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クリムゾン†レーキ


…31、仲間


ロイ・グリードは、秘密の通路を歩いていた。

この体になってから初めて一人で地下に降りてきたが、前のグリードの記憶のおかげで、入り組んだ通路でも迷うことはない。

非常灯のうすぼんやりした明かりが、ところどころ足元を照らしている。

進んでいくと、何本ものパイプが天井をうめつくしている太い通路に行き当たった。

遠くからキメラの唸り声が聞こえるが、気にせず進んでいく。

そうして行き着いた先にはパイプの大元がいる。

金髪の創造主、「父」が飾り気のない玉座に座り、頬杖をついて、いかにもけだるげにしている。

「ただいま参りました。
父上。」

ロイ・グリードは、無表情で父に声をかけた。

父は少しばかり顔を上げ、掘りの深い顔にできた影の奥から、ロイを見た。

「東ではご苦労だったなグリード。エンウ゛ィ-から詳しい報告は聞いているぞ。」

ロイは無言で頭を下げたが、内心は舌打ちしていた。
監視されるのは不快なものだ。

「鋼の錬金術師と取引をしたようだな?
何故だ。」

淡々とした口調ではあるが、瞳は鋭い視線でロイを射抜く。
しかし、ロイは肩を竦めただけで受け流した。

「取引というのは正解ではありません。
あれは一種のゲーム。
賭け遊びのようなものです。」

父は訝しむようにロイを探る。

「少しだけ、あの一件について情報を与えて探らせることで、私達が調べなければならなかった事をかわりに調べさせ、興味を持たせる事で人柱を逃がさないようにしたのです。

賭け事の部分としては、探らせる事をうまく誘導することができるかと、興味をもつかどうかが問題でした。

賭けはうまくいき、私がこの体でいるかぎり鋼の錬金術師が行方をくらますことはないでしょう。」

ロイは自信に満ちた口調で付け加えた。

「ご存知の通り、私は強欲ですので、つねに刺激が欲しい。
退屈は苦手なのです。」

父はロイを見つめたまま問い掛けた。

「賭けに勝ったというのなら、何を手に入れた?」

ロイは芝居がかった動作で、父に深くお辞儀をした。

「エンウ゛ィ-がいくら探しても見付からなかったカルマンドロ氏の消息を。」

「なんだって!?」

聞き耳をたてていたらしいエンウ゛ィ-が、離れた暗がりからあらわれた。

「あのヤブ医師、いくら探しても見付からなかったのに、ちょっと探したくらいのグリードに見つかるもんか!」

語気をあらげるエンウ゛ィ-に、ロイは嘲笑うように鼻で笑った。

「盗み聞きは関心しないなエンウ゛ィ-。
君が見つけられなかったとすると、君が鋼の錬金術師以下だった、ということなだけだ。
しかも、彼は最近まで生きていたらしいぞ。」

