黒の聖域
エドワードの錬成した船は波を蹴立てながら、戦闘の真っ只中に突き進んだ。
エンジンはアメリカ最新式のものを再現したボートには過ぎたものだったが、エドワードはそのじゃじゃ馬を 楽しそうに乗りこなしていた。
苦戦を強いられていたアメストリスの駆逐艦の横を摺り抜け、アエルゴの戦艦にヘサキを向ける。
「喰らえ!」
エドワードは手元のハンドルを強く押した。ガチャンっと即席ロケットランチヤーに弾が装填され、「ポチッとな!」
ボンネットの部分に取り付けた砲身から戦艦へ向かって真っすぐにかっ飛んでいく。がづんっと分厚い装甲を突き破る音がして、戦艦のどてっぱらに大穴が開く。
すぐに戦艦はエドワードのボートに標準を定めようとするが、エドワードはハンドルを切ってその場からさっさと離脱していた。
「もう一発喰らえ!」
エドワードは、今度はアエルゴの護衛船にお見舞いする。
アエルゴ軍は完全に浮足だっていた。
そこに、アメストリス側の援軍がアエルゴ側に追い打ちをかけるように攻め入り、アエルゴ軍は撤退を余儀なくされた。
ギシギシと傾ぎ、黒煙をあげながら撤収していくアエルゴ軍をエドワードはボートの上から、してやったり顔で見送った。
「はぁ~~~っ」
詳細を聞いたハボックは、それはそれは深い溜息をついた。
「大将は本っ当に昔から無茶ばっかすんのな。
俺達の心配をよそに!」
ハボックは向かいに座ったエドワードに、怒るを通り越して呆れ返りながら頭を抱えた。
「なんだよ。あのままじゃあ、やられてだぞ。感謝こそすれ、怒るのはお門違いだろう。」
アメストリスの戦艦の艦長室のソファーは思ったより硬い。などとソファーのスプリングを確かめながらエドワードがハボックに反論した。
「大将は自分が何したか自覚がないからんな気楽に言えんだよ!ったく…元帥も今いねぇのにさぁ~。」
ハボックの大仰な溜息にエドワードも少し不安になる。
「…な、何したって、ただ船錬成して援護しただけじゃないか!
あ、地形変わっちまったやつ?あれは治せばいいんだろう?大丈夫だよすぐ治るぞ。」
「違うんだよ!」
「何が。」
エドワードはキョトンとしてハボックに思わず聞き返していた。
「大将がぶっ放して、あちらさんのどてっぱらに穴開けたのあったろう。あれだよ。」
「あぁ、ロケットランチャー?
本物はドッカーンといくはずなんだけど、あんな所に沈めるとまずいかと思って…。」
「いっそのこと、沈めちまえばよかったんだがな…」
ハボックは、ぼそっと微かな声で呟く。
「え?」
エドワードはそれがハッキリと聞き取れずに聞き返したが、ハボックは答えなかった。
「悪いが、大将は監視つきで帰るまで閉じこめさせて貰う。」
それを聞いてエドワードは慌てて立ち上がっていた。
「ちょっと待て!ハボック少尉!それじゃあエリザベスがっ!」
しかしハボックは妥協しなかった。
「申し訳ないが…。
大将。それぐらいの大事なんだよ。」
「…っ!!」
エドワードは立ち尽くしたまま、ハボックを見つめるしかなかった。
「つーことで、暫くよろしくな~。鋼の錬金術師殿。」
「嫌味かよ」
エドワードは目の前の人物に、嫌そうな視線を送った。
エドワードの監視員はラッセルなのだった。
「これから約180時間、バッチリしっかり見張らせて貰うからな。おとなしくしてろよ!」
そういいながらラッセルはエドワードの手錠に鍵をかけた。
「一回位船帰してくれたっていいじゃないかぁ」
「悪いな、エドワード。」
ラッセルはエドワードが入っている牢の鍵も閉めると、用意されていた木の椅子に腰を下ろした。
「さぁて、なんか話そうか。お前、こっちの事は何も知らんだろ?
この俺が、直々に、教えてやろうじゃぁないか。」
芝居がかった様子でラッセルは椅子に踏ん反り返った。
「なんっか偉そうだなぁ。」
エドワードが腑に落ちないと怪訝な目線をラッセルに向ける。そんなエドワードに、ラッセルはチッチッチと指を振る。
「違う。偉そうなんじゃねーの。偉いの俺は!」
ニヤリとラッセルは意地悪そうにエドワードに笑いかけた。
するとエドワードはますますふて腐れて、ラッセルを睨んだ。
「何だよそれ。腹立つなぁ」「はは、んな腐るなよ。
俺だってこんな扱いして悪いと思ってんだから。」
「だったら出してくれよ!
