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クリムゾン†レーキ


…25、希望か絶望か


「く、

空気読めよ!
このすっとこどっこい!
何様だよてめぇえっ!」

エドがざくざく魚を掘り返しているホーエンハイムに、力いっぱいつっこんだ。

「えー?
これ以上やったらぱさぱさになるぞ?」

ホーエンハイムはさっさと泥の固まりを取り出して、穴を埋めている。

「ちげーよっ!
大事な話してんのに、なにが魚焼けたよーっだ!」

青筋たてて怒るエドを尻目に、ホーエンハイムは虹鱒のまわりの泥と包んでいた葉を剥がす。

とたんにおいしそうなかおりが、辺りに広がった。

「いらないか?」

「う…っ」

なにせ一日歩き詰めで、お腹はペコペコ。
体は素直である。

カルマンドロとエドにもおいしそうな虹鱒が配られ、食事になった。

香草のおかげで臭みもなく、塩味だけでも十分おいしい。

しばらく食事に専念し、残った骨や内臓は、獣を呼ばないように地面に埋めた。

ホーエンハイムは焚火に拳大の石を入れている。

「どうです?
なかなかうまかったでしょう。」

ホーエンハイムがカルマンドロに声をかけた。

「ええ、まったくです。
こんなにおいしい食事は何年ぶりでしょうね。
ごちそうさまでした。」

カルマンドロの言葉にエドも思わず頷いた。
それほどおいしかった。

「そいつはなにより。
さてエドワード。
話の途中だったんだっけな?」

ホーエンハイムに言われて、エドははっとしてカルマンドロを見た。

「そうだった!
なあ、カルマンドロさん。
その禁忌っていったいなんだったんだ?

あんたが本当の占い師だってんなら、俺達がいったい何をしたかわかるはずだ。

教えてくれ。
何が書いてあったんだ?」

エドに詰め寄られ、カルマンドロはため息をついた。

「…たしかにここまで調べた君達ならば、理解できるだろうが…。」

「頼む教えてくれ!」

カルマンドロはちらっとホーエンハイムを見た。
ホーエンハイムは小さく頷いた。
カルマンドロは観念したようだ。

「ウィルファードが残した錬成式。
それは

…ホムンクルスの作成式だ。」



「なっ!
ホムンクルスだって!?」


エドとアルが、思わず半場立ち上がるようにして叫ぶ。

「それ、本当か?」

「確かだ。

ホムンクルスの作り方、そのすべてが記されていた。」

エドは立ち上がり、カルマンドロをみた。

ーそれがあれば、大佐がホムンクルスに乗っ取られるのを防げるんじゃないか!?

