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クリムゾン†レーキ


…11、不自然な感触


「今、戻った。
皆心配をかけたな。」

ロイは扉から背を離し、己に視線を注ぐ一同を見渡した。
「大佐、よくご無事で。
お怪我の手当は、お済みですか?
どうやってこちらにお戻りに?」

リザが誰よりも早く気を取り直し、ロイに声をかけた。

「ああ、なんともない。
怪我などしておらんよ。

それよりも、テロから犯行声明があったのだろう?
私になにがあったかよりも、先に事件の解決をしなければならない。
私に何があったかの説明は後でも可能だが、人質の命を後回しにするわけにはいかないからな。

ハボック、ファルマン!
至急出動準備だ!」

「へい!!」「はっ!!」

ロイが発した指令に、ハボックとファルマンはすばやく敬礼で答えた。
そして直ぐさま外に駆けていく。
室内はその号令で我にかえったようにそれぞれが動きだし、司令室がたちまちのうちに機能しだした。

「大佐…」

エドは目の前に現れたロイが信じられないように、ロイを見上げていた。

「なんだね?鋼の。
そんな幽霊でも見たような顔をして。
そんなにほうけている暇はないぞ?
君にも作戦に協力してもらうからな。」

ロイはそういうと、ニヤリと笑う。
その笑いにエドは何となく身構えてしまった。

ロイはまとめられた資料に目を通し、リザやフュリーに指示をだしていく。

やがて、ハボックとファルマンが出動準備が完了したと報告に戻ってきた。
ロイは頷くと、よく通る声で司令室に作戦指示をだす。

「これより対テロ組織の作戦を開始する。
ハボックの隊とファルマンの隊、鋼の、私が現地へ赴く。
アルフォンス君は司令部で待機。
ホークアイ中尉もここに残り、犯人達からの連絡に答えるフリをするように。
もしかしたら、犯行グループは私が行方不明だったという情報を掴んでいるかもしれん。
それを逆手にとれるかもしれないからな。

ファルマン隊で正面を包囲し、犯行グループとの取引に応じていると見せ掛けて、ハボック隊と鋼ので背後から攻める。
背後からの攻撃で浮足立ったところで、私も攻撃に参加し畳み掛ける。
ファルマン隊は全体の補助及び包囲だ。アリの子一匹逃がすな。

なにより、人質の確保が最優先。
相手は凶悪犯だと報告もある。
犯行グループの逃走を防ぐため、生け捕りでなくてもかまわん。

異論はないな?」

『はっ!!』

ロイの鋭い視線に、腹心の部下たちは敬礼で答えた。
エドも一応敬礼を返す。

「兄さん気をつけてね。」

「ああ、大丈夫だ。
ちゃちゃっと行ってすぐに終わらせてくるさ。
留守番頼むぜ、んじゃ行ってくる」

心配そうにするアルに、エドは荷物を預けて、ロイやハボック達と一緒に車に乗り込んで司令部を出た。


他の兵士たちと一緒に軍用のジープで揺られて20分ほどいくと、テロ組織が立て篭もる郊外の建物にたどり着いた。

雑木林に囲まれた鉄筋コンクリートの建物で、古いが丈夫そうな作りをしている。
もとは製薬会社の研究所と倉庫であったらしく、相当広いようだ。

窓ガラスはほとんど割れていて、うす汚れたボロボロのカーテンごしにテロリストたちが軍の到着を確認していることがわかった。

建物の手前には駐車場だったらしい舗装した広い場所があり、
そこへロイが乗った車とファルマン隊が車を止めた。

所々ヒビが入り、雑草が顔をだしている路面を踏み締め、ファルマン隊が手際よく建物の正面に展開する。

テロリスト達がそちらに気を取られている間に、ハボック隊とエドは雑木林の裏手に回り、車を降りて薮の中を進み建物の裏に展開した。

下草が長く、密集しているので、隠れるのには事かかない。

裏手側は細い通路を挟んですぐに雑木林になっていて、小さな勝手口と申し訳程度の窓が無愛想な壁に取り付けてある。

こちらの窓ガラスはまだ生きているが、曇りガラスなうえに苔が生えていて中の様子は解らない。

エドは注意深く建物を警戒しながら、ロイからの合図を待っているハボックに近いた。

「ハボック少尉」

「おお、大将か。
どうした?」

ハボックも銃を構えて建物を警戒していたが、エドにひそめた声でちゃんと返事をしてくれた。

「合図があったら突撃だけど、あの小さな勝手口じゃハボック少尉の隊皆がすぐに中入るのは難しいだろ?
俺が錬金術で壁に穴開けちまったほうがいいかと思って。」

「そいつは助かる。
頼めるか大将」

エドは小さくうなづくと、両手を胸の前で合わせ、いつでも錬金術を使えるように身構えた。

「相手は凶悪犯らしいから、ドア開けたとたんに爆発!なんてことも考えられるし頼もうと思ってたんだ。

何せあの大佐が生死不問を指示したくらいだからな。」

エドはハボックの言葉に首を傾げた。

「大佐が犯人の生死を問わないのって珍しいのか?」

ハボックは無線に耳を当てながら頷いた。

「ああ、すっごい珍しいぜ。
生きてりゃ情報聞きだして、芋蔓式に検挙もできるし、隠し武器も押収できるし、バックグラウンドやアンダーグラウンドの情報も聞き出せるからな。
できるだけ生け捕りするのが大佐の方針なんだ。

だから命令の時点で生死不問なのはすっごい珍しいんだぜ。
大将も気をつけてくれよ。
おっと!合図だ!大将頼む!」

「了解!」

エドはハボックの横を擦り抜け、あっという間に通路に踊り出ると、両手を建物の壁に当てた。
するとみるみるうちに壁はごてごてした装飾が施された観音開きの扉になり、エドはさっさと中に突入してしまう。

ハボックは自分の隊員に中に入るように指示すると、エドを追って錬成された扉から中に駆け込む。

「遅かったな、ハボック少尉」

ハボックが中に入ると、そこは研究室の一室で、壊れた備え付けの棚や台がいくつか放置されていた。

エドは部屋の真ん中で、ノビているテロリスト三人程を踏み台にして立っていた。

「裏手からの攻撃に備えてた奴らみたい。
狭い勝手口から入ってこようとしたやつらを蜂の巣にする予定だったみたいだ。」
「さすが大将だな…」

ハボックは後から来た部下に捕縛を命じて、エドと一緒に先を目指す。

研究室のドアを開けると、すかさず弾が開け放たれたドアをかすめていった。

コンクリートの打ちっぱなしの通路の奥にテロリストが構えているようだ。

「おーおー、またかまえてやがる。」

ハボックはドアの陰に身を隠し、反撃のために銃をかまえる。

「めんどくせぇ!
ここは任せろハボック少尉!」

エドは両手を合わせ、盛大に錬成光を煌めかせた!



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続く
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