黒の聖域
銃弾はエドワードの足元に突き刺り、二人は動きを止めた。
「ソノ娘、渡してもらおうか」
くぐもった声がして、岩陰からウエットスーツのようなものを纏った男が銃口をこちらに向けたまま現れた。
エドワードは少女を抱え上げ、男を睨んだ。
「てめぇみてぇな怪しい奴に、おいそれと従うほど素直じゃねぇんでな。願い下げだ!」←アメストリス語
「チャート!守れ!逃げるぞ!」←英語
エドワードとチャートが身を翻すと同時に、今まで立っていた場所の砂が爆ぜる。
チャートは拾っていた貝殻を手裏剣のように男目掛けて投げ付けた。
男は冷静にそれを避けると、エドワード達を追い掛けるために走りだす。
エドワードは背後からの銃弾を避けるためにあえて少女をおぶった。
その体は冷たい。
-はやくこの子を温めないと!
エドワードとチャートは生い茂る木々の間に飛び込んだ。
エドワードは少女を背負ったままで林間を駆けていた。
どうやら怪しい奴はエドワードを追い掛ける事にしたらしい。自分のものではない、追撃者の足音が迫ってきている。
エドワードのすぐ横の木の表面が弾けた。
-撃ってきやがった!
馬鹿か、腕に自信があるのか…!
ちらりと振り向くと、追撃者はすぐ後ろに迫っていた。
銃口が火を吹く。
「ぐあぁっ!?」
銃弾はエドワードの左足に着弾した。エドワードはバランスを崩し、目の前の木に体を打ち付ける。
どうにか少女は庇ったが、一瞬息が詰まり、視界がぼやけた。
「大人しく、そやつを渡さんからだ…」
追撃者が銃口をエドワードに向ける。
エドワードは少女を背に庇いながら、追撃者を恨めしく睨み返した。
「…くそったれが」
追撃者はエドワードの頭に標準を合わせた…
そしてー…
「…がはぁっ!!?」
のけ反り、鮮血を流したのは追撃者の方だった。
木の上で待機していたチャートが、降りてくる勢いを利用して、解剖用のメスで追撃者の肩を刺したのだ。
「研究員だからってなめるなよ!」
追撃者はチャートに向かって発砲したが、彼は軽く後退して銃弾を避け、距離をとる。
そのスキにエドワードが立ち上がり、掬い上げるような蹴りを追撃者の側面に突き刺した。
「悪いが特別製でな!」
破れたエドワードのズボンの隙間から、鋼の義足が垣間見えた。
追撃者は流石に声もなく、その場に崩れ落ちた。
「チャート。こいつを始末しておいてくれ。
あと、アメストリス軍になんか言われても黙ってろよ。」
「イエス・サー」
チャートは軽い敬礼で答えると、自分の仕事にとりかかる。
エドワードは少女を抱き直し、戦艦へと急ぎ駆け出した。
戦艦の中は思ったほど揺れが激しい訳ではなかった。エドワードは自室のドアを開くと壁に埋め込まれた硬い寝具に少女を降ろした。
すぐに濡れた服を脱がすと予備の毛布やシーツで包み、発熱カイロで体を温める。
電熱器で湯を沸かしていると、ようやく少女の頬に赤見が注してきて、エドワードはホッと胸を撫で下ろした。
温めたタオルを硬く搾って少女の足や手等を強めに擦りながら、エドワードは苦い顔をしていた。
少女の体には無数の浅い傷が刻まれていたのだ。
-この島はアメストリスが管理しているはずだ…。
ならばこの少女をここに連れてきたのは…アメストリス軍。それなら俺達を襲ってきた奴が地理に詳しくてもおかしくないし、ドンパチやっても兵士を見かけなかった事にも説明がつく…。
軍がやってる事なら、ラッセルやハボック少尉が知らない訳がない…!
ハボック少尉がこんなこと命令するはずがない…っ!