もう無理矢理無茶な事しないから。」
「だーめ!」
ラッセルは笑いながらエドワードの申し出を却下した。
「俺がしてやれるのは話し相手だけだよ。」
ラッセルの困ったような苦笑を見て、エドワードも渋々黙る。
「話し相手ねぇ~。ん~…
…あ、そういえば、お前ってたしか弟いたよな。今、どうしてんだ?」
諦めたのか、ただたんに思い付いただけか、特殊にもエドワードから話題を振った。
「……フレッチャーか…?」
「あー、そうそうフレッチャーだったな。どうしてんだ?
やっぱり軍人か?」
「…」
エドワードに尋ねられて、ラッセルは少し苦渋の表情を浮かべる。顔を背けたのでエドワードにはその顔は見えなかったが。
「フレッチャーは…。
フレッチャーは中央にいる。軍人じやないが、軍の研究員やっててな。俺よりも用量いいから、けっこう上手くやってるはずだ。
……今は入院中だけどな」
「入院って、病気か?」
「いや…、怪我してな。命に別状はないが、絶対安静だ。忙しいもんで見舞いもままならない。
しかもお前の見張り一週間だもんな!やんなっちまうぜ本当に!」
ラッセルは無理矢理明るく笑いながら、冗談めかして鉄犢を蹴りつけた。
「でも、そんな大怪我したって何したんだよ。」
「ノーコメント。」
ラッセルはあっさりと答えた。「ノーコメントって…」
「こっちにも事情があるんだよ。」
ラッセルはそれ以上は答えられないと、そっぽを向く。
エドワードはますます納得していない顔をして、ラッセルにくってかかった。
「オイ!ラッセル!
てめぇ話してやるなんて言っといて何も話す気なんて無いんじゃないか!俺達がいない間に何があった!答えろ!!」
ガシャンと鉄犢にしがみつき、エドワードは詰め寄る。
ラッセルは溜息を零して、前髪をかき揚げ、寄り掛かっていた椅子から身を起こす。「じゃあ、気を使わないでハッキリ言ってやろうか?
フレッチャーが怪我したのも、ハボック将軍が中央に帰れないのも、たぶん元帥が行方不明になったのも!
全部!エドワード、お前のせいなんだよ!!」
6に続くよ
エンジンはアメリカ最新式のものを再現したボートには過ぎたものだったが、エドワードはそのじゃじゃ馬を 楽しそうに乗りこなしていた。
苦戦を強いられていたアメストリスの駆逐艦の横を摺り抜け、アエルゴの戦艦にヘサキを向ける。
「喰らえ!」
エドワードは手元のハンドルを強く押した。ガチャンっと即席ロケットランチヤーに弾が装填され、「ポチッとな!」
ボンネットの部分に取り付けた砲身から戦艦へ向かって真っすぐにかっ飛んでいく。がづんっと分厚い装甲を突き破る音がして、戦艦のどてっぱらに大穴が開く。
すぐに戦艦はエドワードのボートに標準を定めようとするが、エドワードはハンドルを切ってその場からさっさと離脱していた。
「もう一発喰らえ!」
エドワードは、今度はアエルゴの護衛船にお見舞いする。
アエルゴ軍は完全に浮足だっていた。
そこに、アメストリス側の援軍がアエルゴ側に追い打ちをかけるように攻め入り、アエルゴ軍は撤退を余儀なくされた。
ギシギシと傾ぎ、黒煙をあげながら撤収していくアエルゴ軍をエドワードはボートの上から、してやったり顔で見送った。
「はぁ~~~っ」
詳細を聞いたハボックは、それはそれは深い溜息をついた。
「大将は本っ当に昔から無茶ばっかすんのな。
俺達の心配をよそに!」
ハボックは向かいに座ったエドワードに、怒るを通り越して呆れ返りながら頭を抱えた。
「なんだよ。あのままじゃあ、やられてだぞ。感謝こそすれ、怒るのはお門違いだろう。」
アメストリスの戦艦の艦長室のソファーは思ったより硬い。などとソファーのスプリングを確かめながらエドワードがハボックに反論した。
「大将は自分が何したか自覚がないからんな気楽に言えんだよ!ったく…元帥も今いねぇのにさぁ~。」
ハボックの大仰な溜息にエドワードも少し不安になる。
「…な、何したって、ただ船錬成して援護しただけじゃないか!
