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クリムゾン†レーキ


…32、絡んだ闇



2回目のゲームが始まって、早くも5日が経過していた。

それぞれ仕事をしながらの調べ物となると、効率は落ちる。
ましてや襲撃を警戒しているため、余計に手間取っていた。

今のところ襲撃はないが、油断はできない。

必ず2人以上で行動するようにし、フュリー特製の小さい無線を携帯することで、お互いの連絡がとれるようにした。

主にヒューズ、ファルマン、フュリーが書類を調べ、ハボック、ブレダ、リザが一般の兵達からの噂や市街の噂や情報を集めている。

護衛はエドとアームストロング少佐が分担して行う。

軍法会議所勤務のヒューズは、エドに的確にアドバイスしてくれた。

「なんだかんだ言ってたって、司令官より兵の方がよっぽど軍の中では人数が多い。

軍人よりも一般人の方が人数が多い。
それだけ耳が多いってことよ。

噂に戸は立てられないからな。

書類に上がってくる事実より、人の噂の方が真実に近いなんてこともあるもんさ。」

おかげで気になる噂を、昨日ハボックが見つけてきた。

「なんでも、大総統府には開かず扉があって、
不慮の事故で3年前に死んだ、有望視されてた軍人の怨念が、悔しくて今だにときどき悲鳴をあげてるんだとか。」

エドは話を聞いた時、不思議そうに言った。

「なんでハボック少尉はこの話が気になったんだ?」

ハボックは腕組みをしながらタバコを燻らせる。

「アメストリスの大総統府って言えば、イシュヴァールやら南部戦線やら、侵略やら粛清やらいろいろやらかしてるからな。

まぁ、怨んでるやつのネタは腐るほどある。

でも、なんでかその怨念は、3年前に死んだ、有望視されてた軍人、なんて具体的で身内なんだよ。

つまり、噂の元になった事件がありそうだって事なんだ。

しかも一番気になるのは、つい最近、その噂が振り返してるってこと。
その悲鳴を聞いたやつがいるらしい。

聞いてまわったら、みんな今一番気になる噂だっていうし。

関係ないかもしれないけど、そういう噂の元になってることが、大総統府であったってのは事実だと思うぜ」

    ☆☆☆☆

ロイは地下の通路を一人で歩いていた。

通路はロイ・グリードの記憶よりも、複雑になっていた。

基本的な通路は覚えているため支障はないが、昔使っていたところが破棄されていたり、新しい設備ができたところもあった。

見知らぬところを行く探究心と、知らなかったことを見つけた時に知識欲が満たされるのが心地よい。

何より、邪魔されずに考え込むことができる。

ゲームを初めてからすでに一週間。
まだ一度も妨害はしていない。
だが、エド達はいつ襲撃されるだろうかとかなり警戒しているはず。

いつ来るかもわからないものを待つのは、相当気力と体力を必要とするものだ。

もうそろそろ、妨害してみるのも悪くない。

ロイがふと気がつくと、いつの間にか知っている通路に出ていた。

ロイは通路を見渡して、ここに繋がっていたのかと関心しているようだ。

「こんなところでどうしたのかね?」

ロイの背後から声がした。
振り返ると、後ろで手を組んだラースが立っていた。

「これはラース、いや、知識にない新しい通路を確認していたんですよ。

いざと言う時に、目的地にたどり着けないのは困りますからね。」

しかし、ラースはロイ・グリードの言葉を軽く受け流した。

どうやら本題前のちょっとした話題作りだったようだ。

「ここしばらく、鋼の錬金術師とその周りが調べ物を始めたようだが…。

また何か仕掛けたのかね?」

ロイはラースの言葉に素直に頷く。

「ええ、またちょっとしたゲームを仕掛けただけですよ。」

ロイはニッコリしてラースを見た。

一方のラースは怪訝な顔をしている。

「もうウィルファットの件には片が付き、調べ物をさせる必要はあるまい。

何故、そのような提案をしたのかね?」

ラースはロイを睨みつけたが、ロイはちょっと考えるそぶりのあと、ふっと笑ってラースに背を向けた。

「私は強欲のグリード。
退屈は何より嫌いなんです。

それに、結局は誰も残る事はないのですから、心配いりませんよ。」

振り返りもせず、ロイはラースにひらひらと手を振って立ち去っていく。

