クリムゾン†レーキ
…23、路地の出会い
「な、に、し、て、やがんだぁぁぁあっ!!!!
こんちくしょうがぁぁぁあぁっっ!!!!!」
ぼぎごりゅうぅぅう!
エドが、大絶叫と共に、ホーエンハイムへ、躊躇(ちゅうちょ)なしの渾身の飛び蹴りを食らわした!
一瞬ホーエンハイムがエドの叫びに気がついて、つい声の方を向いたもんだから、文句なしの顔面直撃だ!
「へぶんっ!!」
星占術師が呆気にとられて見守るなか、ホーエンハイムは変な悲鳴をあげながらまともに蹴り飛ばされて、向かいの壁に激突し、小気味よくバウンドしてきた。
その跳ね返されたホーエンハイムに、無言のままで鉄拳をその横っ面にぶち込んで地面にめりこませたのは、追い付いたアルだった。
さすが兄弟、という連係であるが、使い方を間違えている気がしないでもない。
マヌケなポーズで地面にめりこんだホーエンハイムはほって置き、エドとアルは星占術師にすぐ向き直った。
「おっちゃん、大丈夫か?」
星占術師は尻餅をついた体制のまま、いきなり現れて蹴りをかましたエドとアルを呆気にとられたように眺めている。
まだショックから立ち直っていない星占術師の目元には、小さくウロボロスの印が書かれていた。
「!?
おっさん!その印…」
エドが驚いて叫んだ時、星占術師の目元を錬成光が走り、ウロボロスの印は色をなくして跡形も無くなってしまった。
エドはわけがわからず、星占術師を指さしたまま固まってしまった。
「お~~痛い。
何をするんだ、酷いじゃないか。」
言いながら、復活したホーエンハイムが落ちた眼鏡を拾いあげる。
「!
もう、復活した!」
エドはホーエンハイムをにらみつけ、もう一撃くらわせようと身構える。
「あー、ストップストップ。
いい加減落ち着け。」
ホーエンハイムは言うが、エドは止まらず飛び掛かる!
「もう遅い!」
必殺の蹴りをホーエンハイムの腹目掛けて叩き込む。
的が大きいだけに、外す気はしない。
「まったく血の気が多いな、若者は。」
ホーエンハイムは人事のようにつぶやきながら、エドの蹴りをなんでもないように避けた。
「えっ!?」
エドの足が空を切り、脇を通り抜ける瞬間、ホーエンハイムはエドの腋の下に手を入れて抱き上げていた。
「なっ!てめぇー!
離せ!離しやがれーっ!」
なにせホーエンハイムは背が高いので、抱え上げられているエドは、じたばたしても足が下につかない。
「アル、ちょっと持ってて。」
ホーエンハイムは暴れるエドを、ひょいとアルに手渡した。
ついつい、アルは受け取ってしまう。
「アルっ!!」
「えーと、いや、つい。」
アルはちょっと困ったように答えた。
ホーエンハイムはそんな二人のやり取りを綺麗に無視して、星占術師の前に屈み込む。
「なんかちょっと邪魔が入りましたが、錬成はうまくいきました。
これでもう入れ墨もなければ、アザもでない。
あとは外国に逃げれば、ウロボロスたちからも大丈夫でしょう。」
「…本当に消えたのか?
全て…」
呆然とする星占術師の手は無意識に目元に触れた。
エドが見たウロボロスの印の場所だ。
「確かです。
もうウィルファードの呪いに悩まされる事はない。」
ホーエンハイムは、はっきりと告げた。
「お、おいおい!
ちょっと待て!
聞き捨てならねー事なにさらりと言ってんだ!
わけわかんねーよ!
説明しろ!」
アルに下ろして貰ったエドが、星占術師とホーエンハイムの間に割り込んだ。
「聞き捨てならない?
なんのことだ?」
ホーエンハイムは首を傾げる。
「全部だよ!
