黒の聖域
「…何だって?」
エドワードは低い声で聞き返した。
「どういうことだ!身に覚えないぞ!俺は!」
「黙れ、エドワード・エルリック」
ラッセルの声はエドワードを突き放した。
そして嗚弁に語り出した。
「お前は、1916年の騒動(映画)から始めなきゃいけないんだったな。
あの門から来たの鎧達とのの戦闘のあと、中央の街や政府はガタガタになった。
ま、当たり前だろう?不意打ちもいいとこだったからな。
壊滅的なダメージをうけた市街、労働力は低迷、軍のお偉方は腰抜けで、政府の役人はいらん会議ばっかりで動きゃしない。
結局、新政府じゃ何も出来なかったんだ。
そこで、昔馴染みの軍人のハボック将軍やブレダ将軍が、指示出来て場慣れしているマスタング…当時は退役しちまってて軍人でもなかったんだけど…伍長に指示出してくれって頼み込んで、やってもらう事になった。
戦闘の時もだいぶ活躍なさったし、やっぱりあの方は英雄だったよ。
新政府の奴らがうかうかしてる間に、伍長の指示で東西南北から軍の半分を収集して中央を復興していった。そしたら、いつの間にか軍人は政府よりマスタング伍長の方に従うようになっていたんだ。
そりゃそうだろ、何せ頼りになる方だし、周りの側近の方々も有能な人ばかりだしなぁ。
市民からの信頼も厚くて、そのまま新政府を覆す事も可能なほどだった。
でも、あの方はそれはしなかった。
復興があらかた片付いたら、集めていた兵力は四方へ返してまた隠居するって言い出した。それが一番相応しいからと…。
ハボック将軍たちは慌てたけど、仕方ないとも考えてらしたんだろう。
逆に、マスタング伍長を引き止めたのは、以外にも新政府のお偉方だった。
あの方の人気を妬んで自分達の物にしちまおうって魂胆がまる見えだったが、あの方は中央に残った。
実は、そのちょっと前にホークアイ中尉が妊娠してるって発覚してな。たぶんそれでだったんだろう…。」
「お、おい!ちょっと待て!」エドワードがいきなり待ったをかけたので、話の腰を折られてラッセルは不愉快そうに眉をひそめた。
「なんだよ?」
「中尉が妊娠って、た、大佐の?」
「他に誰がいるんだよ。」
さも当然とばかりにラッセルは言ってのけた。
「(裏鋼であんなに否定してたのに)」
「あぁ、(DVD収録映画の打ち上げ)の話だな?
ま、あれも丸っきり嘘じゃない。何せお嬢さんが一人いるけど、お二人はご結婚なされてないからな。」
「えぇっ」
「因みに、お嬢さんはサラって名前で、確か今年十歳ぐらいだ。元帥の黒髪と中尉の美貌を兼ね備えたいい子だよ。」
「エリザベス・グラマンってのに覚えないよな?」
「?、誰の事だ?
