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クリムゾン†レーキ


…47、光明と闇

エドとアルは、階段をかけ下りると、あわただしく基地のドアを開けた。

「お帰りよ、仲直りはできたか?」

ヒューズが気さくに声をかけるが、立ち止まって返事を返すのももどかしいのか、そこらへんに散らばっている資料をかき集めながら返事を返す。

「おう、ばっちり!

それよりも、隣の部屋も空き部屋だよな!?

俺たち、これからそっちで考えごとしてるから、心配しないでいいぜ。」

エドは両手に錬金術書や筆記具を抱えて、また部屋から出ていく。

「すみません、となりにいますから!

何かあったら錬金術で壁をぶち破りますから大丈夫ですよ!」

アルも、あっけにとられている大人たちを尻目に、兄と同じように筆記具や資料を持って出る。

二人は基地として使っている部屋の、すぐ隣の部屋のドアの鍵を錬金術で開けて中に入った。

使っていないせいで多少ホコリっぽいが、今の二人にはそんなことは気にならない。

前の住人が置いていったらしいテーブルと椅子をさっと拭いて、資料と筆記具を並べた。

アルが普段、夜中に本を読むために使っているライトをつければ、話し合う準備が整う。

「よーし、やるか!」

どっかと椅子に座ったエドの真向かいに椅子を引き寄せ、アルも座った。

「ふふ、こうやって兄さんと話すのも久しぶり。

とことん付き合うからね。」

エドは頷き、さっと自分が使っている錬成手帳を開いた。

「中尉の葬式のあと、あのカフェレストランでホーエンハイムがいいやがったこと、俺はそれを検証したい。」

アルも、了解したと頷く。

「うん、なんて言われたのか、正確に教えて、兄さん。」

エドは一度深呼吸してから、意を決したように言う。

「俺たちがあの日作った母さんは…。

母さんではなく、まったく別のモノで、お前は…、その…まったく意味のないことをしたせいで体を…。

なくしたんだと…、言われたんだ…。」

アルは少し言葉に詰まったが、それでもエドよりは冷静にその言葉を受け入れた。

「なるほどね。

もう!なら、よけいにもっと早く相談してほしかったよ!

まぁ、まだ手遅れじゃないと思うけど。」

エドはちょっと意外そうな顔をした。

「アル、けっこう明るいな…。」

聞いたアルは首を振る。

「そう?

けっこうショックだよ…。

でもね、ショックだからって立ち止まってたら、進めないじゃない。

それに、ただたんに兄さんを傷つけたいだけなら、父さんはこんなこと言わないと思うんだ。

きっと、何かあるんだよ。」

「そうだな。

あいつが何故そんなことをいったのかより、今は中身だ中身!

