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クリムゾン†レーキ

…5、街に夕闇が迫る頃



「てめぇは…!」
エドは目の前に立った男に向けて眉間にシワを寄せた。
白衣を着た、金髪で眼鏡の大男、その名は

「ホーエンハイム!!
なんでてめぇが、ここにいやがんだ!!」
「ええ!この人が!?」

エドの言葉にアルが叫んだ。
一方のホーエンハイムは、キョトンとして、二人を見ていた。
そして…

「そういえば、俺の鎧コレクション!」
「違う!」

エドとアルが同時に突っ込んだ。
ホーエンハイムは二人をまじまじ観察すると、首を捻る。
だいたい観察し終えてからもまだ思いつかないのか、また二人に視線を一巡させた。
そして、納得するようにポンッと手を打ち合わせてから、口を開いた。


「…どこかで会いました?」「「息子だぁぁぁっ!!」」


ツッコミとともに、二人の掬い上げるようなダブルアッパーカットがもののみごとにホーエンハイムの顎に炸裂していた。

    ☆☆★★

ロイは、エルビウムの言葉に眉をひそめた。

「では、貴女は自分が襲われた動機に思い当たるところがあるのですね?」

エルビウムの小さな動作さえ逃すまいとロイの瞳が輝いた。
しかしそれでいて、物腰はきわめて穏やかなままだ。

エルビウムは遠慮がちに頷く。

「私の思いすごしなのかもしれません。
ですが、私には、襲われる理由がそれしか思い当たらないのです。」

「なるほど、ではその理由をお話ください。
どんなにささいな事でも構いません。」

エルビウムの横へリザが持ってきた椅子に、ロイは腰掛けた。
手帳を懐から取り出して開く。
ロイがペンを構えたのを見ると、エルビウムは口を開いた。

「お話するまえに一つ確かめたいのですが、もしかして襲われている人間は旧家の人物だけでしょうか?」

ロイは答えず、エルビウムに問い返した。

「何故そうお考えに?」

「旧家の血筋に隠されたものを狙った犯行かもしれないので、お尋ねしました。」

ロイはエルビウムに、一瞬の間を開いて答えた。

「…実のところ、身元が正解に割り出せていないのが現状です。
貴方の他の被害者たちは、みな生かわを剥ぎ取られ、身元不明なのです。」

エルビウムはロイの言葉に顔を青ざめさせた。

「そう、でしたか、でしたらやはり、私の予想は当たっているのかもしれません。」

エルビウムは努めて冷静に、言葉を紡いだ。

「私の予想を話すには、まずこのウィルファットのなりたちをご説明しなければなりません。

このウィルファットはご存知だと思いますが、生体錬金術師であらせられたディアス・ウィルファード様が作った街です。
ウィルファード様はとても生体錬金術に明るい方で、街を興す前は、国の中心で研究をしていたほどの実力をお持ちだったといいます。

我々、旧家と言われる家は、そのウィルファード様とともに街を立てるお手伝いをさせていただいたそうです。」

「なるほど、街が旧家は出来た頃からからいたのですね。
私はこの土地の人間ではないが、この城が何故こうして病院になっているのかは知っています。
さぞや領主は賢明な人物だったのでしょう。」

エルビウムは遠慮がちに頷いた。

「確かに、ウィルファード様はすばらしい方だったらしいです。
怪我人を無償で治療されていたそうですから。

ウィルファード様は街が軌道にのると、側近として働いた我々旧家の祖先である三人に、それぞれ自分の子供を嫁がせ、子々孫々街を守るよう、おっしゃられたそうです。
ですから、今ある旧家はすべて、ウィルファード様の血を継いだ子孫にあたるのです。

