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クリムゾン†レーキ


…40、墓場の鐘


カ…ァーン…
…カ…ァーン…

カ…ァーン…
…カ…ァーン…

葬列を知らせる鐘が、広い墓地に響く。

物寂しい葬列が、夕日に照らされて墓場の丘を登っていく。

先頭に、白い旗を持った墓守が進む。

その後ろには、四人の担ぎ手に担がれた木製の棺が、静かに丘を登る。

そして、棺の後ろには、参列者が続く。

昨日の夜、ロイ・グリードの手によって殺された、リザの葬儀であった。

暗い顔で、エドとアルも葬列の中にいた。

エドは赤いコートを脱いだ姿だ。

ハボックやブレタ、ファルマン、フュリー、ヒューズ、アームストロング少佐は、礼服を着こんでいる。

東方から駆けつけた、グラマン中将とレベッカも、参列していた。

ロイは、肩から喪章とサーベルをかけ、胸に勲章をつけて、軍帽を目深にかぶっている。

軍帽のせいで、その表情は伺うことができない。

丘を登っていくと、埋葬の準備をされた墓があった。

墓碑には、名前と生年月日と、命日が刻まれており、その手前には、棺を横たえるための、四角い穴が口を開けていた。

葬列が墓に到着すると、鐘が、鳴るのを止めた。

棺がゆっくりと、墓穴に降ろされる。

ロイが、棺に向かって敬礼した。

「君のこれまでの働きに、私は深く感謝する。

安らかに眠りたまえ。
ホークアイ中尉。」

事故死あつかいになっているので、リザは二階級特進はしていない。

ーよくもぬけぬけと!

エドや、事情を知るメンバーが、ロイの後ろ姿を睨む。

「リザぁ!

あんたなんで、死んじゃったのよぉ!

バカバカ!
うあぁぁぁあっ!」

土をかけられるリザの棺。

その様を見て、レベッカはハンカチに顔を埋めて泣き崩れる。

エドは、無念さに唇を噛み締めた。


☆☆★★


「ありがとうね、鋼君。」

葬儀が終わり、墓の前で俯いていたメンバーに、グラマン将軍が声をかけてきた。

グラマンも、礼服に黒い襷(たすき)の喪章をかけ、レイピアを下げている。

「東のじっちゃん。
忙しいのに、わざわざ来てくれたんだ。

じっちゃん。
俺、じっちゃんに礼を言われるようなこと、してないぜ?」

エドは、暗い顔でグラマンを見た。

グラマンの表情は、軍帽のひさしで隠れてはっきり見ることはできなかったが、とても静かだった。

「ホークアイ中尉を、いや、リザを最後まで守ろうとしてくれたんでしょう?

だから、そのお礼だよ。」
エドは、キョトンとしてグラマンを見た。

「え?
リザって、中尉のこと呼び捨てなの?」

グラマンは、顔を少し上げて、寂しそうな笑顔を見せた。

「そりゃあそうだよ。

リザはね、僕の孫なんだから。」

『えぇええぇっ!?』

グラマンの言葉に、エドと横にいたアルが悲鳴のような声を上げた。

グラマンは、悪戯っ子のように面白そうな目をした。

「ほっほっほ、なんだ、知らなかったのかい?」

エドは開いた口が塞がらないようだった。

「知らなかった!
全然っ!
みんなは、知ってたのか!?」

エドは隣のアルを見上げた。

アルもブンブンと首を横に振った。

「僕も知らなかったよ!」

グラマンは、クスクスと笑う。

「そうかい。
ブレダ君達は知ってたんだよ。

僕、てっきり君達は気づいていると思ってたんだけどね。

ほら、マスタング君が行方不明なったとき、リザが僕のところに難しいお願いしにきたでしょう。

あの時は、今まで隠していた僕との血縁関係を使ってお願いしにきてたんだよ。

久しぶりだったねぇ、リザが御祖父様って呼んでくれたのは。」

その時の様子を思い出したのか、グラマンはニッコリした。

「でも、なら、
ゴメン、じっちゃん。

俺、俺、中尉を、巻き込んだうえに、守れなかった!