エドワードは冷たいものが背中を伝って行くのを感じずにはいられなかった。
この島に案内したのはハボックなのだ。
「信じていいんだよな…
ラッセル、ハボック少尉」
エドワードが思わず呟いた声に反応したのか、少女が呻き声を漏らした。
エドワードは手を動かすのをやめて少女の顔を覗きこんだ。
漆黒の髪は無惨に絡まりあい、本来かわいらしいだろう頬は少々窶れている。
隈が浮いた目が、ゆっくりとひらいた。
エドワードの脳裏に、誰かと似ていると言う直感が閃いた。
「大丈夫か?俺の言葉が解るか?」
少女の瞳の焦点が、エドワードにあった。するとビクっと震え上がり、寝具の端に身を縮こませてしまった。
「大丈夫だ。
怖がらなくていい。ここは安全だから。」
エドワードは怖がらせないようにぎこちなく笑いながら、湯をカップに注いで少女に差し出した。
「辛くなかったら飲め。あったまるぜ。」
「…」
少女はエドワードの手から怖ず怖ずとカップを受け取ると、ゆっくり飲みだした。
「俺はエドワード・エルリック。よろしくな。嬢ちゃん。」
「…」
「名前、教えてくれないか?」
「…」
「なんで波打ち際にいたんだ?」
「…っ」
ビクリと反応するが答えはしなかった。エドワードは諦めたように溜息をついて座り直す。
-言葉は通じるのか。
「喋れないのか?」
「…」
少女は俯いてしまった。
エドワードは困ってしまって頭をかいた。
-本来、こういう事は管轄外なんだよな…
「あの…」
「!」
少女は身を起こそうとして、痛みに顔をしかめた。
「まだねてろ!怪我してるんだから!」
エドワードは慌ててその細い体を支えてやった。
「ありがとう…。
私…、……エリザベス・グラマン」
「エリザベスか。よろしくな」
「…」
エリザベスはまた俯いて黙ってしまった。
「…
エリザベスはアメストリス軍に捕まってたんだな?」
「えっ!?」
エリザベスは俄かに、驚いた表情になった。
「心配するな。
俺はアメストリス人だが、もう軍属の類いじゃない。しばらく匿ってやれる。
だから安心してくれ。」
エドワードは笑いながら、エリザベスの頭を撫でた。
しかし、エリザベスからは反対に瞳から大きな涙が零れ落ちた。
「っ!?」
エドワードの方がぎくっとして身をすくませてしまった。
「お、おい!どうした!?どこか痛いのか!?」
しかし、エリザベスは首を横に振る。ボロボロと流れ落ちる涙は止まりそうになかった。
「……お父さん…」
エドワードにはなにも言えなかった
4に続く
※※※※※※※※
説明臭くなっちゃって申し訳ないっス!早くもっとテンポのいい所打ちたいよぉ~(泣)
「ソノ娘、渡してもらおうか」
くぐもった声がして、岩陰からウエットスーツのようなものを纏った男が銃口をこちらに向けたまま現れた。
エドワードは少女を抱え上げ、男を睨んだ。
「てめぇみてぇな怪しい奴に、おいそれと従うほど素直じゃねぇんでな。願い下げだ!」←アメストリス語
「チャート!守れ!逃げるぞ!」←英語
エドワードとチャートが身を翻すと同時に、今まで立っていた場所の砂が爆ぜる。
チャートは拾っていた貝殻を手裏剣のように男目掛けて投げ付けた。
男は冷静にそれを避けると、エドワード達を追い掛けるために走りだす。
エドワードは背後からの銃弾を避けるためにあえて少女をおぶった。
その体は冷たい。
-はやくこの子を温めないと!
エドワードとチャートは生い茂る木々の間に飛び込んだ。
エドワードは少女を背負ったままで林間を駆けていた。
どうやら怪しい奴はエドワードを追い掛ける事にしたらしい。自分のものではない、追撃者の足音が迫ってきている。
エドワードのすぐ横の木の表面が弾けた。
-撃ってきやがった!
馬鹿か、腕に自信があるのか…!