そして街を守る事と同時に、ウィルファード様から命じられた不思議な伝統が、我々旧家にはあるのです。」

エルビウム話していくごとに、だんだんと俯きがちになる。
ロイはしっかりと彼女の行動を観察しながら、尋ねた。

「その伝統とは?」

「はい。
血の繋がった子孫は、必ず死後三日後に葬儀をあげるようにと、その三日間は、決して死者を見てはいけない。
そういった伝統があるのです。」

    ★☆★★


「やっとぶん殴れたぜ。」
「ちょっと一発だけじゃおさまらなかったけどねー」

オートメイルに手袋を嵌めるエドと、何か心もちすっきりしたようなアルが見下ろして踏み付けているのは、例のホーエンハイムであった。

ホーエンハイムは、二人に気が済むまで殴る蹴るの暴行を加えられたらしく、汚れて服はよれよれになり、だいぶ悲惨な出で立ちで廊下に倒れ、エドのお立ち台になっている。

「久しぶりの再開に、ちょっと冗談を言ってみただけじゃないか、エドワード」

「うるせぇ!
冗談なら余計に悪い!!タイミング最悪だっつーの!」

思いっきりホーエンハイムの頭に蹴りをいれるエドは、まだまだ怒りがおさまらないようだ。

「ちっ!この分じゃちょっとやそっとじゃくたばりそーにねぇな。
あのオッサン、ほら吹きやがったな?」
「とゆーか、僕達が止めさしそうな感じだよね、兄さん。」

もう一度ホーエンハイムに蹴りを入れてから、エドはホーエンハイムの背中から降りた。

「オッサン?ほら吹き?なんのことだ?」

ホーエンハイムがむっくり起き上がりながら、きいてきた。

「てめぇじゃねーよ!
北の方の街で会った星占術師だっていうオッサンが、てめぇが死にそうだって占ったんだ!」

「なんだエドワード、おまえ錬金術師のくせに、占いなんか信じてるのか?」

ホーエンハイムに呆れたように言われて、エドはまたもやプチキレた。

「んだごらぁぁぁあ、信じてねーよ!
この昼行灯(あんどん)野郎!!」

エドはオートメイルの足で、起き上がったホーエンハイムの股間に思いっきり蹴りを加えた。

「~~~~っ!!!」

流石のホーエンハイムも白目むいて、廊下に倒れふした。

「うわぁ、悲惨」

思わず同情のつぶやきを漏らしたアルも、何となく内股になってしまう。

「けっ!転がってろ!」

エドは吐き捨てるように悪態をつくと、ぷいっとそっぽ向いてしまった。

エドがのたうちまわるホーエンハイムを冷めた目で見ていると、エドとアルが背にしていた扉が開いた。

「鋼の、どうした?」
「あ、大佐。」

病室から出てきたロイが、廊下の惨状を見て、唖然としながらエドに聞いた。

「ん、別にぃ~。
不振者かたずけるのが命令だろ?気にすんな。
それよりも、証言はとれたのか?」

エドが首だけ振り返らせて逆にロイに聞いた。
ロイは眉間にシワを寄せ、苦い表情だ。

「もちろん、証言はとれた。しかも、かなり重大な内用でな。
カーバンクル准佐にも伝えなければならん。
車に戻るぞ。」

ロイはホーエンハイムにちらっと視線を向けて何かいいたげだったが、エドが問答無用で蹴り飛ばしている様を見てため息をついただけだった。

「あまり、余計な仕事を増やしてくれるなよ」

「こいつについては、これが正しい行動だ!」
「大丈夫ですよ。いいんです、これで」

エドとアルがほぼ同時に言った。

「…まぁ、アルフォンス君までそういうのなら…」

「なんで俺じゃなくてアルの意見尊重すんだよ!」

「もちろん、アルフォンス君の方がこのような事について信用があるからだよ」

「んだとごらぁぁあっ」

と、いうことで、ホーエンハイムはそのまま廊下にほったらかしにされた。

四人が立ち去ってからしばらくして、ホーエンハイムは身を起こし、体についたゴミを払い、居住まいを正した。
ゆっくり眼鏡をかけ直しながら、ぽつりと呟く。


「星占術師のオッサン…か」

その瞳は鋭い光を放っていた。



クリムゾン†レーキ⑥に
続く
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