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クリムゾン†レーキ


…50、罠の中の獲物


ブレダが運転する軍用車が、石畳の上を飛ぶように走っていく。

その爆走する車の後部座席で、前の座席にへばりつくようにして、エドとアルは前を覗き込んでいた。

朝一番に店を開け出したパン屋の脇を猛スピードで駆け抜けた。

「…中尉の一件がある少し前から、実はハボックにちょくちょく接触してくるようになった女がいてな。

そいつは、大将から聞いて、ウィルファットの殺人鬼からのハイエスト聞き出した女…ラスト…ハボックにはソラリスって名乗っていたんだが…、そいつだったんだ。

おそらく…、こちらの情報をハボックから聞き出そうと接近してきていたんだろう。

俺はそれを、逆に利用する作戦を立てて、中尉の葬式の後、大将たちと別れてからヒューズ中佐に提案したんだ。」

シフトチェンジしながら言うブレダに、エドとアルは怒りと驚きが混ざった声で言う。

「なんで、教えてくれなかったんだ!」

「そうですよ!」

ブレダはかすかに首を振った。

「あの頃はまだ大佐とのゲームの真っ最中だった。

とりあえず目先の危険のほうが危なかったしな。

ハボックも忙しかったし、何より、相手が積極的になったのは葬式の後からだ。

タイミングの問題でな。

ショックを受けていた二人を巻き込まないようにって決めて、軍人組で動いた。

それに、お前さんたちは兄弟のことで忙しかっただろ?

だから今の今まで秘密だったのさ。」

エドとアルは自分たちのことしか見ていなかった事を恥じた。

のけ者にされていたのではなくて、守られていたとは。

「とにかく、俺たちは作戦を二つ立てた。

一つはそのハボックに接触してきた女を油断させて釣ること。

二つ目は、相手の資金源を軍法会議所の正規の書類から炙りだすことだ。

中尉の情報を疑うつもりはないが、本気で軍の上が黒だった時、やつらの資金は国の金を元にしている可能性が高い。

だけど実際は言葉にするほど簡単じゃないんだ。

国の決算額は公表されることになっているし、国民からの税収は計算すれば大まかな数値が割り出せる。

それに、形だけではあるものの、軍法会議所の査定があるんだ。

最初から高額な金をちょろまかすのはかなり難しい。

つまり、一度どこかに予算として配分してから改ざんしないと、裏の金として使えないってことになる。

その改ざんさえ発見できれば、こちらの武器になるだろ?」

ブレダの言葉に、アルは慌てた。

「軍法会議所の正規の書類を洗い直すって、とんでもなく大変じゃないですか!

どの書類だって、一度は検索されて通過できたものでしょう?

どこに穴があるかわからない、膨大な数の書類を一から洗い直すなんて!

しかも、軍法会議所だからヒューズ中佐とアームストロング少佐しか調査できないし…!」

ブレダはうなずく。

「あぁ、しかも正規の仕事じゃないから、やるべき仕事の合間に、な。

それこそお二人は不眠不休だったはずだ。」

「…!」

エドはあっさり肯定したブレダに息を飲む。

今まで近くにいるがために、忘れていたのだ。

軍人の本気を。

「ハボックは、ソラリスと名乗ってきたそのラストと言う女に、俺たちのちょっと古い情報を渡して、わざと口が軽い男だと思わせた。

そして、ハボックから一気に情報を聞き出すために、連れ去るのを待ち、発信機で巣を暴き出す。

または、軍法会議所の書類から探りをいれ、抜き打ち査定を実施してやつらを揺さぶり、ボロを出させる。

俺は前者を、ヒューズ中佐が後者の案を出して、この二通りから攻めていくことにしたんだ。」

「なんつー無茶で危険な事を…!」

エドの絶望的な呟きに、ブレダは苦笑した。

「悪いな。
だが、命懸けなのは全員承知の上だった。

それに、危険な事はわかりきっていたから…、大将たち巻き込んでじゃあ、こんな…無謀な作戦はできなかった。」

一瞬無言になったが、アルは気を取り直してブレダに聞いた。

「…今までところのお話は解りました。

でも、なんでそこまで場馴れしているはずの皆さんが、僕たちに助けを?

