クリムゾン†レーキ


…34、迷路


部屋にいた全員の視線が、一斉に部屋の入口に立つ人物に注がれた。

「派手にやられたねぇ。
大の男どもが情けない。」

そこで腕を組んで立っていたのは、マダム・クリスマスだった。
古ぼけたアパートには似つかしくない、豊満な体型が際立つ黒いドレスを着ている。

「マダム!
なんでここに!?」

エドは、思いもかけない人物の登場でかなりびっくりした様子である。

「ふん、あんたたちを狙ってロイ坊が動くのを待ってたのさ。
ま、おとりに使って悪かったよ。

今、うちの子達がロイ坊を追ってるけど、よほどのことがない限り深追いしないようにいってあるからねぇ。

そのうち戻ってくるだろう。
ほらほら、大丈夫かい?しっかりしな!」

マダムは倒れているメンバーに手を貸して、ちゃんと落ち着いて座れるように手助けしながら事もなげに言う。

「えぇっ!?
追ってるって、誰が?」

こともなげに言うマダムに、エドが尋ねた。

「なんだいマー坊、エディに言ってないのかい?」

エドの反応に、マダムはため息をつく。

「すいません。
タイミングがなくて。」

ヒューズが面目ないとマダムに頭を下げた。
マダムはエドの方を振り向き、にっと笑ってみせる。

「安心しな。
たとえ表の前線を離れてもうちの子達はプロだから、そう簡単にはやられはしないよ。」

キョトンとするエドにヒューズが助け舟をだす。

「実は、マダムはイシュウ゛ァールの少し前まで軍にいた人なんだ。
諜報活動では右に出るものがいないとさえ言われた伝説の人でなー。

マダムにかかれば、隣国の国王のパンツの柄だって調べられるって言われてたんだぜ。」

マダムが鼻で笑いながらヒューズを見る。

「伝説はやめとくれ。
死んでるみたいじゃないか。
ロイ坊が国家錬金術師になって、あたしにあの店を買ってくれてね。

店を持つのが夢だったから軍をやめちまったのさ。

うちの店で働いてる子達は、あたしが軍をでる時に一緒に辞めてくっついてきちまった子達なんだよ。

だから尾行ぐらいおてのものさね。」

くっくと笑いながら、マダムは言った。

「さて、例の件で調べ物は進んでんのかい?」

エド達は、ロイが襲撃にくる前まで話していた内容をマダムに伝えた。

「成る程ね。
じゃあ、あたしが調べてきたもののほうが、幾分ましな内容かもしれないね。

あの子達が帰ってくるまで、あたしが調べたことを報告させてもらうよ。

ま、座ったままでいいから聞いてるといい。」

マダムはどこからか葉巻を取り出すと、手慣れた仕種で先を切りライターで火をつけた。

「手伝うって約束したからね。
ちょっと気になって、東で人質事件があったっていう建物を調べてみた。

元はデブリード製薬会社ってとこが持ってた建物だね。

イシュバール後の薬不足で急成長した会社さ。
三年前に事件があって、今は倒産してる。

社長役は三人いて、なかなかおもしろい顔触れさ。
モーリス・ユリトロ、アリスター・グレイ、ローゼガー・レーブドール。

まぁ、どうやら社長やってた時は偽名使ってたみたいだけどね。」

「あ、成る程、自分達がやってた会社の建物なら、間取りが詳しくて当たり前か。

ウィルファットではそんな話なかったから、ウィルファットを出てから作った会社なのかな。」

エドはあぐらをかいて床に座りながら、相槌をうつ。

「これであの建物を犯人達が何故使ったかはわかったけど、話はまだ終わらないのさ。」

マダムは葉巻を唇から離して、フーッと煙を吐いた。

「デブリード製薬会社は三年前に事件があったんだけど、ファルマン坊や覚えてるかい?」

いきなり声をかけられたファルマンは驚いたようだが、すぐにマダムの要求に応えることができた。

「は、デブリード製薬会社は人気商品のサプリメントの調合ミスという事件がありました。

かなり不可解な事件で、本来ならば製薬会社で扱いが許可されていなかった毒薬が調合されていたとされています。

現在も混入ルートはわかっておらず、担当薬剤師が故意に調合したのではないかという見解が有力でしたが、その薬剤師が逃亡したため真相はわかっていません。」

ファルマンの説明で、ブレダが思い出したようだ。

「あー、あの市場に出回る寸前にうちの軍が大回収したやつか!

