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クリムゾン†レーキ


…45、夜道の真理


一時間半ほどの時間で整備を終えたフュリーとエドは、もと来た夜道を戻るところだった。

秘密基地にきちんと施錠したことを確かめてから、部屋を後にする。

ポツリポツリと街灯のある暗い道を、二人で歩いていく。

「護衛がいると思うとリラックスして作業できたよ。
ありがとうエドワード君。」

「ううん、こっちこそ、いい気分転換になった。

中尉のこととか考えると、やっぱり辛くて…。」


きっと自分の事を気づかって連れ出してくれたのだと思い、エドは少しうつ向きながらもお礼を言う。

一昨日の夜も、こんな夜道をあるいていたのだ、という思いは抜けきらなかったが、それでも気分転換になったのは事実だった。

「…中尉のこととか、アルフォンスくんやお父さんのこととかかい?」

エドは図星を指摘されフュリーを見る。

「どうして、アルとあのすっとこどっこいの事なんか考えなくちゃならないんだよ!?」

しかし、フュリーは、エドの目に浮かんだ焦燥を見逃さなかった。

「詳しいことは聞いていないから解らないけどね。

だけど、君たちがこの頃うまくいってないのは、見てればすぐにわかる。

僕たちの前でケンカもしてたしね。

でも、何年もみているから、君たち兄弟がお互いを嫌いになることはないとはっきり言える。

お父さんのことなんでしょう?

たしかに、今までだって仲良くはなかったけど、何かあったんだろう?

…中尉のお葬式の後ぐらいに。」

言い当てられ、エドは目の前にいる若い軍人も、ロイが抱えていた生え抜きの一人であることを思い知らされた。

「たとえどんなことがあろうと、世界に実の父親はたった一人だけなんだから。

否定しちゃいけないよ。」

「最初に!

最初に否定したのは、俺たちを、母さんを否定したのは、あいつだ!」

エドは泣きそうな声でフュリーにくってかかった。

人生の中でも、一番そばにいてほしかった時期に、ホーエンハイムは帰ってこなかったではないか。

いないのならば、いないのだと決別したつもりだった。

アルのために、兄として支えてやらなければと、精一杯した努力を、やすやすと否定させはしない。

「あんなやつ、俺は、認めない!

あんなやつ、大嫌いだ!

あんなやつがなんて言おうと、信じるか!
俺は、俺たちは間違ってなんかない!

無駄なことなんか、していない!」

叫ぶように言いはなたれた言葉を、フュリーは聞き逃さなかった。

「中尉のお葬式の後に、お父さんに何かいわれたんだね?」

「!」

エドはハッとして口を閉じたが、言った言葉はもう取り消すことはできない。

「嫌いなお父さんに、何か気になる事をいわれたんだね。

だけど、言った人物が嫌なやつだったから、エドワード君は、受け入れたくないんだ。

あは、わかるなー、その気持ち。

しかも、それが正論だったり、正解だったりするんだよね。」

フュリーは、言いながら苦笑する。

「…あいつの意見が正しいとは限らない!」

「たしかに…ね。」

そこで二人の言葉は途切れ、一時の間が空いた。

街灯一間隔分の沈黙のあと、口を再び開いたのはフュリーだった。

「昔、僕が軍に入隊したときなんだけどさ。」

エドはいきなり何の話になったのかと、首を傾げたが、口は挟まなかった。

「僕は一般から入ってきたんだけど、入隊してすぐには何もわからないから、訓練にだされるんだよ。

だいたいチームを作っていろいろ訓練をさせられるんだけど、僕が入隊した時に機械いじりが得意だったのが、僕ともう一人だけだったから、僕たちだけ二人組になってね。

そしたらまぁーそいつが、一個したなのに、すっごい嫌なやつでねー。

余計な口は出すし、態度はでかいし、嫌味っぽいし…。」

エドはフュリーが指折り数えながら嫌なところを上げるのを見て、げんなりした。

「スゲー嫌なやつだったんだな!」

フュリーは同意を得られて、エドに微笑んだ。

「そうなんだよ!

