどの番兵のように、腹を切り裂かれ、臓物をのぞかせて、血まみれで倒れるハボックを想像し、エドとアルは口をつぐむ。

エドは不安げな視線で建物を見た。

ハボックが無事なように祈りながら。

その時、ふっと視界のすみで何かが動いた気がして、エドは慌てて目をそちらに向けた。

エドの真剣になった視線に気がついてアルもエドが見ている方へ視線を向けた。

「何か見つけたの?兄さん。」

「今、第三研究所の3階の窓の辺りで何かが動いた気がしたんだ!」

「何!?
犯人か!?」

連絡をしている最中のブレダも、エドの言葉に反応して、第三研究所に視線を向ける。

三人が視線を向けた第三研究所の3階は、囲んでいる塀よりも高いため、三人がいる場所からは、陰になる正面の入り口より、はっきりと見ることができた。

三人が3階の窓に注目していると、一番エド達がいる建物に近い、角部屋の窓にかかっていたカーテンが微かに揺れた。

そしてそのカーテンの陰から現れて、窓を横切った人物がいた。

それは…。

「た、大佐!?」

エドが小さく悲鳴のような声を出した。

「い、今の、マスタング大佐、でしたよね?」

アルも恐々確認するように誰とも言わず訊ねた。

ブレダも信じたくないというような顔でありながら、二人の言葉に頷く。

「俺も…大佐に見えた。」

「何で大佐が?

まさか番兵を殺ったのって…大佐なのか?」

エドの言葉に、ブレダは唸った。

「いや、あれはかなり鋭利な刃物で、手慣れたやつに捌かれていた。

普段、錬金術を使う大佐だったら、慣れない包丁よりも、いつものように発火布で焼くほうが、手っ取り早くて確実だろう。

大佐は、番兵は殺っていないと思うぜ。」

エドはそれもそうかと思い直したが、それならば何故ロイがいるのか。

「とにかく、大佐にしろ、ほかの犯人にしろ、ハボック少尉が危険なことにはかわりない。

ヒューズ中佐がいつになるか解らない以上、もう一度中に入って調べた方がいいよな。」

「そ、それはそうだと思うけど、兄さんは大丈夫なの?」

顔色が悪いエドを心配してアルが言う。

「俺は、ハボック少尉が手遅れになるほうが怖い!!


大佐にハボック少尉を…殺させてたまるか!」

エドは第三研究所に向かって走り出してしまった。

「兄さん!」「大将!」

一拍遅れて、アルとブレダも後に続く。

腕を伸ばしても僅かにとどかず、引き止められなかったのだ。

三人はまっすぐに第三研究所の中に駆け込んでいった。

その様子を見ている影には、気が付かないまま。




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続く
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