あれは忙しい時期だったもんだから、てんやわんやになっちまったっけな。」

「忙しい時期?」

エドがブレダに聞き返した。

「おう。
確かあんときは大総統閣下の視察の最終日とかちあっちまったんだ。

やっと大総統閣下が帰って視察が終わったってホッとしたとこに事件だったからな。
しかも犯人とぼしいやつににげられるし。」

マダムはブレダのぼやきを遮らないタイミングで話を引き継いだ。

「あのサプリメントはなかなか人気があってね。
社長三人も愛飲していたらしい。

調合ミスの毒薬サプリメントで危うく殺されかけて、殺される事に人一倍敏感になってた三人は、軍が調べるより先にその薬剤師を解雇しちまった。

だけどね、薬剤師は、あたしが調べた限り、無実だったのさ。

問答無用で解雇された薬剤師は、軍に追われて仕方なく行方をくらまして、人間不信になり落ちぶれる。

そんな薬剤師が、三人の社長全員の出身地のウィルファットに怨みをもっても不思議じゃないだろ?

その薬剤師こそが、ウィルファット連続殺人鬼ハイエスト・プレイスなのさ。」

マダムは、そこでタバコの煙りを吐き出した。

「そうか!
だからウィルファットの事件と狂言事件は繋がってるって言われていたのか!」

エドが合点がいったように言った。

しかし、マダムの表情は晴れない。

「問題はその次さ。
ハイエスト・プレイス、本名はハイル・カンジダ。
こいつは、その当時、いっくらがんばっても毒なんてしこめるタマじゃなかった。
性格てきに無理があった。

じゃあ、薬に毒を混ぜた犯人は誰なのか。
そして、犯人の狙いは何だったのか。
そこが問題だね。

あたしもまだそこまで調べられてない。」

ブレダがあぐらで腕組みをして考えこんだ。

「犯人の狙いは無差別テロだっのか、はたまた、ウィルファットで起きていた最初の連続殺人の延長で社長三人を狙ったのか、ハイエストをクビにさせたかったってのも考えられるな。

後は、会社を潰したかったのかもしれないし。」

エドも腕組みをして考えこむ。

「結局、その毒薬で死んだ人はいたのか?」

エドの独り言のような質問に、ファルマンが答えた。

「いえ、市場に出回る寸前に軍が回収しましたから、一般人に死亡者はいないはずです。」

「そうか…、あの社長三人も、その時は難を逃れた。
寸前に回収したから、一般人の口には入らなかった。

誰も死者はでなかった。

…じゃあ、どうしてサプリメントに毒薬が入っているのに気がついたんだ?」

リザが顎に手を当てて、考えながら答えた。

「工場内にも、売りにだす薬の成分を調べる場所があるはずだからそこで発覚したんじゃないかしら。」

しかし、エドの引っ掛かりはとれない。

「でも、売り出される寸前に軍が回収したんだろ?

作ってる最中から成分がおかしいって気がついたなら、売りにだす準備なんてするかな?

軍が厳密に管理してるんだから、言い逃れなんてできないし。

検査で扱ってない毒が入ってたってわかったら、表に公表するより不良品扱いで破棄したほうがはやくない?」

ファルマンも眉間にシワを寄せている。

「今までは、その検査をハイエストが担当して、薬の成分検査をごまかしたとされていましたが…。」

ファルマンの言葉をブレダが引き継ぐ。

「ハイエストが無罪となれば、話が違ってくる。
ハイエストの他に検査をごまかせる立場の奴が、犯人ってことになる。
そしてそいつは…」

ブレダの言葉をマダムが閉めた。

「自分が仕掛けた事件を軍に流したって事になるね。」

マダムの言葉にエドはますます首をひねる。

「でも、なんのために?
結局会社は潰れちまって、犯人が検査がごまかせる会社内の人間なら、あんまり得にならないよな。」

「まぁ、ハイエストをはめて自分が昇格しようっていうライバル社員じゃねーことは確かだな。

薬は信用第一だから、それがなくなれば会社が潰れるのは目に見えてんだから。」

いつの間にかタバコに火をつけて、燻らせながらハボックがいう。

エドは考えかたを変えることにした。

「じゃあ、考え方変えてみよーぜ、動機じゃなくて、誰だったら検査をごまかせるか。」

ブレダが考えながら、指折り数えだした。

「うーん、まず、会社の幹部、薬剤師、社長三人、一般社員はむりだろうから、後は軍人かな。」

「え?軍人?」

エドはキョトンとして聞き返した。

「まあな。
中央管轄だから東方司令部の軍人じゃ無理だけど、軍に管理されてんだ。

軍人に命令されればごまかすしかないだろう。」

「でも、さっきの話からしたら改ざんは軍の中の可能性が高い。
なら、二重に改ざんされたのか?」


エドは目を細くして考えこむ。

ー確かに何かが繋がっているんだ。
ただたんに、俺達が気付かないだけで…。

でも、それは何だ?



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続く
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