「そんな馬鹿なっ!」

エンウ゛ィ-は悔しそうに地団駄(じだんだ)を踏んだ。

「では、カルマンドロは死んだのか?」

父はエンウ゛ィ-の癇癪に感心を払わず、ロイに質問した。

「はい。
死亡については確認済みです。
あてもなく浮浪していたため、北の寒さで前の冬に凍死していました。」

父は少し考えてから、ロイに言った。

「わかった。
ならばこの件はもうよい。
グリードの方法については、しばらく様子を見る。」

「承知いたしました。
では、失礼します。」

ロイ・グリードは、父とエンウ゛ィ-に一礼すると、部屋を出て行くために、きびすを返した。

「気に入らないな。」

エンウ゛ィ-が、さっていくロイの背中に投げつけた不機嫌な言葉は、ロイの横顔に浮かんだ微笑みによって受け流されてしまった。

ロイ・グリードが歩いていくと、一枚の扉の前にラースが立っていた。

「一緒に乗っていくかね?」
ラースに声をかけられ、ロイ・グリードは怪訝な顔をして立ち止まった。

ラースはそれを見てとると、扉の脇のレバーを動かす。

すると、ラースの目の前の扉がスライドして開き、小さな部屋が現れた。

「これは驚いた。
エレベーターがあったのですか。知りませんでした。」

ロイ・グリードがエレベーターをしげしげと眺めながら乗り込んだ。

ラースがエレベーターの中のレバーを動かすと、エレベーターは音を立てて昇りはじめる。

「このエレベーターは、私が大総統になってから作られたものだ。
前のグリードが行方知らずだった間なので記憶にないのであろう。」

ラースは、出入口の金網ごしに、下へ流れていく壁を見つめたまま言った。

「なるほど、私が知らない新しい道もあるということですね。
なるほど…、覚えるものは多そうです。」

ロイ・グリードはおもしろいとばかりに、くすりっと笑う。

だんだんと、二人を乗せたエレベーターは地上に近づいていった。

    ★★★★


そのころ、エド達は中央司令部内にある、ロイに割り当てられた執務室にいた。

エド、ヒューズ、アームストロング少佐、ハボック、ブレダ、リザ、ファルマン、フュリーの総勢8名が居並ぶ。

軍内部なのでアルは来ていない。ホーエンハイムが調べ物をするとかで、そちらの手伝いに行っていた。

今はロイが各部署に挨拶に行っているということになっているので、ロイの姿はない。

エドがそれぞれの顔を見渡したあと、意を決したように口を開いた。

「俺達はこれから大佐と勝負することになる。

今度は俺とアルだけじゃ調べられないと思うから、みんなに協力を頼みたいんだけど、今回は調べものが終わるまでの間、大佐の妨害が入る。

しかも、今回は軍部内の調査になるとアルは手伝えない。

その妨害からみんなを守りきれたら、俺達の勝ち。
大佐から情報をぶんどるチャンスを得る。

逆に、俺が守りきれなかった場合、怪我をするとか、最悪殺されるとかする可能性がある。

それでも、協力してくれるか?」

ハボックがくわえた煙草を燻(くゆ)らせながらエドを見た。

「協力?
命令じゃなくてか?
俺達は、大将に率いられる気満々だぜ?」

エドは首を横に振った。

「たしかに、みんなとそういう風に約束したけど、やっぱり、俺がやるんなら、仲間として対等な立場じゃないと上手くやれない気がするんだ。

直接喧嘩売られたのは俺だし、俺がみんなを守らなくちゃならない。

ヒューズ中佐は少佐相当の俺より上だけど、中佐に頼って全部指揮してもらうんじゃなくて、みんなで考えていきたいんだ。

だから命令じゃなくて、協力のお願いなんだ。

命の危険も考えられる。
嫌だったら言ってくれ。」
しかし、誰からも反対の声はあがらなかった。

「命の危険なんて軍人はざらよ。
構うことはねぇ。
派手にやろうぜ。
しかし、何を調べるんだ?」

腕組をして聞いていたヒューズが、顔を上げてニヤリと笑った。

「ありがとう。
実は、ウィルファットの事件と東の人質狂言事件は、まだ秘密があるらしいんだ。

昔の事件とかとも関わりがあるのかもしれない。

あと、大佐がホムンクルスになっちまったヒントなんかもな。

すべての答えはセントラルにあると大佐は言ってた。
何から答えがでてくるかわからない。

軍の資料かもしれないし、噂話が取っ掛かりかもしれないし…」

リザは顎に手を当てて考えながら言った。

「なるほど、それを調べあげてみろというのね。
大佐の妨害をうけながらだと、難しい戦いになりそうね。」

アームストロング少佐は感動のあまりエドに抱き着いた。

「ぬぉぉおぉっ!!
エドワード・エルリック!
そんなに小さな体ですべてを背負わずとも、護衛は我輩も協力するぞ、安心するがよい!!」

「ぎゃーっ」

アームストロング少佐の巨体に抱かれたエドの体から、骨の断末魔がした。

ヒューズが苦笑しながら二人を眺める。

「少佐、エドを抱き潰さんよーにな。」

アームストロング少佐がエドを解放したのを確認してから、ヒューズは座っていたソファの背から立ち上がった。

「ともかく、こいつは難しい仕事になりそうだ…

が、どんとこいだろ?

いいか、この作戦のリーダーはエドで、俺達は仲間だ。
さぁ、みんな一丁やってやろうぜ!」

『おう!』

全員の声がヒューズに答えた。
そして、そのやり取りを冷たくあしらう声が続く。

「私の執務室で作戦会議かね?
ご苦労なことだ。」

全員が驚いて振り向くと、戸口に、冷笑を浮かべたロイが、腕を組んで立っていた。

「大佐っ!」

「ふ、この8人がメンバーか。
了解した。
私も自分のゲームに部外者は巻き込みたくはないからな。」

ロイはまっすぐに進み出るだけで、メンバーを左右に分けた。

「ヒューズ、おまえもか。」

「へ、俺はロイちゃんの親友であって、おまえさんの親友じゃあない。
それだけのことだ。」

「…確かにな。」

ロイは、自分の執務机ごしにエド達と向かい合うように立った。

「私のゲームにようこそ。

ルールは鋼の錬金術師が説明しただろう。
君達は私の妨害をうけながら調べものをし、見事無事に調べられたら君達の勝ちだ。

執務時間中は仕事をしてもらう。
私も基本的に仕事中は手を出さない。
それ以外の時間に私の妨害が入ると思ってくれ。

健闘を祈るよ諸君!」

笑うロイを8人が睨みつける。
戦いの第二幕が始まった。

クリムゾン†レーキ32に
続くよ
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