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クリムゾン†レーキ

…7、紅と闇



エドの目の前に、赤い鮮血が散った。

「油断するな鋼の!」

「大佐!」

エドの目の前、
かばうために差し出されたロイの腕から鮮血が滴る。

アルに切り掛かるように思われたハイエストは、目前で標的を変え、横にいたエドに襲い掛ったのだが、
ロイのとっさの判断で、エドの前に腕を出し、エドをハイエストの刃からかばったのだ。

「成る程、腕が立つようですね。
黒髪の国隷様!」

ハイエストは笑いながら後ろに距離をとり、そのまま逃げていく。

例え軍服の上からであっても、凶刃から受けたダメージは深いらしく、ロイの軍服の袖はみるみる血にそまっていった。

「中尉!鋼の!アルフォンス!
私の事はいい!
奴を追え!
私は応援をよぶ!」

一瞬迷いをみせたものの、三人はハイエストに向かって走りだす。

ハイエストは闇がつつむ街を知り尽くしているらしく、迷うことなく、また別の細い路地に入った。

三人もその路地に消えるのを見送り、ロイは軍用車のドアを開き、立ったまま無線でカーバンクルに連絡をとる。

「こちらマスタングだ!

801番地のK20付近で犯人と思しき人物と交戦!

現在、ホークアイ中尉とエルリック兄弟が追跡している。
至急応援と展開を…」

現在地を標識で確認しながら連絡をとっていたロイに、背後に突然ひやりとした殺気が吹き付ける!

「…!」

咄嗟に無線を手放し、横に飛びのいたものの、ロイは背に焼け付くような痛みを感じた。

「う、ぐ…っ!」

「あら、ごめんなさい。
一太刀で決めるつもりだったのだけれど、流石ね。」

背を庇い、距離をとりつつ振り向けば、そこには闇からうまれた女が一人。

「あなたを殺したくはないのだけれど、これ以上調べられるわけにいかないのよ。

特に、あなたたちには…ね」

紅を注した唇を、妖しく笑わせて、ラストは最強の矛を振り上げた。

ロイも手に嵌めた発火布を打ち鳴らす。

「なるほど、大当りだったわけだ!」

闇色の刃と紅の焔が錯綜した。

    ★★★☆


「こんにゃろー!待てぇ!」

入り組んだ路地を自由に走り、ハイエストは三人を巻こうとしていた。

「あいつ、細い路地の入り組んだところばっかり逃げるな。」

「僕がぎりぎり通れるぐらいの幅しかないもんね。

地理に詳しくないとこんな逃げかたはできないよ。」

ハイエストも、しっかりついてくる三人に焦れているようだった。

リザはちらりと標札を確認すると、アルの横についた。

「アルフォンス君、次の丁字路で待っていてちょうだい。」

「?、はい、わかりました。」

「エド君は私と一緒に!」

「わかった!」

ハイエストがまっすぐ走り抜けた丁字路でアルは立ち止まる。
アルの右側には、より細い路地があり、小さい丁字路を作っていた。

リザとエドはそこを走り抜け、ハイエストを追う。

ハイエストがちらりと振り向き、一人脱落したと思ったらしい。
少し笑ったようにみえた。

少し行ったところで、今度は左右に別れた丁字路にハイエストが差し掛かった。

ハイエストは迷わず左に曲がろうとしたが、リザがすかさず発砲し、行くてを遮ったので、身を翻し右側の路地に逃げこんだ。

「今ハイエストが曲がった路地はコの字型に曲がっていて、先程アルフォンス君を待たせた丁字路とつながっているの。
待ち伏せに気をつけて。

追い詰めわよ!」

「流石中尉!
了ー解っ!」

エドとリザが右の路地に滑り込む!

地理に詳しいハイエストは、二人を相手にするより、体力が尽きた鎧の大男を相手したほうが楽だと思ったのか、待ち伏せはなく、まっすぐ路地を走っていく。

両脇は硬い煉瓦が塞ぎ、足元がほとんど見えない。

たまになんだかわからないものを踏んずけてみたりしながら、角を何回か曲がり、やっとハイエストの先に例の丁字路が見えた。

アルもハイエストに気付き、身構えている。

「青き鉄を身に纏いし方!おどきなさい!」

「アルー!逃がすな!」

ハイエストが包丁を振りかぶり、アルにせまる。

「おどきにならないと、命を絶ちますよ!」

「やれるものならね!」

ハイエストは一気に踏み込むと、一瞬にしてアルの懐に入り込み、アルの脇腹の革のベルトで保護されている部分に刃を突き立てた。

「うぐぅっ!

…なーんてね!」

「なっ!?」

アルはその大きな両手で、壁にあらかじめ書いておいた錬成陣に触れる。

錬成光が瞬き、驚愕しているハイエストを閉じ込めるために左右の壁から細いこうしが伸び、あっという間に捕獲してしまった。。

アルは鎧に突き立てられた包丁を引き抜く。

「一丁あがり!」

「アル!ナイス!」

細い通路の奥から、エドとリザもおいついた。

「ぐぅぅっ!
このオリを開けなさい!」

ハイエストが悔しそうに、アルが錬成したオリをがたがたと揺らすが、びくともしない。

「深淵の女神!闇の女王!
哀れな私めを、貴女様のしもべをお助けください!」

ハイエストが路地から見える細い空を仰ぎ叫んだ。
だが、ハイエストの悲痛な叫びは、路地に虚しく響いただけであった。

「あんたの女神様は助けにこないみたいだな」

「あああぁぁぁあっ!
漆黒の天使!
お願いします、お助けください、私は、まだ貴女様にお仕えできます!

黒百合の母よ!私めを、お捨てにならないで!」

ハイエストが狂ったように叫ぶが、声は届くべき者には聞こえないようだった。

泣き叫ぶハイエストに一瞥をくれたリザは、エドに向き直った。

「先程の通路を左側に行ったところに電話ボックスがあるはずだから、そこから連絡をとりましょう。
アルフォンス君はこいつを見張っていてちょうだい。」

「解りました。」

いまだに暴れて逃げ出そうとするハイエストをアルに任せ、エドとリザは左側の路地の先にでた。

出たところは、また街灯がある通りで、すぐ近くに確かに電話ボックスがあった。

リザがを素早く軍の専用番号を入力すると、すぐにウィルファット司令部の通信室に繋がる。

「こちら、マスタング大佐付き補佐のホークアイです。
D1188の電話ボックス付近で、連続殺人犯と思われる男性を確保。
至急応援をお願いします。
…え?

マスタング大佐ですか?
いえ、我々とはご一緒されておりませんが……。


……なんですって?」


リザの表情がすっと険しくなった。
エドはその様を見てしまい、ギクリと身を震わせた。
「中尉、どうかしたのか?」
エドが怖ず怖ずとリザに声をかけるが、リザはハイエストを捕らえるための手配が終わるまで、エドの方に振り向かなかった。

ようやく、リザが受話器を置いたので、エドはもう一度リザに声をかけた。

「中尉、何かあったのかよ?」

リザがゆっくりエドを見た。その顔色は見るからに悪い。

「中尉?」

「マスタング大佐が…」

「大佐が?」

「激しい出血をともなう怪我をしたまま、行方不明らしいわ。
生死は不明よ。」



クリムゾン†レーキ⑧に
続く
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