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クリムゾン†レーキ


…10、敵と味方


東方司令部にエド、アル、リザの三人が乗った護送車が、約一日がかりの長いみちのりをへて到着した。
その三人を、ハボックとブレダが隊を引き連れて出迎える。
護送車が入口正面に止まると、囲むように兵士たちが配備され、ハイエストを警戒していることが読み取れた。

「ハボック少尉、ブレダ少尉!」

エドが車から降りて声をかけると、二人とも軽く手を上げて挨拶を返した。

「お疲れさん、大将。
長旅ご苦労様」

ハボックが気軽に声をかける。
エドに続いてアルも降りてきて、ハボックとブレダに会釈した。

「あのな、少尉、実は大さが…」
しかし、エドが慌てて言いかけたことを、ブレダが一本たてた指を口にあてることで遮る。

「大将、そんな大事なことは今いうべきじゃねぇ。
ここじゃ誰が聞いてるかわかんねぇからな。
そのことについては中尉に連絡貰ってる。
心配すんな」

「あ…、うん、ごめん。」

エドが慌てて口を閉ざした。
隣にいたハボックが、車から降りたリザに敬礼した。

「お疲れ様です中尉」

「ハボック少尉、ブレダ少尉ご苦労様。
ブレダ少尉、ハイエストの取り調べをお願いするわ。
私は将軍に報告があるから、ハボック少尉は二人をお願い。」

「了解!」

ブレダとハボックが敬礼で答えた。
ブレダは車の方へ、ハボックは二人を司令部の大佐の執務室へ連れていく。

執務室つきの事務室には、ファルマンやフュリーが待っていた。

「お帰りなさいお二人とも。ハボック少尉もお疲れ様です。」

「おう。
さて、二人とも疲れただろまずは座ってくれよ。」

ハボックがエドとアルを黒い革張りのソファーに座らせる。

「中尉から話は聞いてるが…。
大佐が行方不明になっちまったんだろ?」

ハボックは煙草に火をつけながらエドとアルに聞いた。

「ああ。
殺人鬼追っかけて捕まえて戻ってきたらいなくなってたんだ。」

「大量の血と焼け焦がした跡だけ残っていたんです。」

俯く兄弟を見て、ハボックが煙草の煙りを吐き出した。

「中尉もそういってたな。
ウィルファットのカーバンクル准佐の連絡で、その血痕が大佐のもんだったって朝に判明した。
大将、俺たちは頭を失っちまったかもしれない。」

「ハボック少尉!
それじゃあ!!」

驚いて立ち上がりかけたエドをハボックが手でせいした。

「待て待て、別に俺たちは望みを捨てたわけじゃない。
そういう可能性の話をしてるんだ。
それに俺たちは軍人だ、みんなそういう覚悟ははなっからある。
だけどな…」

ハボックはそこで少し言葉を切った。
そして、煙草を指で口から離してからエドを見る。

「今回の事件は例の組織絡みかもしれないんだろ?
そうしたら、事件自体揉み消されっちまうかもしれないし、マスタング組はばらばらにされちまうだろう。

でも、そうなっちまったら大佐がどうなったのか真相が調べられなくなる。
俺たちはそれはなんとしても避けたいんだ。

だから大将、本当に勝手だけどお願いがあるんだ。
もし、大佐が戻って来なかったら、俺たちの上司になってくれねぇか?」

ハボックの申し出に、エドは目を丸くして驚いた。

「なんだよそれ!
確かに俺は少佐相当官だけど、軍人じゃねぇし、第一いきなりみんなを俺の部下になんかできないだろ!?
中尉やブレダ少尉は了解してるのか!?」

ハボックは頷く。

「みんなで話した結果なんだ。
中尉が今、グラマン中将に報告しにいってるのは、将軍にもこのことに協力してもらえるか掛け合いにいってるからなんだ。

無理いってんのは承知のうえでお願いだ大将、俺たちの力になってくれねぇか?」

ハボック、ファルマン、フュリーのすがるような視線がエドの一身に集まる。
エドは考えるように顔を伏せた。

「兄さん…」

俯くエドにアルが声をかける。

「……俺だって、アルをもとに戻すっつー目的があんだよ。」

エドの小さくつぶやいた一言に大人三人は落胆したような目を向ける。

「そ、そうだよな無理言って…」
「だけどっ!!!」

ばんっっ!!

エドの両手がローテーブルに打ち付けられて、大きな音を立てた。

エドは顔を上げて大人三人を見上げた。

「大佐にこの情報渡して巻き込んだのは俺だ!
大佐がどうなったのか、俺自身知らないと気がすまない!

俺は軍人じゃないから、戦術も部下の扱いもよくわからないけど…。
でももし、大佐が見つからなかったら、俺がみんな引き取って大佐のこと調べよう、それでいいなら俺引き受けるよ!」

エドがはっきり言い切った言葉に、大人三人はぱっと表情を明るくした。

「ありがとう!
すまねぇ、大将!」

ハボックがエドの手をとって、ものすごく嬉しそうに感謝の言葉をのべた。

エドはその様子にちょっとあっけにとられながら、アルの方を見た。

「すまねぇ、アル。
また遠回りになっちまうけど…」

「ううん、兄さんなら了解すると思ったし、何より僕だって真相が知りたいよ。」

アルの快い承諾にエドはホッとしたように笑った。
そんなところにリザが事務室に入ってきた。

「その様子だと、エドワード君は承諾してくれたみたいね。」

リザも嬉しそうにエドに微笑んだ。

「こちらも今将軍に話をつけてきたわ。
もし大佐がみつからなくて、ばらばらに異動されそうになった時は、時間をかせいでエドワード君の下に付けてくださるそうよ。」

こちらも嬉しい報せであった。

「とりあえずこれで先が見えたわ。
今は通常業務に差し支えないように仕事をこなしましょう。
ブレダ少尉がハイエストの取り調べをしているからその裏付けもしなければならないし。」

リザがテキパキとハボックたちに指示をだし、それぞれの業務に戻っていく。

「エドワード君とアルフォンス君は、今回の事件の報告書をお願いできるかしら。
ひま潰しにもなると思うから。」

「わかった。」

エドとアルはリザに差し出された用紙に、ウィルファットの事件の証言をまとめにかかる。

そうして2時間ほど時間が経った頃だった。
フュリーが通信機のヘッドフォンを支えながら振り返り、声を響かせたのは。

「ただいまテログループによる犯行声明が入りました!」

その一言で、事務室の空気は一瞬にして緊張感を帯びた。

「郊外のビルに人質をとって立て篭もり、要求に応えなければ人質を殺害すると言っているらしいです!」

「犯行グループの要求は?」

リザの質問にフュリーはすぐに答えた。

「軍による監視と、攻撃の停止、金と移動手段の用意を要求しています。」


「ふん、小物だな」

答えたのはリザの声ではなかった。
よく通る低い男性の声。

室内にいた全員が、はっとして声がした入口のドアの方を向いた。

腕を組み、不敵な笑みを浮かべて扉に寄り掛かるように立っていたのは、紛れも無い…

「大佐!!」

ロイ・マスタング大佐、その人であった。


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続く
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