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クリムゾン†レーキ


…16、賽は投げられた



「言ったな?鋼の…。」

ロイは燃え上がる火の手に照らし出され、紅に染まる横顔に笑みを浮かべる。

「最後まで、あがき続ける気はあるかね?
君が思うほどヌルイ事ではないぞ?」

ロイの鋭い眼光にさらされるが、エドは笑い飛ばす。

「あんたいまさら何言ってんだ。
もともと国家錬金術師になった時から茨の道は覚悟の上。
俺はあがき続ける。あきらめる気はない。
人生にしても、あんたに対してもな!」

エドは語気荒く言い切る。
ロイはそんなエドを値踏みするように眺めた。

「確かに…な。
ならば、君と一つ勝負といこうか。
君が最後まであがき続ける事ができるかの、簡単なテストだ。」

「テスト?」

ロイは頷く。

「そう。
実はウィルファットの事件とこの人騒がせな人質事件には繋がりがあってね。
それを明かしてみせたまえ。
むろん、私は事実を知っている。
どこまで正解できるかな?」

「…あやしいな。
あんたには、なんの得があるってんだ?
得るものがないだろ。」

いぶかしがるエドにロイはさらりと言い放つ。

「私は強欲のグリード。
退屈が何より嫌いでね。
君が捜査に専念している間は、君の観察で楽しめるだろう?
これが私の得というわけだ。」

エドはロイの提案の真意を受け取りあぐねた。
ロイはエドの迷いに気付いたのか、不思議そうにした。

「先程の威勢はどうした。
それとも何か気掛かりがあるのかね?」

エドは迷いを見せる瞳をロイに向けた。

「そのテスト、俺やアルがやるとして…。
俺が司令部にいないときにあんたが中尉達になにかしないとも限らない…だろ?」

ロイはエドの表情を見てピンと来た。

「なるほど、先程オリジナルに彼らを守れとでも言われたかね?
ふふ、隠し事は苦手のようだな」

「ぐっ」

エドは苦虫をかみつぶしたような顔をしたが、ロイは笑っている。

「安心したまえ。

彼らはこの私にとって意のままに操ることができる便利で優秀な手足だ。

いますぐ切り捨てるなどという事はせん。

私は独占欲も支配欲も強くてね。

少なくとも東方司令部にいる間は、私は手放しも傷つけもしない。

それに、君が私のゲームに参加することで彼らの命も生きながらえる事になるかもな。」

「なんだと?」

「私は傷つけるつもりは毛頭ないが、大切な部下を危険な作戦に仕方なく参加させなければならない事も出て来るだろう。

君がゲームに参加してくれたなら、君が彼らを大切にしている事を思いだして、作戦をもう一度考え直し、危険を回避できる可能性を思いつく事もあるかもしれない。」

ロイの目は、どちらにしても本心だと告げていた。

「…ちくしょう、わかった。
そんなら、もし、俺があんたが思っていた以上に成果があげられたらなんか特典はつくか?」

「そうだね。
君がもし私の期待以上の成果を上げたなら、君が得た情報それ自体が君への何よりの報酬になるかもしれないな。

何せ君が探ろうと言う情報の為に事件が起きたようなものだ。
普段ならば、闇に葬られた情報を探ろうとする者は片っ端から仕留めている。

この提案は命あるうえで探れる又とないチャンスなのさ。

そして、君がもともと求めている材料にも近いかもしれないね。」

エドはロイを睨んだが、結局ため息をついてロイの提案を飲んだ。

「みてろよ、ねこそぎ調べ抜いて、白日のもとに曝してやる!」

「後見人の私がそんなことになれば君も困ることになると思うのだがねぇ。」

「う…。
このやろ!水差すな!」

二人がそんなやり取りをしている間、部下の面々が消火活動をしてくれたのかだいぶ火の勢いは衰えてきていた。

ロイはそのようすを見てとると、エドに背を向けて歩きだす。

「どこ行くんだよ大佐。」

「ここでこうしていてもしかたない。
部下達のところに戻る。
君もついてきたまえ。
ああ、そうそう、ノーヒントじゃかわいそうかな?
アリスター・グレイ、覚えておきたまえ。」