礼なんか言ってもらう資格なんて…。」

俯くエドに、グラマンは笑みを消した。

そして、鋭い目でエドを覗き込んだ。

「諦めるのかい?
この程度で、諦めるのなら、僕は鋼君を怒らなきゃならないね。」

「…!」

ひたりとエドを睨むグラマンの瞳が、まっすぐにエドを射抜く。

「でも、僕は鋼君がそんな子じゃないと知っている。

たしかに、出された条件は満たせなかったかもしれないけど、調べることは、これからもできるだろう?

今まで調べてきたことも捨ててしまうのかい?

そうなら、リザは犬死にだね。
だから、僕は君が諦めるなら、怒らなきゃならないんだよ。

さぁ、どうする?鋼君。

君が諦めないなら、僕も協力は惜しまないよ。」

エドが口を開きかけた時、ロイがグラマンの後ろから声をかけてきたので、二人は会話を中断するしかなかった。

「わざわざ東方からありがとうございます。
将軍。」

グラマンはエドからロイに視線を移した。

「いやいや、彼女とは僕も無関係じゃないからねぇ。」

わざと含みのある言い方をグラマンはする。

「部下に変わりまして、私からお礼申し上げます。」

ロイは、グラマンに深々と頭を下げた。

「…優秀な補佐官がいなくなって、君も大変だねマスタング君。」

ロイは頭を上げて居住まいを正した。

「そうですね。
しかし、しかたありません。
どんなに望んでも、人は生き返りはしませんから。」

エドは、いけしゃあしゃあと宣(のたま)うロイに飛び掛かりたかったが、グラマンがちょうど間に入るような立ち位置にいるので、ぐっと堪えるしかなかった。

「今から東方に帰るのも難しいでしょう。

宿をご用意いたしましたので、こちらへどうぞ。」

ロイの物腰は、柔らかかったが、有無を言わせぬものがあった。

グラマンも、何か感じたのだろう、ちらっとエドを見てから、ロイに頷いた。

「では、こちらへどうぞ。」
ロイが、エドには目もくれず、先にたってグラマンを案内した。

「さぁ、いこうレベッカちゃん。」

今だハンカチで涙を拭うレベッカの肩を抱くようにしながら、グラマンはロイの後についてリザの墓から離れて行ってしまった。

「そうか、中尉、じっちゃんの孫だったのか…。」

小さくなる三人の背中を見送りながら、エドは誰に言うわけでなく、ぽつりとつぶやいた。

「ごめん。
ごめん、じっちゃん。

ごめん、中尉…っ

ごめんっ」

エドの頬を、一筋の雫が流れた。

それを見たアルは、何も言えなかった。

そして、そっとある決意を決めていたのだった。


☆★☆★


ロイが、グラマンと護衛のレベッカを案内したのは、セントラルの静かな一画にある軍ホテルだった。

大通りから一歩細い道に入ったところにあり、古めかしくと、頑丈さだけが売りのような建物である。

将軍を泊まらせるにはあまり相応しいとは言えなかったが、急な話だったため、ここしか予約できなかったとロイが説明した。

グラマンは、隣の部屋にレベッカを落ち着かせると、自分も部屋に入って、荷物をときはじめた。

礼服はキチンとしておかないとシワになってしまうし、喪章や勲章を無くす訳にはいかない。

グラマンは、礼服の上着を脱いでハンガーにかけようと、クローゼットを開けた。

「なるほどね。」

グラマンはつぶやいてから、上着をクローゼットにかけた。

キチンと肩を揃えて、型崩れを防ぐ。

「やっぱりレベッカちゃんに来てもらって正解だったねぇ。」

と、独り言をつぶやいてからクローゼットを閉めた。

グラマンが幾つか必要なものをかばんから取出して、一息ついたころには、窓の外は暗くなっていた。

「さて、そろそろレベッカちゃんも落ち着いたころかな?

お夕食にでも誘ってみようかね。」

グラマンはクスクス笑いながら部屋を出ていく。

「面白い話もあるしねぇ。」

謀(はかりごと)を企む策士の目は、閉じた扉の向こうに消えていったのだった。



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続く
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