あ、地形変わっちまったやつ?あれは治せばいいんだろう?大丈夫だよすぐ治るぞ。」
「違うんだよ!」
「何が。」
エドワードはキョトンとしてハボックに思わず聞き返していた。
「大将がぶっ放して、あちらさんのどてっぱらに穴開けたのあったろう。あれだよ。」
「あぁ、ロケットランチャー?
本物はドッカーンといくはずなんだけど、あんな所に沈めるとまずいかと思って…。」
「いっそのこと、沈めちまえばよかったんだがな…」
ハボックは、ぼそっと微かな声で呟く。
「え?」
エドワードはそれがハッキリと聞き取れずに聞き返したが、ハボックは答えなかった。
「悪いが、大将は監視つきで帰るまで閉じこめさせて貰う。」
それを聞いてエドワードは慌てて立ち上がっていた。
「ちょっと待て!ハボック少尉!それじゃあエリザベスがっ!」
しかしハボックは妥協しなかった。
「申し訳ないが…。
大将。それぐらいの大事なんだよ。」
「…っ!!」
エドワードは立ち尽くしたまま、ハボックを見つめるしかなかった。
「つーことで、暫くよろしくな~。鋼の錬金術師殿。」
「嫌味かよ」
エドワードは目の前の人物に、嫌そうな視線を送った。
エドワードの監視員はラッセルなのだった。
「これから約180時間、バッチリしっかり見張らせて貰うからな。おとなしくしてろよ!」
そういいながらラッセルはエドワードの手錠に鍵をかけた。
「一回位船帰してくれたっていいじゃないかぁ」
「悪いな、エドワード。」
ラッセルはエドワードが入っている牢の鍵も閉めると、用意されていた木の椅子に腰を下ろした。
「さぁて、なんか話そうか。お前、こっちの事は何も知らんだろ?
この俺が、直々に、教えてやろうじゃぁないか。」
芝居がかった様子でラッセルは椅子に踏ん反り返った。
「なんっか偉そうだなぁ。」
エドワードが腑に落ちないと怪訝な目線をラッセルに向ける。そんなエドワードに、ラッセルはチッチッチと指を振る。
「違う。偉そうなんじゃねーの。偉いの俺は!」
ニヤリとラッセルは意地悪そうにエドワードに笑いかけた。
するとエドワードはますますふて腐れて、ラッセルを睨んだ。
「何だよそれ。腹立つなぁ」「はは、んな腐るなよ。
俺だってこんな扱いして悪いと思ってんだから。」
「だったら出してくれよ!
もう無理矢理無茶な事しないから。」
「だーめ!」
ラッセルは笑いながらエドワードの申し出を却下した。
「俺がしてやれるのは話し相手だけだよ。」
ラッセルの困ったような苦笑を見て、エドワードも渋々黙る。
「話し相手ねぇ~。ん~…
…あ、そういえば、お前ってたしか弟いたよな。今、どうしてんだ?」
諦めたのか、ただたんに思い付いただけか、特殊にもエドワードから話題を振った。
「……フレッチャーか…?」
「あー、そうそうフレッチャーだったな。どうしてんだ?
やっぱり軍人か?」
「…」
エドワードに尋ねられて、ラッセルは少し苦渋の表情を浮かべる。顔を背けたのでエドワードにはその顔は見えなかったが。
「フレッチャーは…。
フレッチャーは中央にいる。軍人じやないが、軍の研究員やっててな。俺よりも用量いいから、けっこう上手くやってるはずだ。
……今は入院中だけどな」
「入院って、病気か?」
「いや…、怪我してな。命に別状はないが、絶対安静だ。忙しいもんで見舞いもままならない。
しかもお前の見張り一週間だもんな!やんなっちまうぜ本当に!」
ラッセルは無理矢理明るく笑いながら、冗談めかして鉄犢を蹴りつけた。
「でも、そんな大怪我したって何したんだよ。」
「ノーコメント。」
ラッセルはあっさりと答えた。「ノーコメントって…」
「こっちにも事情があるんだよ。」
ラッセルはそれ以上は答えられないと、そっぽを向く。
エドワードはますます納得していない顔をして、ラッセルにくってかかった。
「オイ!ラッセル!
てめぇ話してやるなんて言っといて何も話す気なんて無いんじゃないか!俺達がいない間に何があった!答えろ!!」
ガシャンと鉄犢にしがみつき、エドワードは詰め寄る。
ラッセルは溜息を零して、前髪をかき揚げ、寄り掛かっていた椅子から身を起こす。「じゃあ、気を使わないでハッキリ言ってやろうか?
フレッチャーが怪我したのも、ハボック将軍が中央に帰れないのも、たぶん元帥が行方不明になったのも!
全部!エドワード、お前のせいなんだよ!!」
6に続くよ