無謀とは言いますが、ハボック少尉が誘拐されたり、書類の不正を発見した後の対処を、ブレダ少尉やヒューズ中佐が考えていなかったとは思えません。」

ブレダは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「何日か前、ヒューズ中佐がとある機関の書類が不審であることを発見した。」

後ろの二人は、目を輝かせた。

「すごいな!」

だがブレダの声は暗い。

「だが…、根拠としては、弱かったんだ。

それをもとでの再調査は難しいと言わざる得ない状態だ。」

「だ、だけど怪しいところ、見つけたんだろ!?

なんで根拠にならないんだ!!」

「その機関の書類が【キレイすぎ】るのを見つけたからさ。

書類を処理する立場からみたら、やたらややこしい書類より、キレイな書類の方がいいに決まっている。

キレイすぎるからって却下したら、後の全て却下しなくちゃならないからな。

だが、どんなにうまくやっても補正予算が施設内のどこからも出ないなんて夢みたいな話、ほとんどあるわけないんだ。

しかも一回二回じゃない。
ここ20年ほどずっとだぜ。

実際より余計に請求することで、裏に流す金を作っていたんだろう。

だが、裏があることを知っている俺たちならともかく、はたから見たら、きちんと書類は提出されて筋は通ってるし、管理者の預金が急増した訳でもない。

ピンはねされている金が【ない】ことにされている以上、動けないんだよ。」

「そんな…。」

アルの呟きは、泣きそうなほどの落胆が滲んでいた。

「さらに、調べられていることにあちらが気がついたらしくな、こっちがどれくらい調べられたのかを聞き出すためにハボックが連れ去られた。」

エドがぎょっとする。

「どうしてわかったんだ!?」
ブレダは否定のために首を振った。

「わからない。

まぁ、こっちも誘いはかけていたんだけどな。

それが、昨日の夜のことだ。

フュリーの秘密基地…大将も見たんだろ?

あそこで調べた結果、ヒューズ中佐が睨んだ施設の場所とハボックの発信機の場所はほとんど同じことがわかったんだ。

その場所こそ…!」

ブレダがひときわ強くハンドルをきり、角を曲がって少しドリフトした末に、車はガクンと止まった。

目指した場所に到着したのだ。

後ろの席でもみくちゃになっているエドとアルに解るよう、ブレダはその建物を指差した。

「あれが、第三研究所だ。」

もう二つほど小さな交差点を過ぎた先に、高い塀で囲まれた愛想のないコンクリートのしっかりした建物が建っていた。

セントラルにある軍直轄の錬金術研究所の一つで、アメストリス国内では、最高ランクの研究をしている…はずの機関であった。

「さっきも言ったように、ハボックは昨日の夜からあのなかのはずだ。

そろそろ限界の筈なんだ。

ヒューズ中佐とアームストロング少佐も軍を動かすために掛け合ってくれてはいるんだが、上層部が黒なだけにもみ消されないようにするのが精一杯で、すぐに来られる状態じゃない。

俺も含めて、用のないはずの軍人が簡単に入れるような場所でもない。

あのなかに簡単に入れるのは、国家錬金術師である大将だけなんだ。」

ブレダは体を曲げてエドたちの方へ、うつむき気味で振り返った。

「すまねぇ、大将、
大人の身勝手はわかってんだ。

あいつは…ハボの野郎は、俺に命を預けるとは言ってくれた…だけど…。

だけどお願いだっ!

ハボックを…

ハボックを助けてくれっ!」

ブレダの顔は泣きそうなほど歪んでいた。

まさに懇願である。

エドは迷うことなくうなずいた。

「今度こそ、絶対助ける!!

行こうブレダ少尉!

第三研究所へ!」




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続く
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