よーし!やるぞ!」


★★★★

エドとアルが部屋に籠った次の日の朝早く、ヒューズは朝一番で軍法会議所に出勤した。

もちろん、調べ物を進めるためだ。

帳簿の数字の迷路の深淵と言える。

ヒューズは分厚いファイルを机に広げ、その上に覆い被さるように中を覗き込んでいた。

ヒューズの背筋を、汗が流れた。

暑いためではない。

戦慄の冷や汗であった。

「…こいつか…!
…こいつだったのか…
ようやく見つけたぜ…!」

ヒューズは口角を吊り上げたが、その眉間のシワは深くなるばかりであった。

「しかし…、なんてやつだ。こいつぁ…。」

ヒューズは歯を食い縛る。

吊り上げた口角から覗く犬歯が見える。

ヒューズは一人であったが、もし今のヒューズの顔を見るものがあれば、手強い獲物を見つけた獣の挑みかかる笑みが見られたことであろう。

「何がなんでも追い詰めてやる。

俺の親友を奪った罪は、重てぇからな!」

ヒューズは唸るように言うと、ファイルを閉じて膨大な帳簿の棚に沈めた。

ファイルの背表紙には、几帳面な文字で、何の施設の帳簿なのか書かれていた。

多少擦れてかすれていたが、はっきりと読むことができる。

その帳簿には、『第三研究所』と書かれていた。

★★★★

「緊急事態だ。

あの軍法会議所のメガネ髭中佐に、深いところを嗅ぎ付けられたかもしれない。」

地下の秘密基地で、エンヴィーは腕組みをしながらラストに向かって言った。

「…といっても、確証はないけどね。

だけど、かなり肉薄してきてるね。
あの様子じゃ。

ラスト、そっちの情報源からはなにか掴めた?」

ラストは気だるそうに髪をかきあげた。

「そうね。
少しずつ情報を聞き出すつもりだったけど、そこまで切羽しているなら、多少強引な手を使うしかないかもしれないわね。

まったく、忌々しい。

グリード、あいつらを泳がせ過ぎたわね。

この責任、どうやって取るつもり?」

ラストは暗がりを睨む。

その暗がりから、ロイ・グリードが姿を現した。

黒いコートを着ていたために、完璧に闇に隠れていたのだ。

ロイ・グリードは、何も言わずに、ラストとエンヴィーを眺めている。

何も言わないロイ・グリードに、エンヴィーは語気を強めた。

「聞いてるのか!?
グリード!」

ロイ・グリードは、やれやれと肩を竦めた。

「ホークアイ中尉を殺して、ここまで盛り上がるとはおもわなかったんだよ。

誰か殺せとせっついてきたのはエンヴィーだし、彼らの中では彼女が適任だと思った。」

名前を出されてムッとしたエンヴィーの横から、ラストが冷たい目をして睨む。

「計算高い貴方がこの程度を予想できなかったとは、考えにくいけれど。」

ロイ・グリードは苦笑で返す。

「それは誉め言葉かい?ラスト。

買いかぶりすぎだよ。

確かに多少予想は得意だが、全て見通せる訳じゃない。

人間は時に予想外な生き物さ。

あの時点では、彼女が一番理想の獲物だったと確信があった。」

「別に、あのメガネ髭中佐でも良かったんじゃない?」

エンヴィーの言葉に、ロイ・グリードは首を横に振る。

「ヒューズはあれで軍法会議所内の人気がある。

あいつを殺せば軍法会議所が、本腰を入れざるえない。

揉み消しが容易でなくなる。」

「じゃあ、他のオチビさん組のメンバーは?」

「印象が弱い。
鋼のたちに、完璧な敗北を味あわせるには、メンバー内でも特別な立ち位置にいるいるものではならなかった。

メンバー内唯一の女性であり、私のこの体の腹心。
各々の信頼もあった。

しかも、錬金術師でないから仕留めるのも容易。

どうだ?狙いたくもなるだろう。

しかも、鋼のたちの敗北でゲームは終わった。

それ以上に彼らが何をしてくるかは、私の範疇外だ。」

エンヴィーは気に入らないとばかりに舌打ちした。

「は、大佐様はお高くとまってるよな。

だけど、責任を取らないですませられると思うなよ。」

ロイは面倒そうに軽くため息を吐くと、二人から視線を逸らした。

「責任ねぇ。
責任を押し付けるより、助け合うのが、兄弟だろう?

迂闊に傷を広げないように、私は手を出さないことにする。

二人に任せるよ。

私がしゃしゃり出ると、彼らは余計にやる気をだしてしまいかねないからね。」


★★★★

検討を初めて早三日。

アルは昼間、ホーエンハイムと出かけるためにいなかったりもしたが、それ以外はほとんどこもりっぱなしで検討作業を続けていた。

「……うー…詰まった…」

エドは書き散らしたノートに突っ伏して、うめき声を上げた。

さっきから、一歩も先に進んでいないように感じていたため、アルもノートから目を上げる。

「あの時、何度も検証して完璧だって思った理論だもん…。

今さら綻び見つけるなんて、無謀だったのかな。」

ぐったりした二人に、はたして光明は現れるのだろうか。


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続く
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