ラースはその背中をヒタリと見据えて見送っている。

ラースの視線を背中に感じながら、ロイはまた笑みを零した。

これは私のゲームだ。
誰にも邪魔させる気はない。

    ★★★★


一週間目の夕方、8人はファルマンの借りているアパートの空き部屋に集まっていた。

ファルマンが借りているアパートは、裏通りのちょっと奥まった場所にあり、コンクリート製の古い建物だ。

利便性があまり良くないのと、建物が古い性で、ファルマンの他に住民はいない。

そこで、ファルマンの借りている隣の部屋を、ちゃっかり無断で拝借し、そこを活動拠点にしてしまっているのだ。

このところ、ヒューズは家族ごとアームストロング家にやっかいになり、女性のリザにはアルが護衛につき、あとのメンバーはこの秘密基地で共同生活をしていた。


今回、アルはまたホーエンハイムと調べ物をするとかで、集まっていない。

薄暗い部屋に一本だけろうそくを点し、その周りにメンバーは円座になっている。

軍服では目立つので、みんな私服だった。

エドはメンバーの顔をぐるりと見渡してから、口火を切った。

「みんなご苦労様。
この一週間で調べた事を、みんなでまとめてみたいんだ。
報告してくれないかな。」

いち早く手を挙げたのはヒューズだった。

「例の立て篭もり事件の現場の建物を、もう一度調べてみたんだが、なんかやっぱりありそうだぜ。
その製薬会社。」

みんなの視線を一身に浴びて、ヒューズは説明していく。

「製薬会社つーのは、確実に詳しい情報が軍で記録されるはずなんだが、どうも記録がうさん臭い。

改ざんされたか、もしくは最初からでたらめか、なんにせよ、裏がありそうだ。」

ヒューズの言葉に、エドは感心したようだ。

「へー、会社の詳細って軍が管理してんだ。
改ざんされたのが解るほど詳しい内容の記録があるもんなんだな。
知らなかった。」

ヒューズは床にあぐらをかいて座り、腕組みをしながらエドを見る。

「製薬会社、鉄鋼業界、採掘現場、鉄道会社、輸送業界、通信なんかが特に管理されてる。
そのなかでも製薬会社ってのは特殊でな。
薬の開発には莫大な金がかかるから、そこらへんは会社に出させて、できた薬は格安で優先的に軍に回すようになってんだ。

一度戦争がおこれば薬は必要不可欠だからな。」

一つの薬の包みが生死を分ける戦場では、薬は最後の命綱なのだ。

たしかに軍は状況把握に全力を尽くすだろう。

だとすれば、もちろん書類のチェックは厳しいものであるはずだ。

ならば、改ざんされたのは軍内部で行われた可能性が高い。

「軍内部にかかわるかもしれない問題だ。
もっと掘り下げるつもりだが、エド構わないか?」

エドはすぐに頷いて返した。

「俺もすごく気になる。
調べてみてくれ。」

ヒューズはニヤッと笑って、親指を立てた。

「了解。
次の時にはもっと形のあるようにしてくる。」

ヒューズの話が終わった次は、ブレダの番だった。

「ハボが拾ってきた怪談についてなんだが、俺自身も聞いて気になったんでちょっと詳しく調べてみた。」

エドは視線をヒューズからブレダに移した。

「ああ、軍人の怨霊の嘆きが聞こえるってやつ?
で、どんな感じ?」

「案外当たりかもしれないぜ?
噂が再燃しはじめた頃と、大佐がいなくなった時期が一致する。
なんでかわからねぇが、な。」

言葉に対してブレダの目は鋭い。

「つまり、大佐が、その噂の出所なんじゃないかってこと?」

「まだただの噂の上乗せなだけだ。
証拠はない。
しかも、…想像が現実に近い方が厄介だぜ?」

ブレダが言わんとしていることが、全員に伝わる。

噂の出所、つまり大総統府。
軍の最高機関が敵になるとすれば、いったいどうなることか。

腕組みをして黙っていたアームストロング少佐が、はっとすると、さっと口元に指をあててみんなに静かにするように促す。

メンバー全員が、その動きで緊張し、いつでも戦闘に入れるように武器をかまえた。

カツンカツンと、単調な足音がコンクリートの床を鳴らしながら近付いてきている。

足音は、エド達メンバーがいる部屋のドアの前で止まった。


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続く
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