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クリムゾン†レーキ


…20、追掛ける者




「ふー、くたびれた。」

エドはホテルのベッドに、ぼふんっと背中から倒れこんだ。

カーバンクルから軍宿舎に泊まるようにすすめられたが、二人はウィルファットの街中にあるホテルに宿をとっていた。

「お疲れ様、兄さん。」

アルは言いながら、エドが脱ぎっぱなしにした赤いコートをハンガーに引っ掛けている。

「ふーむ。
なんかいろいろごちゃごちゃしてるけど、なんか答えはすぐに見つかりそうだな。」

エドは天井の木目を眺めながら言った。

「なんで?」

アルがキョトンとして、エドに聞き返す。

エドは足をパタパタ振って、緩めていたブーツを吹っ飛ばしながら答えた。

「大佐、ノーヒントじゃ難しいだろーって、アレスター・グレイの名前をヒントに出していたんだ。
そんでその名前が、被害者リストに載っていた。

偶然じゃない。
きっと、次に狙う予定の人物なんじゃねーか?」

アルがエドのブーツを合わせて拾いあげた。

「なるほど。
じゃあ襲われるのを止めてみろって事なのかな?」

「かもしれない。
大佐は住んでる場所も、襲う方法も考えて言ってるとしたら、
…黙っているわけにはいかないよな。」

アルはブーツを邪魔にならないよう、机の下に置いた。

「でも、今、軍が探しているけど、見つかってないんだよね。
探すとしても、行方不明だし、時間かかりそうだね…。
間に合うかなぁ?」

二人はうーんと考えこんでしまった。
エドが独り言のようにぼやく。

「行方不明か~。
みんな町にいてくれればよかったのに!

そういや、なんであの三家は街から出てっちまったんだろ。
この街なら名門としていい暮らしができるだろーにな?

お高くとまってる奴らの考える事はわかんねーなぁ。」

エドの独り言にアルが顔を上げた。

「あ、原因じゃないかもしれないけど、
要因かもしれない理由は、僕知ってるかも。

あの三家、どこかに引越したのは、四年ぐらいで前で、ほぼ同時期なんだけど、その一年ぐらい前に、三家ともその時の当主が亡くなってるんだよね。

今回とは違って、怪我とか病気とか、原因はばらばらなんだけどさ。

狙われたと思って逃げ出したとか、考えられないかなぁ?」

エドは上半身を起き上がらせて、驚いてアルを見た。

「なんで、おまえがそんなこと知ってんだ?」

「報告書に書いてあったよ。
カーバンクル准佐が僕にも見せてくれたから、読んでもいい書類だと思って、兄さんが准佐と話している間に詳しくみてたんだ。

いろいろ書いてあったよ。」

アルは言いながら、エドと向かい合うように椅子に腰掛けた。

「なるほどな。
いや、ちょっと待てよ?
四年プラス一年で五年前だろ?

じゃあ、あのカルマンドロって言う行方不明者が出たのと同時期ってことか?」

エドの指摘に、アルもあっと身じろぐ。

「…たしかにそれもそうだね。
じゃあ、本当に事故や病気に見せ掛けて狙われていた可能性もあるのかな…?」
アルが首を捻る。

「もしかしたら、ほかの名門家でも五年前に亡くなった人はいるのかもしれない。

とすれば、今回の連続殺人事件は単発のものじゃなくて、その五年前に仕留めきれなかった分を襲ったって可能性もあるよな。

アル、その三家の当主の死因は?」

エドの声に緊張がにじむ。

「ええと、人の名前は覚えてないけど、たしか、交通事故と食中毒と肺癌だったかな?

肺癌はともかく、交通事故と食中毒は見せ掛けられるよね。

そういえば、書類に詳しい解剖記録は書いてなかったなぁ。
医学が発展してる街なのに。

家系図とか、建物の写真とかはかなり詳しく記載してあったんだけど…」

アルの言葉が、不安げに尻窄まりに消えていく。
エドも口を閉じたままだった。

まさか…と、胃の腑に冷たいものが流れこむ。

二人が顔を上げたのは、ほぼ同時だった。

「………アル…」
「………兄さん…」

二人は声を揃えて、考えついた言葉を相手にぶつけた。

「「まさか…、軍が加担していた?」」

「……お前もそう思うか?」
「兄さんこそ。」

二人は兄弟で同じ答に行き着いた事に苦笑した。

「でも、なんかしっくりする気がする。
だから、一年後、たまらなくなってあの三家は逃げ出したんじゃないか?
信頼できない奴らが街を牛耳っちまったんだから。

そして、カルマンドロって奴もその事に気がついたから、事故現場から逃げた…。

自分達を襲ったやつがしくじっても、軍に助けられたら、軍の施設にほうり込まれるいい口実を作っちまうからな。」

「確実に軍に不信感を持ってるだろうね。
僕達が見つけだせたとしても、信じて貰えるかなぁ?」

アルがため息まじりにつぶやく。
その時、エドの記憶がフラッシュバックした。


「テロリスト達は軍に監視されてると思いこんでるみたいなんだ。

とくにボス格のまとめ役、三人ぐらいがな。

確かにテロリストは警戒してはいるが、こいつらだけを特別視してるわけじゃねぇんだ。
変な話だろ?」


狂言テロリストの作戦中に聞いたハボックの言葉、

そして、

「実はウィルファットの事件とこの人騒がせな人質事件には繋がりがあってね。

それを明かしてみせたまえ。

むろん、私は事実を知っている。

どこまで正解できるかな?」


自分にテストと言う名前のゲームを吹っかけてきた時のロイの言葉。

「そうか…」

エドの中で何かがぴたりと重なり合う。

エドが驚愕とした顔でつぶやいた。

「兄さん?」

アルがいぶかしがって、エドを覗き込んだ。

「アル、わかったぞ。
あのテロリストとこの街の関係が!」

エドが真実を睨む目線でアルを見た。

「え!?」

アルがびっくりしたように声を上げた。
エドはかぶりを振って、導きだした答えを叫んだ。

「あのテロリストたちのボスは、行方不明だった三家の三人、
モーリス・ユリトロ、
アリスター・グレイ、
ローゼガー・レーブドールだったんだ!!」



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続く
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