クリムゾン†レーキ
…17、信じる道
がたがたと悪路を行く車列の最後尾を、エドとハボックが乗り込んだ車は走っていた。
しんがりの車からはタバコの煙りがなびいている。
その一番隅で、エドはハボックにだいたいの粗筋とテストの事を耳打ちした。
「何だって!?
おいおい、それマジなのか大将。」
ハボックは信じられない。
と、いうより信じたくないように目を丸くして言った。
「…今の状態で冗談なんかいえねーだろ。」
ぶすっとした顔でエドが言う。
「ああ、いや、すまねぇ。
別に大将が嘘っぱち言ってるかって疑ってる訳じゃないんだ。
ただ、信じがたくてな…。」
ハボックは、すまなさそうにちょっと頭を下げた。
「確かに、ほかの誰かが聞いても信じられねぇだろうけど、でも、事実だ。
俺は大佐の手の甲に第五研究所の奴らと同じ印を見た。
俺が追い掛けていた奴らと同じ…。
大佐は自分をホムンクルスだって言った。
多分、あの印はホムンクルスの証なんだ。」
エドの言葉に、ハボックは真剣な顔付きになる。
「そんでその大佐はウィルファットの一件と今回の事件が、関わってるって言うんだろ?
その話、信じられるのか?
俺達と大将を離しておきたいから、テキトーな事言ってんじゃねーか?」
エドはちらっと考えたが、すぐに頭を横に振る。
「いや、確かにほかに思惑があるかもしれないけど、ただ嘘っぱちを言ってる感じはしなかった。
本当に何かあるんだと思う。
ただそれが、なんのかはわからないけど。」
ハボックはエドの話方をじっと観察していたが、エドが言葉を言い終えると、目を反らしタバコの煙りを外に向けて吐き出した。
「試して悪かった。
俺達軍人ってのは、間違った情報を見抜けるように訓練されているもんなんだ。
俺は実際、大将と大佐の話に立ち会ってないからな。
悪いと思ったが、大佐の思惑を大将で調べさせてもらった。」
軍人の性ってのは嫌なもんだぜ、とハボックはため息をつく。
「で?
なんかわかったか?」
「そうだな。
少なくとも、調べて何もないところに行かせて時間稼ぎって訳じゃなさそうだ。
ウィルファットは大佐自身行方不明になったところだ。
叩いて埃がでないことはないだろ。」
真剣な顔付きのハボックは、普段の飄々としたイメージからは考えられないほど、鋭い目をしていた。
「なるほどな。
じゃあ、ハボック少尉は戻ったら、中尉やみんなにこっそり伝えてくれ。
俺はアルと一緒にすぐウィルファットに発つ。」
エドの提案にハボックはちょっと慌てた。
「おい、大将。
確かに大将と大佐のテストでも、二人だけで行くのかよ。
俺達も使ってくれ!」
「今はダメだ。
第一、俺はみんなの使い方がわからない。
それより今は、あの大佐から東方司令部を守らなくちゃいけないと思うんだ。
大佐はハボック少尉達の安全は保証したけど、少尉達の部下達の事までは言ってない。
もしかしたら、司令部が大変な事になるかもしれないだろ?
それを止めるのは、俺にはできない。
大佐の近くにいられる、ハボック少尉達じゃないとできないんだ。」
そう言うエドに、ハボックはニヤッと笑いかけ、エドの頭をくしゃっと撫でた。
「できてるよ。大将。
適材適所をちゃんと弁えてんじゃねーか。
わかった。東方は任せろ。
だから大将も頼む。
俺達もできるかぎりバックアップすっからな。」
エドはハボックを見つめて頷いた。
そうこうしているうちに、車列は東方司令部の門をくぐり抜け、次々に所定位置に停車していく。
それと入れ代わりに、瓦礫撤去組が出発していく。
すでに連絡がついていたのか、ブレダ少尉の部下達が、護送車からテロリスト6名を降ろしている。
護送車に乗せる時、念入りな身体チェックをうけたはずだが、テロリスト達は最低限の衣服以外をすべて脱がされて、さらにチェックされていた。
ロイが悠然と車から降りてくるのを横目で確認しながら、エドは車が停車するとすぐにトラックの荷台から飛び下りて司令部へ駆けていった。
廊下を一目散に駆け抜け、ロイの執務室つきの事務室にノックもしないで飛び込んだ。
「アル!」
フュリーやファルマンがびっくりしている横を通りすぎると、驚いて黒革張りのソファーから腰を浮かしているアルが見えた。
「兄さん!
どうしたの?
そんなに慌てて!」
エドは、びっくりしているアルの横に置いてあったトランクを引っつかみ、くるりと踵を返す。
「アル、すぐウィルファットに出発するぞ。
急げ!」
「ええっ!?」
目を丸くするアル(文章的比喩)を急かし、エドはアルと一緒に、走って来た廊下を引き返す。
「お疲れ様でした大佐。
こちらはたいしたことはありませんでした。」
「ふ、こちらも、たいしたことはなかったよ。
中尉。」
廊下の進行方向から、後ろにホークアイ中尉を従わせ、悠々と歩いてくるのは、ロイ・マスタング大佐その人である。
走り抜けていくエドと通り抜けていくロイの視線が、すれ違いざま一瞬絡み合う。
しかし、次の瞬間には、二人は視線を離し、それぞれの進行方向へ目を向けた。
二人のテストの静かな幕開けであった。
クリムゾン†レーキ⑱に
続く