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クリムゾン†レーキ

…8、闇夜の血印



しばらくして、リザとエドが待っていた電話ボックスに数台の軍用車が駆け付け、ハイエストは逮捕された。

エドとアルとリザは、ハイエストが護送されていくのを見送り、別の軍用車でロイと別れた場所へ急いだ。

病院からエド達が乗ってきた車の所にたどり着くと、そこは軍人たちが辺りを封鎖し、調査の真っ最中であった。

「カーバンクル准佐!」

エドは乗せてきてもらった軍用車から降りると、すぐにキープアウトと書かれた黄色いテープをくぐって、部下に指示を出しているカーバンクルに声をかけた。

「!
鋼の錬金術師、ホークアイ中尉、アルフォンス君!
三人ともよく無事で。」

カーバンクルは三人を見て、安心したような、申し訳ないような複雑な表情をした。

その顔は、宵闇を照らすライトの中で青ざめているように見えた。

「マスタング大佐が行方不明と聞きましたが、一体何があったのですか?」

リザが、カーバンクルに尋ねる。

「うむ、先ほど、犯人と接触があり、君達三人が追っているとマスタング大佐から連絡があったのだが、
その連絡の途中で何者かに襲われたらしく通信が途切れたのだ。

我われが急行した時は、もうすでにマスタング大佐はおられず、激しい戦闘の痕跡しか残っていなかった。

今調査中なのだが、三人は襲い掛かったと思われる人物に心当たりはないだろうか?」

エドは車の周りを見渡して、血の飛び散った跡がいくつもあるのに気がついた。

所々、焼け焦げた跡もあり、ロイが焔で戦っただろう形跡が見受けられる。

「俺達があの犯人と出会った時、俺をかばって大佐が腕に怪我をした。

だから大佐が残ってカーバンクル准佐達に連絡するから、俺達に追い掛けるように言ったんだ。

その時はあいつしかいなかったように見えたけど、
あいつは仕切に、何とかの女神に命令されたとか、何とかの天使に包丁貰ったとか言ってたから、
もしかしたら、もう一人目撃されてた女ってのが近くにいたのかもしれない。

としたら、きっと大佐はそいつに…」

エドの脳裏に第五研究所で出会った、ラストという女性が過ぎる。

ーもしも大佐がホムンクルスと戦ったとしたら、いくら大佐でも無事じゃすまない。
まだ戦ってるのか、怪我で動けなくなってるか、それとも…。

「わかりました。
ではそのように捜査を手配いたします。

…マスタング大佐が戦ったらしい痕跡が残っておりますが。
ご検分いたしますか?」

「戦ったのはここじゃないのか?」

エドが車の周りを示しながら言った。

「確かにここでも戦ったようですが、決着がついたのはここではなかったようです。
どうぞこちらへ」

そういって、カーバンクルが三人を車の横の路地に案内した。

最初にハイエストに襲われた所とはまた別の路地。
下を見ると確かに点々と滴った血が道筋を示している。

その路地も、入って少し行っただけで行き止まりになる浅いものだった。

そして、血の道しるべのまま、行き止まりの所まで行ってみると…

「……!」

路地の一番奥の壁には、
火炎によって黒々と焼け焦げた跡と、致死量と思われる程の血しぶきが

煉瓦で作られた壁一面を染め上げていた。



    ★★☆★


「参ったわね。
ハイエストが捕まってしまったのは予想外だったわ。」

ラストは、ビルの上から、足元でうごめく青い軍服の集団に視線を向けた。

「ちょっと爪が甘いんじゃなーい?
ラストおばはん?」

ビルの非常階段から、軽い口調の軍服の男があらわれた。
ラストは男が現れたことに見向きもしないで、フェンスごしに下を眺めている。

「予想外な因子が四人も入ってきたんだから、しょうがないじゃないの。
エンウ゛ィ-。」

ラストは、一つため息をついた。

「何?
言い訳?
僕の事、とやかく言えないんじゃない?」

軍服の男の姿が、ラストに一歩近くごとに錬成光を放ち、ラストの横にたどり着く頃には、容姿が全く別の人物になっていた。

ホムンクルスの一人、嫉妬の名をもつエンウ゛ィ-であった。

「うるさいわね。
とにかく、貴方は病院にいる最後のターゲット、始末してちょうだい。」

エンウ゛ィ-はお安いご用と、手を振った。

「はいはい、医療ミスに見せ掛けるなんて、このエンウ゛ィ-様には軽い仕事だからね。
それよりもさ、ラスト、
その足元に転がってんのって…」

エンウ゛ィ-がラストの足元に横たわるものを指さす。
そこには人が一人、横たわっていた。
青い軍服は血で染まり、ぴくりとも動かない。

「それって、焔の大佐じゃない?
殺しちゃったの?
あーあ、大切な人柱候補だったのに。」

エンウ゛ィ-がもったいないという口調で言う。
ラストはけだるげにロイを見た。

「大丈夫。まだぎりぎりで生きてるから。
お父様に連絡したら、連れてこいとの仰せでね、私はセントラルに戻らなくてはならなくなったから貴方を呼んだのよ。」

ラストはピンヒールでロイを突いた。
ロイはされるがままだ。

「いいじゃないの。
どうやら、この街で仕留めなければならないのは、もう病院にいる一人だけのようだから。」

エンウ゛ィ-もフェンスから下を見下ろす。
有象無象が自分より下に見るのは、あるべき姿になったようでエンウ゛ィ-は好きだった。

「まぁ、お父様のご命令だからしかたないけどさ。
グラトニーあたりに食べさせちゃえば楽なのに。
わざわざ医療ミスに見せ掛けるなんてね」

食べさせたら一瞬だよ?とエンウ゛ィ-が首をかしげたが、ラストは冷たく否定しただけだった。

「ちゃんと始末してちょうだい。
後々面倒な事になったら嫌でしょう?
それじゃ、あとよろしく。」

そういって、ラストはロイを引きずって行った。

エンウ゛ィ-はもう一度、ビルから街を眺める。
目指す城は闇夜に隠れて見えないが、街の明かりは丘にそって連なっているので城の場所をおのずと示していた。

「さぁて、じゃあ、僕も仕事に行きますか。」



クリムゾン†レーキ⑨に
続く
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