「誰だよそれ!」

「それを突き止めるのが君の仕事だ。」

ロイはエドの返事を待たずにまた歩きだした。

「中央入りまではなにもしないさ。
もっとも、それまでにはあと二週間もかからないだろうがね。」

そう、小さくつぶやきながら。

    ★☆☆☆


「テロリストの奴らは生け捕りが6名、他はすべて銃殺か火災で死亡したと思われます。
建物内から逃亡したものはありません。

人質と思われていた者も狂言であることが判明しているため、一般人の被害者は無しです。」

「そうか、ご苦労だった。
ならばファルマン隊ハボック隊は速やかに撤退。
司令部から瓦礫撤去の捜査班を出動させろ。
私も司令部に戻る。」

ロイは、焦げたり破れたりした軍服の上から黒いコートを羽織り、ボロボロの軍服を隠していた。

そして、何事もなかったかのように部下に指示を与えている。

エドはその姿を睨みつけるように眺めていた。

テロリスト達で捕まえたのは6名。
最初エドやハボックが捕まえた奴らである。

そのほかのメンバーは、建物に仕掛けられていた爆弾の爆発や、それによる火災に巻き込まれて死亡したことになっていた。

エドはやり切れない気持ちを胸にかかえ、ぶすっとした面持ちで周りの動きを観察する。

ハボックやファルマンの隊の人員は優秀で、ハボックが大人数のほぼ全体的な指示を、ファルマンは少人数の小隊ずつの指示を出している。

動きは迅速で、的確だ。

ー確かに大佐が重宝するのも解る気がする。

おかげで建物は倒壊してしまったが、周りの森には燃え移ることはなかったし、軍人達に巻き込まれたものはいなかった。

消火も終わり、ぶすぶすと煙りが名残惜し気に空に消えていく。

護送車に捕まえたテロリスト達を詰め込んで、軍用トラックに順序よくハボック達が乗り込めば、撤退の準備はほぼ完了だ。

軍人達は向かい合う形で荷台の縁に沿って乗り込んでいる。

エドはハボックが乗っている車輌を見つけ、比較的人数が少なかったので、そのままトラックに乗り込んだ。

ロイも軍用車に乗る。

「では、出発!」

ロイの号令で、軍人を満載した車列が司令部に向けて動きだした。

土煙をもうもうとたてながら、古いアスファルトを踏み締めていく。

トラックは、がたがた揺れるので乗り心地がいいとはお世辞にも言えないが、輸送には適している。

エドは今気がついたのだが、乗っているトラックはどうやらヘビースモーカーばかりが乗り込んでいるらしかった。

出発したとたんに乗っている軍人達が各々タバコに火をつけだしたのだ。

直ぐさま視界がぼやけるほど煙くなってきた。

トラックは幌(ほろ)で包まれているので、箱の中で燻(いぶ)されるスモークチーズの気持ちがどんなものか解るほど煙い。

エドは目をちくちく指す煙を避けて、荷台の一番後ろで外側に向けて煙をはくハボックの向かいに腰を下ろした。

「お、大将。
燻されてきたか?」

「煙たくてたまんないよ。
なんでこんなに乗ってる人が少ないんだと思ってたら、みんなスーパーヘビー級のスモーカーなんだもんな。
普通のタバコ吸う人だって逃げ出すはずだ。」

外気をゼーハー吸いながらエドは悪態をつく。

「でもあえて俺の近くに来るんだから、なんか理由があんだろう?大将。」

笑いながらハボックは、短くなったタバコを大事そうに吸っている。

「さすが鋭いな。
うん。

実は話があるんだ。」



クリムゾン†レーキ⑯に
続く
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