「それがカルマンドロさんの体に書かれてるんだな!
お願いだ!
それを見せてくれ!」

カルマンドロは困ったような表情をした。

「それが…。
君達に会う直前に、ホーエンハイム氏と一緒だったろう、実はあの時、入れ墨とアザを消して貰ったのだ。

すまないが、もう、私の体に錬成式はかかれていない。」





『えぇえーっ!?』

エドとアルが落胆と絶望の悲鳴を上げる。

「いやぁ、はっはっは」

「何が、はっはっはだこのやろぉぉおっ!」

その脇で笑っていたホーエンハイムをエドが思いきり蹴飛ばした。

「じゃあ、錬成手帳とか」
「手元にはない。」

「重要なとこだけでも!」
「私の知識は忘れるようつとめてきた。」

「覚えてるところだけでも!」
「断片的なものは危険だ」

「うぅー」

エドはやる瀬ない顔で呻いた。
そんなエドにカルマンドロは、険しい視線を向ける。

「君は何故そんなに必死になる?
君には必要ないだろう。」

エドとアルは困ったように顔を見合わした。

「私は立場を話した。
等価交換だろう?」

エドとアルは頷きあうと、カルマンドロに再び向き直る。

「確かに。
危ない立場を教えてもらったもんな。
カルマンドロさんになら話しても大丈夫だろう。

実は、…。」

エドとアルは今までのいきさつを、ホーエンハイムとカルマンドロに話した。

ウィルファットでのこと、イーストでのこと、ロイのこと、そしてグリードとのゲーム。

二人は黙って聞いていた。

「本当にグリードと名乗ったのか?」

ホーエンハイムが、エドがあらかた説明し終えてから口を開いた。

「てめーに話した訳じゃねーんだけどな?
まぁ、その通りだ。
手の甲にカルマンドロさんの目元にあった印があった。」

ホーエンハイムは、小さく相槌を打っただけで黙り込んでしまった。

眉間に皺をよせて、考えこんでいるようだ。

カルマンドロはしばらく焚火を見つめていたが、火のなかで薪が爆ぜたのを合図に、エドに視線をうつした。

「確かに君には、あの入れ墨の錬成式が必要だったかもしれなかったな。」

エドとアルはちょっと残念そうにしたが、エドは頭(かぶり)を振ってカルマンドロを見た。

「いや、そういう錬成式があるってはっきりわかっただけでもいいさ。
前に進まないよりよっぽどいい。」

エドの意見にアルも同意した。

「考えて突き詰めれば、僕ら自身で説き明かせるかもしれないですから。」

二人の前向きな言葉に、カルマンドロは関心したように頷く。

「わかった。
君達ならば悪用もしないだろう。
君達の熱意に答えて、いいことを教えてあげよう。」

『いいこと?』

エドとアルが声をハモらせた。

「うむ。
実は、私はこの入れ墨の研究結果を本にしているのだ。」

カルマンドロの言葉に、エドとアルは目を丸くした。

「本だって!?
それこそ悪用されるんじゃねーか?」

「アザの解明ができたのは失踪した時ですよね?
死んだはずの人物が出した本ですか!?」

驚く二人に笑いながら、カルマンドロは言う。

「見たままの内容だと、ただの武器別の作戦論なのだがね。

二重に暗号をしこんであって、一度暗号を解いただけでは普通の錬金術の理論にしかならない。

ホムンクルスの理論にたどり着くには、一度目の暗号を完璧に解読し、なおかつ原文とまた照らし合わせながらでないとたどり着くことはできないようにしてあるのだ。

ホムンクルスの暗号まで気がつく人物はあまりいないだろう。」

エドは目を輝かせる。

「スゲー暗号なんだなぁ。
で、その本は今あんのか?」

カルマンドロは残念そうに首を振る。

「残念ながら手持ちはない。
知り合いに出版関係の仕事をしているものがいてな。

解読した以上、何らかの形で残すべきだと考えた私は、私が生前依頼していたように見せ掛けて、その本を出版してくれるように頼んだのだ。」

「ん?」

ふと、エドは何か頭の隅にひっかかるものを感じて、頭を捻った。

何なのかはわからないないが、前々から何かひっかかっている感じがして、すっきりしない。

「じゃあ、店や図書館でその本を調べれば…!?」

エドが考えているうちに、アルがカルマンドロに話を促す。

「…いや、そう簡単にはいかないだろう。
なにせ出版元だった彼の会社が火災に見舞われてしまっている。

火災前に出版されていた10冊の他はすべて焼失しているはずだ。

その火災で知り合いは死亡してしまったし、かなり昔の話でもある。

見つけるのは困難を極めるだろう。」

カルマンドロの話に、アルが気落ちしたようにうなだれた。

「そうでしたかー。
でも、探せば見つかるかもね、兄さん!
あ、ちなみに本の題名は?」

「うむ、戦術指南に見せ掛けているのでな。
武器使用別戦術論というのだ。」

暗号、古い本、戦術論…。ぐるぐるとエドの頭の中をキーワードがちらつく。

あーっ、なんかしっくりこねーっ!
なんだ?この違和感!
ちょっと前からなーんか思いだせなくてすっきりしねーんだよな。
いつからだ?
たしか、そう、ウィルファットの城病院で、エルビウムさんのネームプレート見てから…。

エルビウム…?
そうだ、エルビウムだ!

エドの記憶の扉が、一瞬にしてひらいた。

「そーだっ!!
思いだしたぁぁぁあぁあっ!!!」

思わず叫んで立ち上がったエドは、確信を持って叫んでいた。

それは開いた記憶の扉が、希望の扉でもあるということの確信であった。



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続く
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