話を戻すぞ。
新政府はあの方を新政府軍の元帥として復帰させた。
それからはかなり見物だったんだぞ。
新政府に潜り込んだとたん、横流し、着服、賄賂、選挙法違反、斡旋、その他もろもろ全部検挙して、しかも皆ヤラセじゃなくてマジなんだぜ、新政府の汚れたもんはみーんな綺麗にしちまったんだ。
新政府のお偉方は一掃されて、今度こそ新しい政府ができあがった。軍人が政治に関わらないように全員文人で固めてな。
元帥は自分の地位の役割を確立させて、軍だけを管轄するようになったんだ。
他国とのいさかいもかなり減って、国家としてやっと落ち着いてきたのは五年ぐらい前か…。
そんなとこだ。」
エドワードは牢の中の硬い寝台に腰掛けてラッセルの話しを聞いていたが、それでも怪訝そうな顔のままだった。
「それじゃあ、大佐が出世して今の地位に就けたのは俺のおかげなんじゃないか。感謝されてもいいぐらいだろ?」
しかし、ラッセルはきつい表情のままだった。
「これは概要だ。
問題はここからなんだよ。
確かに、今の話しだとあの方が出世出来たのはお前らが持ち込んだトラブルのおかげに聞こえるし、これだけだったらその通りだ。
だが、お前等が持ち込んだのは、あっちの機械技術も含まれていた。
お前が何てよぶのかわからんが、俺達は機翼艦(きよくかん)(エッカルト戦闘機の事)って呼んでる機械だ。あれは俺達にはなかった技術で出来ていた。
あれはあっちの兵器なんだろ?軍事転用されれば、こっちでも恐ろしい事になるのは明白だ。空から攻撃されたら、一たまりもないからな。
だから、機体を調べた時、最重要軍事機密とすることを元帥は決めた。
機体の設計図とおおざっぱな仕組みを書類で残しただけで、出力装置(エンジン)や重要な仕組みは記録にも残さなかったんだ。
知ってるのは元帥含めた関係者だけでな。
その後、その書類を任されたのがフレッチャーだった。
俺とフレッチャーはロス少佐とブロッシュ中尉の推薦で、中央の研究所勤めになっていてな。そこに回されて来たんだ。
たとえ簡単な仕組みや構造だけであっても、軍の最重要機密だったからフレッチャーは俄然やる気をだしていた。しっかりやってたよ。
俺は他の部所だったけど、話は本人に聞いてたからな。
…ほんの二週間ぐらい前、フレッチャーが研究所で何者かによって襲われて、大怪我を負った。
警備兵が駆け付けた時は、フレッチャーが倒れていて隠し引き出しに仕舞われていた機密書類が消え失せていた。
元帥は直ぐさま調査網を全国に敷いた。そして、一番疑いのあるアエルゴを警戒するためにハボック将軍を南に派遣したんだ。
そんな時、今度は元帥とお嬢さんが行方不明になった。
エド!皆、お前が連れ込んだ余計な技術のせいなんだぞ!
お前が持って来なければ、飛行技術は時代が作りあげたはずだったんだ!
…本当…に余計なことしてくれるよな…っ。」
ラッセルは吐き捨てるように言ってから、横を向いて黙ってしまった。
「そう…だったのか…」
「だからもう余計な技術に関わらない。頼らないためにお前達の申し出を断ったのさ。
でも、もう遅いかもな。
お前がアエルゴ側の戦艦に撃ち込んだ砲弾は、すぐに分解されて調べられただろうから…
なかった出力装置も出来上がったとなれば…」
アエルゴの戦闘機は出来上がる。
まだ対空砲等が出来ているはずもない…
アメストリスは…
ハボックやラッセル、ブレダ、ファルマン、フュリー、
大佐、中尉、他にも覚えている人間、親しい人間が、自分のせいで…
エドワードは虚空を仰いだ。
「俺は…」
「おとなしくしていてくれ。エド。頼むから。」
ラッセルもエドワードが納得してくれたかと、ホッとしたようだった。
だが…
-バリバリバリッ
「!?」
エドワードの牢から激しい錬成光が弾けた。
「オイ!エド!?」
ラッセルは慌てて鉄犢に駆け寄る。
そこには手錠を錬成して壊し、束縛を解いたエドワードが立っていた。
「悪い。力の循環さえ出来れば錬成できるんだよ。
ラッセル、俺は、自分がやっちまった責任はとる。
自分のケツは自分で拭く!
要は俺がぶっつぶせばいいんだろう?
大佐ごと片付けてやるさ。つー事で、俺脱走するから。追うなよ!」
エドワードはそう言うと、両手を胸の前で合わせ、勢いよく両手を壁に付けた。
激しい錬成光がまたもや牢の中を照らしだし、光がおさまる頃には壁には重厚な扉が作り出されていた。
「てめぇっ!ちょっと待て!」
ラッセルは慌てて鍵を開けようとするのだが、急いでいるとなかなか上手くいかないものである。
「じゃあな、仕事片付いたら顔出すから!」
そう言い残してエドワードは作った扉から軽やかな身のこなしで出ていった。
「エドワード~!
ばっかやろぉ~!」
残されたラッセルの罵声だけが開け放たれた扉からエドワードを追い掛けていったのだった。
7を待て!