クリムゾン†レーキ
…12、閉塞戦闘
エドが勢いよく両手を壁につけると、瞬く錬成光がハボックの視界を埋めつくした。
錬成光は廊下の壁の一部を盛り上がらせ、あっという間に巨大なガトリング砲を作り上げる。
黒光りする砲身が、廊下の先に潜むテロリストたちを睨んでいた。
「くらえぇっ!」
エドが景気よく引き金を引く!
ガダラララララララっっ!
エドの気合いとともに打ち出された弾丸は、雨のように廊下を叩き、
コンクリートの壁をえぐり、火花を散らしながらテロリストがいた辺りを蜂の巣にしてしまった。
エドの容赦も情けもない銃撃に、テロリスト達が浮足立ったところでハボック達が突撃し、難無く一網打尽にしてしまう。
「ハボック少尉ナイス!」
「大将もな!」
ハボックはテロリスト達を縛り上げたところで、隊を二つに分けた。
狭い室内を大勢で攻めるのは効果的ではないからだ。
「小回りのきく大将と俺でテロリスト達を撹乱する。
お前らは体制の崩れたテロリストを片っ端から捕縛しろ。
生死は問わねぇ。
行くぞ。」
銃を構えたハボックと腕のオートメイルの一部を刃に変えたエドは、他の兵士達より先行して通路の奥に駆け出した。
二人が進んでいく先は先程のように殺風景な廊下が続いている。
そろそろ建物の前に固まっていたテロリスト達も、後ろからの攻撃に気がつくころだろう。
エドは走りながら横のハボックを見上げた。
「なぁ、ハボック少尉。
テロリスト達って人質とってんだろ?
こんなに派手に攻撃して大丈夫なのか?」
ハボックは前を向いて走ったまま答える。
「ああ、実は、人質達もテロリストの仲間で狂言なのがわかってんだ。
人質になったとなれば、証言とるために軍は基地の中に人質だった奴をいれるだろ?
それを狙ってるらしいんだ。
まぁ、司令部に直接攻撃するためなのか、司令部に入り込んだ人間なら疑われることなく逃げられると思ったんだかわかんねーけどな。
それよりも…。」
廊下の先に人影が見えた。
ハボックとエドはすかさず脇にあった通路に逃げ込み、放たれた銃撃から身を隠す。
「テロリスト達は軍に監視されてると思いこんでるみたいなんだ。
とくにボス格のまとめ役三人ぐらいがな。
確かにテロリストは警戒してはいるが、こいつらだけを特別視してるわけじゃねぇんだ。
変な話だろ?」
ハボックが話ながら銃撃の合間を縫ってテロリストに反撃する。
いくたびかの銃声のあと、廊下の先で悲鳴とともに重いものが倒れる音がした。
「そろそろ大佐が動くころだ。
急ぐぜ大将」
ハボックとエドは揃って横道から飛び出し、尚も建物の中を進んでいく。
先ほど攻撃してきたテロリスト達を踏み越えていくと、中庭に面した廊下に出た。
どうやら、この建物は中庭の四方をぐるりと囲んだ作りらしい。
エドとハボックから見て、正面の壁が、ファルマンや大佐達が攻めている正面の方になるはずである。
中庭は荒れ放題で、雑草や木々がところ狭しと生い茂っていて、いかにも罠がありそうだ。
エドが庭に視線を向けた瞬間、向かいの庭に面した壁がいきなり爆砕した。
「うおっ!?」
「大佐達が動きだしたって連絡きたぜ!
大佐の焔だろ」
エドとハボックが庭に気を取られながら走っていると、二人の耳に、ピンッという小さな音が届いた。
二人がはっとして見ると、足元に細い糸がひっかかり、その糸の先には…
信管の抜けた手榴弾が。
「ーっっ!!」
「やべっ!!」
ずどんっっ!
先程爆砕した反対側の壁も、エドやハボックと共に閃光に包まれ、粉々に弾けとんだのであった。
☆☆★★
ロイは、両手に発火布の手袋をはめて、建物内を進行していた。
感覚としては悪くない。
良好と言うべきだろう。
また三人ほどの武装した輩が、廊下の角から現れた。
断続的に散弾銃をロイに向かって発射してきているが、ロイは立ち止まらない。
足元を軍服を体を弾がなぐ。
しかし、ロイは薄い笑いを浮かべて、発火布を構えた。
「それが、どうした?」
テロリスト達は気圧されたように、顔を引き攣らせる。
ロイは発火布から閃光を放つ。
紅い光は虚空を焼き、テロリスト達に肉薄する。
高熱の焔は白い光を弾けさせた。
火炎のなかに立ち、ロイは笑う。
「狭い空間では熱や衝撃が逃げにくい。
どうだ?炉の中で焼かれているようだろう。
ん?どうした…?
ああ、そうか。
もう聞こえていなかったか。」
ロイは荒れ狂う焔を操るために、また錬成光を発した。
光は周りの焔を巻きとるようにして進んでゆき、丁字路の突き当たりの壁を爆砕した。
爆砕したところから中庭が見える。
覗いてみると、中庭を挟んで反対側の壁が爆発したところだった。
「ハボックか、鋼のがあそこで暴れておるのかもしれんな。」
丁字路の真ん中で中庭を見ていると、気付けば左右からテロリストの銃口で狙われていた。
「甘い」
気配だけでロイはテロリスト達の場所を特定すると、次の瞬間には焔が左右の廊下をうめつくした。
テロリスト達が吹き飛んだのを確認すると、ロイは一人だけ生き残っていたテロリストに近いて軍靴で踏み付けた。
「うぐっ」
「ほぅ、まだ呻くだけの元気が残っていたか。
ならば私の問いにも答えられるだろう。
おまえ達のボスはどこにいる?」
ロイは容赦なくテロリストの火傷を踏みにじり、体重をかける。
「ふぐ、ああぁっ!」
「答えろ」
がくがくと痙攣し、水ぶくれで腫れ上がる顔をロイに向け、テロリストの男は喘ぐ。
「た、助けてくれぇっ頼む!」
「質問に答えろ。
そうすれば助かる可能性はあるかもしれんぞ?」
ニヤリと笑うロイに、その男は縋り付くような声を出した。
「ぼ、ボス達は、トンズラこいた!
ここにはもういない!!」
「…」
ロイは無言で男を睨みつける。
底冷えするような瞳が、テロリストの男を縮み上がらせた。
「…残念だったな。
おまえは生き残る最後のチャンスを逃した。」
「あ、あ、ぁ、
悪かった!助けてくれ助けてくれ助けてくれぇぇ!!
ボスは、ボスは人質のフリして、お、奥の部屋にっ!お願いだ!
本当にいるんだ!
嘘じゃない!」
ロイは足元に縋り付く男から足を上げた。
助かるのかと顔を上げた男の表情が凍りつく。
「たしかに本当だろう。
最初から言っていれば少しは考えたものを…な」
ロイの発火から火花が散る。
テロリストの男は悲鳴をあげる間もなく、火炎に包まれた。
「…まぁ、考えるだけで、結局行き着く答えは
同じだがな…」
クリムゾン†レーキ⑬に
続く