ちらりと振り向くと、追撃者はすぐ後ろに迫っていた。
銃口が火を吹く。
「ぐあぁっ!?」
銃弾はエドワードの左足に着弾した。エドワードはバランスを崩し、目の前の木に体を打ち付ける。
どうにか少女は庇ったが、一瞬息が詰まり、視界がぼやけた。
「大人しく、そやつを渡さんからだ…」
追撃者が銃口をエドワードに向ける。
エドワードは少女を背に庇いながら、追撃者を恨めしく睨み返した。
「…くそったれが」
追撃者はエドワードの頭に標準を合わせた…
そしてー…
「…がはぁっ!!?」
のけ反り、鮮血を流したのは追撃者の方だった。
木の上で待機していたチャートが、降りてくる勢いを利用して、解剖用のメスで追撃者の肩を刺したのだ。
「研究員だからってなめるなよ!」
追撃者はチャートに向かって発砲したが、彼は軽く後退して銃弾を避け、距離をとる。
そのスキにエドワードが立ち上がり、掬い上げるような蹴りを追撃者の側面に突き刺した。
「悪いが特別製でな!」
破れたエドワードのズボンの隙間から、鋼の義足が垣間見えた。
追撃者は流石に声もなく、その場に崩れ落ちた。
「チャート。こいつを始末しておいてくれ。
あと、アメストリス軍になんか言われても黙ってろよ。」
「イエス・サー」
チャートは軽い敬礼で答えると、自分の仕事にとりかかる。
エドワードは少女を抱き直し、戦艦へと急ぎ駆け出した。
戦艦の中は思ったほど揺れが激しい訳ではなかった。エドワードは自室のドアを開くと壁に埋め込まれた硬い寝具に少女を降ろした。
すぐに濡れた服を脱がすと予備の毛布やシーツで包み、発熱カイロで体を温める。
電熱器で湯を沸かしていると、ようやく少女の頬に赤見が注してきて、エドワードはホッと胸を撫で下ろした。
温めたタオルを硬く搾って少女の足や手等を強めに擦りながら、エドワードは苦い顔をしていた。
少女の体には無数の浅い傷が刻まれていたのだ。
-この島はアメストリスが管理しているはずだ…。
ならばこの少女をここに連れてきたのは…アメストリス軍。それなら俺達を襲ってきた奴が地理に詳しくてもおかしくないし、ドンパチやっても兵士を見かけなかった事にも説明がつく…。
軍がやってる事なら、ラッセルやハボック少尉が知らない訳がない…!
ハボック少尉がこんなこと命令するはずがない…っ!
エドワードは冷たいものが背中を伝って行くのを感じずにはいられなかった。
この島に案内したのはハボックなのだ。
「信じていいんだよな…
ラッセル、ハボック少尉」
エドワードが思わず呟いた声に反応したのか、少女が呻き声を漏らした。
エドワードは手を動かすのをやめて少女の顔を覗きこんだ。
漆黒の髪は無惨に絡まりあい、本来かわいらしいだろう頬は少々窶れている。
隈が浮いた目が、ゆっくりとひらいた。
エドワードの脳裏に、誰かと似ていると言う直感が閃いた。
「大丈夫か?俺の言葉が解るか?」
少女の瞳の焦点が、エドワードにあった。するとビクっと震え上がり、寝具の端に身を縮こませてしまった。
「大丈夫だ。
怖がらなくていい。ここは安全だから。」
エドワードは怖がらせないようにぎこちなく笑いながら、湯をカップに注いで少女に差し出した。
「辛くなかったら飲め。あったまるぜ。」
「…」
少女はエドワードの手から怖ず怖ずとカップを受け取ると、ゆっくり飲みだした。
「俺はエドワード・エルリック。よろしくな。嬢ちゃん。」
「…」
「名前、教えてくれないか?」
「…」
「なんで波打ち際にいたんだ?」
「…っ」
ビクリと反応するが答えはしなかった。エドワードは諦めたように溜息をついて座り直す。
-言葉は通じるのか。
「喋れないのか?」
「…」
少女は俯いてしまった。
エドワードは困ってしまって頭をかいた。
-本来、こういう事は管轄外なんだよな…
「あの…」
「!」
少女は身を起こそうとして、痛みに顔をしかめた。
「まだねてろ!怪我してるんだから!」
エドワードは慌ててその細い体を支えてやった。
「ありがとう…。
私…、……エリザベス・グラマン」
「エリザベスか。よろしくな」
「…」
エリザベスはまた俯いて黙ってしまった。
「…
エリザベスはアメストリス軍に捕まってたんだな?」
「えっ!?」
エリザベスは俄かに、驚いた表情になった。
「心配するな。
俺はアメストリス人だが、もう軍属の類いじゃない。しばらく匿ってやれる。
だから安心してくれ。」
エドワードは笑いながら、エリザベスの頭を撫でた。
しかし、エリザベスからは反対に瞳から大きな涙が零れ落ちた。
「っ!?」
エドワードの方がぎくっとして身をすくませてしまった。
「お、おい!どうした!?どこか痛いのか!?」
しかし、エリザベスは首を横に振る。ボロボロと流れ落ちる涙は止まりそうになかった。
「……お父さん…」
エドワードにはなにも言えなかった
4に続く
※※※※※※※※
説明臭くなっちゃって申し訳ないっス!早くもっとテンポのいい所打ちたいよぉ~(泣)