だから、僕、知り合ってすぐにそいつが大嫌いになっちゃってさ。

訓練も大変だし、相棒はさんざんだし、最悪だって思ったよ。」

エドはフュリーの言ったような相手だったら、1日でブチキレてとっとと逃げてるだろうなと思った。

「ある時ね、無線機が一台壊れちゃって、教官が二人で直すようにって僕たちに命令したんだ。

早速、僕が取りかかったんだけど、なかなかこれが直らなくてね。

今だったらもっと的確に直せる自信はあるんだけど、まだその頃は軍の無線機に慣れてなくて。

いろんなところをチェックして、残すは一ヶ所しか原因が考えられる場所がないところまでいったんだけど、その一ヶ所が問題でね。

コードの密集した要の場所で、入り組んでるから、一番厄介なところだったんだ。

僕は悪戦苦闘しながらやってたんだけど、僕には、どこが問題なのかさっぱり解らなくてねー。

隣でそいつが手を出そうとすると、自分がやりだしたんだからってむきになって。

一時間ぐらいこねくりまわしてたかな。

結局どこが問題なのかさっぱりわからないし、だけど、しょうもないプライドが邪魔してギブアップもできなくて。

そんな時に、そいつが見るに見かねて、ズバリと問題点を指摘してくれたんだよ。

それは、その時の僕には思いもよらない、完璧な盲点だったんだ。

それが悔しくてね。

しかも、冷静になって考えてみると、問題起こしているのが、そこしか考えられないんだよ。

もう情けないやら、悔しいやらで、僕は言いはった。
そこは、絶対に違う、問題はないはずだってね。」

フュリーは、昔を思い出して苦笑しながら話す。

エドは先を促した。

「そ、それで?」

フュリーは右の頬を軽く擦った。

「いきなり横からぶん殴られたよ。

それで、倒れた僕の胸ぐらを掴んで、ものすごい形相で怒った。

『お前が俺を疎ましく思っているのも知っている、嫌っているのも解ってる。

だけど、感情で正しい忠告やアドバイスを捨てるのは馬鹿がすることだ!』ってね。

その時に気付いた。

そいつは、僕が間違っている時や失敗しそうな時に口を出してくれていたのであって、根拠のない悪口や意地悪はしていなかったんだ。

まぁ、もともと口が悪いのもあったけど。

僕の捉え方だったんだ。

目から鱗が取れたね。

それからは僕たちは仲良くなった。

訓練が完了するころには、親友って言えるぐらいに。」

エドはフュリーが言いたいことが解ってため息をついた。

「つまり、フュリー曹長とその人は今も仲良しです、と?

俺にも同じことしろって言うんだろ。」

エドが言った言葉に、フュリーは首を横にふる。

「……違うよ。

できれば…同じじゃないことを祈りたいね。

嫌いな人の言葉だからと言って、言葉の意味を受け取らないで、すぐに捨ててしまうのはいけないと、いいたいんだ。

仲良くなるかどうかは、その後の事。

僕の場合は、言葉に、ちゃんと理由があって、意味があった。

よく考えてから、答えを出してごらん。

案外的を得ているかもしれない。

もしも、逆に何も得るものがなかったら、次に言い返す武器になるかもしれないよ。」

エドは、少しすねた顔をしたが、その目の中に眠っていた何かがキラリと反応しているのを、フュリーは見た。

これで、きっとエドは大丈夫だろう。

話ながら歩いているうちに、基地の玄関先まで来ていた。

エドがドアノブを捻ろうと手をかけて、動きを止めた。

「そういえば、さっきの話の嫌味な親友さん、東方勤務?

俺、知らないうちに、会ってたりする?」

エドが振り向いて質問した横を、フュリーは自分でドアを開ける。

その時、まるで一人ごとのような声で返答してきた。
「いや、君は会っていないよ。

君が軍にくる、ずっと前に死んだから。

いや、違うな。

僕のかわりに、あいつは死んだ。

僕が親友を、


殺したんだ。」


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続く
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