クリムゾン†レーキ
…18、再びの街
エドとアルは、一日列車を乗り継ぎ、再びウィルファットの街に降り立った。
アルには車内で、ロイの事やテストの事などを詳しく話しあっているので、状況はよく把握していた。
「っあ~!
やっとついたぁっ!」
ホームに降り立ったエドは、ぐっと腕を伸ばして伸びをしてから、その伸ばしていた拳を手の平に打ち合わせた。
「よーっしゃ!
なんでも突き止めてやるぜ!」
気合い十分な兄の後ろから、トランクを持ったアルがホームに降りた。
「本当に長かったねー。東方から列車でもさ。
さて、これからどうする?
やっぱりウィルファットの軍に行くのが一番かな。
いきなり会いにいったら、カーバンクル准佐驚くだろうね。」
「まぁ、この前帰ったばっかりの奴がまたいきなり来たんだから驚くだろうな。
でも、まず会いにいくほうがいいだろ。
あれからもいろいろ調べてくれてるだろうしな。
それから、この街には、例の怪しい女もいるはずだろ?
そいつは絶対調べないとな。」
エドは顎に手をあてて考えたが、あまりぱっとした名案は浮かばない。
二人は改札を抜けて、とりあえずウィルファットの軍基地に向かうことにした。
通りで捕まえた辻馬車(馬車のタクシー)に乗り込み、ウィルファットの基地へ向かう。
連続殺人犯という危険が過ぎ去ったためか、四日前のような緊張感はない。
エドとアルは前の通りで馬車から降りると、そのままずんずん中に入っていった。
「鋼の錬金術師、エドワード・エルリックだ。
カーバンクル准佐に取り付いてもらいたいんだけど。」
受け付けのお姉さんはすぐにカーバンクル准佐に連絡をとってくれ、そのまま彼の執務室に通された。
「鋼の錬金術師!
アルフォンス君まで!
先日おかえりになったとばかり思っておりましたが?」
案の定、カーバンクルは驚きながら二人を司令室に迎えいれた。
先日は見かけなかったカーバンクルの部下達も、今日は事務仕事に追われているようだ。
「うん、一度東方司令部には戻ったんだけど、気になる事があってとんぼ返りしてきたんだ。
ちょっと尋ねたい事があって。」
カーバンクルは二人をソファーに座るようにすすめ、心よく頷いた。
「私でよろしければ何なりと。」
エドはすぐに質問した。
「じゃあ、大佐の失踪事件についての調べはどこまでいってるんだ?」
カーバンクルは申し訳ないように、一つため息をついた。
「その件に関しては、調査が打ち切りになっていますので、新たな情報はなにも…。」
エドはローテーブルに身を乗り出した。
「どうして!?」
カーバンクルは残念そうにしながらエドを見た。
「致し方ありません。
失踪された本人がお帰りになったのですから。
それにマスタング大佐直々に、調査の中止が言い渡されました。」
エドが列車に揺られている間に、ロイが手をうっておいたのだろう。
エドは悔しそうにはがみした。
ーでも、何か調べられてまずい事があるってことなのかもな…。
エドは質問を変えた。
「じゃあ、例の連続殺人の件は?」
「はい、あの事件も犯人自体は貴方がたの尽力で捕まえられたので、今は被害者の身元や、犯人の証言で判明したアジトなどを調査しているところです。
しかし、今はどちらかというとエルビウムさんの医療事故に関しての調査が主体ですね。
どうも腑に落ちない件が浮かび上がりまして。」
「腑に落ちない?」
「はい。
今のところ、犯人が誰であるかわからないのです。」
「?
俺はエルビウムさんは医療ミスで亡くなったって聞いたけど。
エルビウムさんの担当の医者が行方不明になったんだろ?
逃げたってことは、ミスしたのはそいつじゃないのか?」
しかし、カーバンクルは首を振って否定をあらわした。
「しかし、それだとおかしい話がでてきたのです。
エルビウムさんの病室は、軍によって厳重に隠されていました。
再び殺人犯に狙われるのを防ぐためです。
そのため、彼女を知る医者は極力限られるようにし、彼女担当専門の医者は、ただ一人しかつけませんでした。
しかし、唯一医療ミスができるその医者は、鋼の錬金術師たちが殺人犯を捕まえたあの日の昼ごろに事故死していたのです。
あの日はなにせ慌ただしく、死亡していた場所も普段全く使われない非常階段だったので、発見されたのは鋼の錬金術師達が東方にお帰りになってからでした。
これで、死亡した時間帯に、エルビウムさんに近く事ができる医者がいなくなってしまったのです。
薬品投与の医療ミスですので、犯人は医者でないと…少なくとも、それ相当の知識がなければなりませんし、看護師は病室に入れないようにしておりました。
これでは容疑者がいなくなってしまうのです。」
困ったようにカーバンクルは続ける。
「そのうえ、医療ミスがあった時間帯に、エルビウムさんの病室から離れていく人物の目撃証言がありまして…」
「なんだ。じやあ話は簡単じゃないか?
そいつを調べてみればいいじゃないか。」
エドの言葉に、カーバンクルは聞き耳を避けるように声を落として答えた。
「それが…、
その人物はすでに事故死しているはずの医者だったんですよ。」
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続く