そらっとぼけやがって!
今、いってただろ?
ウィルファットとか、ウロボロスとか!
俺たち、今それを調べてんだよ!
そこの星占術師のオッサンに声かけられた事があったから、人を尋ねるつもりできたんだ。」
星占術師は、エドを見上げる。
「…そうか、あの時の二人か。
私に何を尋ねたかったのかね?」
エドはホーエンハイムを押しのけて、星占術師と顔を合わせる。
「ああ、オルス・カルマンドロっていう占い師を知ってるかと思って。
何年か前から行方不明なんだ。
行き先に心当たりはないかな?」
エドの言葉に、星占術師とホーエンハイムの表情が硬くなる。
「なぜ、そやつを探しているのだ?」
「命を狙われてるかもしれない事がわかったから、警告したいと思って。
知っちまった以上、知らんぷりはできないだろ?」
エドは星占術師を見つめ返した。
「ウロボロスのマークをもつ奴らが狙ってるんだ。
おっさん。
あんたの目元にあったのと同じ、な。
ホーエンハイム、あんたも殺人容疑がある。
まさか二人で手を組んでウィルファットの事件起こしてたとか、そんなんだったら、俺とアルは容赦しねーぞ?
どうなんだ?」
エドは睨みつけるように、二人を見たが、当のホーエンハイムと星占術師はお互い顔を見合わせて、表情を和らげた。
「そういう事ならば、その点は心配いらないな。
それに、私はその尋ね人についても知っている。」
エドははっとして、星占術師に食いついた。
「本当か!?」
星占術師は頷く。
「オルス・カルマンドロは、私の事だからね。」
……
『えぇぇぇえっ!?』
エドとアルの驚愕した声が、狭い路地に響き渡った。
「なんだ二人とも、知らんかったのか。
俺は、ウィルファットでお前たちにあったおかげでカルマンドロ氏に会えたんだがなぁ。」
ホーエンハイムが、さも以外そうに言った。
「え?
病院であった時に?」
アルがホーエンハイムに聞き返す。
「ああ。
ウィルファットより北の街で占い師に会ったって言ってただろう?
ここらへんの土地で占い師といったら、カルマンドロ氏ぐらいだからな。
それに、ウィルファットより北で、列車が通っていて、集落じゃないところとなると、この街ぐらいなのさ。」
ホーエンハイムもこれでなかなか鋭いようだ。
エドは気を取り直し、星占術師、カルマンドロと向かい合う。
「とにかく、会えてよかった。
今言ったように、ウィルファットで事件を起こした一味が、おっさんを狙ってんだ。
おっさんなら知ってるかもしれないけど、アレスター・グレイとか、なんとかレーブドールってヤツラも殺された。
おっさんの奥さんの妹さんも。
多分、ウィルファットの名家で生き残ってるのはおっさんだけなんだ。」
カルマンドロは、エドの言葉に頷いて、ゆっくり立ち上がる。
「よく調べたね。
ほとんど同じ話を先程ホーエンハイム氏からされたところだったのだ。
私は、ホーエンハイム氏が途中まで送ってくださるというので、北からドラクマに入る。
警告はしかと受け取った。ホーエンハイム氏、これからすぐ出発しよう。」
そういうと、カルマンドロは数少ない手荷物が入ったかばんを肩にかけた。
「そうですね。
それが良さそうだ。」
ホーエンハイムも、使いこまれたトランクを持ち上げた。
「あ、ちょっと待ってくれ、カルマンドロさん。
俺たち、聞きたいことがあるんだ。」
エドは早々と出発しそうな二人を呼び止める。
「なら、お前たちも一緒にくるといい。
国境まで話ができるからな。」
ホーエンハイムがそういうと、二人に背を向けて歩きだしていた。
エドとアルは頷きあうと、カルマンドロとホーエンハイムを追って路地を進んでいった。
遠く見える北の山並みは、白い衣をまといはじめていた。
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続く