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クリムゾン†レーキ

…2、車中の出会い



「暇だぁぁ、俺の時間が失われていくー」

ぶすっとしたエドが列車の窓に寄り掛かり、文句をたれていた。

男と別れた二人は、最寄駅から早速列車に乗り込んでイーストシティを目指したのだが…

田舎列車なので車内には他に客もおらず、なにもない駅でかれこれ20分、交換で待たされていた。

「なぁんでこんなに待たされんだよぉー。暇だぁぁ。
あーあ、レポート改ざんしてあることないこと書いちまおうか」

「兄さんてばぁ」

アルがやれやれと、ため息をついた(ようなそぶりをした)

そんな所に交換の列車が、人気のないホームに滑りこんできた。

「あ、ほら兄さん、交換の列車きたよ。
もうすぐ発車だよ。」

ホームを挟んで反対側に止まった汽車から、何人か降りていくのが見える。

どうやら入ってきた汽車とこちらでは線が違うらしく、こちらに乗り換えてくる人も何人かいるようだ。

「乗り換えがすんでからだろ?
田舎列車がすぐに出発なんかするかよ」

むすっとしたエドがため息をつく。

やがてホームに人がいなくなるとやっと警笛が鳴り、エド達が乗った列車が動きだした。

「やっと出発だね」

「そうだな」

エドはゆっくり遠ざかるホームを何となく見送っていた。

ぼーっとしていると、前の方の車両と繋がっているドアが開いた。

「ふむ、こちらの車両なら人気はなさそうだな」

「そうですね」

入ってきたのは黒髪の男性と金髪の女性で、二人には見覚えのある顔だった。

「大佐!」

思わず声を上げたのはアルだった。

「!
アルフォンス君!
何故君がここに。

…鋼のは一緒かね?」

黒髪の男性、ロイ・マスタング大佐は、驚いたように目を丸くして、続いてエドの姿が見えないと、周りを見渡した。

「だぁぁれが、席の背もたれより背が小さい幼稚園児かぁぁっ!」

「おや、そこにいたのか鋼の。

そうかそうか、君にも自覚があったのだね」

「んだと、ごらぁぁあっ!」

「落ち着いて兄さん!」

兄を鎮めようとするアルと今にも飛び掛かりそうなエドを見て、ロイはクックと笑う。

そんな様子の上官を見て、金髪の女性、リザ・ホークアイはため息をついた。

ロイとリザはエド達が使っている席と通路を挟んだ席に座る。

むすっと膨れっ面のエドと、飛び掛かるんじゃないかと心配しているアルを見ながらロイは口を開いた。

「しかしまぁ、偶然とは怖いものだ。
君達にも連絡をいれて手伝って貰おうかと思っていた矢先だったからな。」

「んだよ。
ただたんに中尉とデートしてたんじゃねーの?」

「女性とのデートに誰がこんな辺鄙な場所を選ぶか。
仕事だよ。
先の駐屯地に用があったんだが、その足で事件現場に行く事になってね。

ここで乗合ったのも何かの縁だ。協力要請させてもらうよ鋼の。」

ロイはニヤリと笑ってエドを見た。

「ちぇーっ、まぁいいや、こっちも大佐に頼もうと思ってた事があるから、等価交換だ」

エドはますます膨れっ面になりながらそっぽを向いた。

「まぁ、そんなに膨れるな。
君の頼み事か…嫌な予感しかしないが…まぁいい。

なんにしろこの事件は最初から君達に教えようと思っていたんだかね。」

「なんでまた?」

エドが該当が思い当たらないという顔をした。

「君達のヒントになりそうな情報があったら教えると言っただろう。

ヒューズから連絡があってな。
今から向かう街で起きている事件は、君が第五研究所でであった人物が関わっている可能性ががある。」

ロイの言葉にエドがぴくっと反応した。

「どういう事だ?」

「君が第五研究所であった、黒髪の女性とよく似た人物が、事件現場の近くで目撃されているらしい。

気になる情報だろう?」

そういうとロイは口角を上げる。

「け、どーせ人違いなんじゃねーの?
よく似てましたってだけでよ」

「だが、もし本物だとしたら…どうする。」

「……、
どーせそうやって俺達利用して早く解決しようって魂胆なんだろ。
しょーがないから聞いてやる。
どんな事件なんだ?」

エドが質問するとロイが手を少し挙げ、リザが説明を請け負う。

「場所は東方と北方の境目に近いウィルファットと言う街ね。

こちらの地方ではだいぶ開けた街で、めずらしい医療錬成の病院があるわ。

そのウィルファットで最近連続殺人が起きているの。
犠牲者は殺された後、揃って全身の生皮を剥かれている為、身元が割れなくて困っているわ。」

人体組織のイメージをありあり想像したのか、エドがちょっと引いた。

「うえぇ~、人の皮なんかどーすんだかぁ~。」

「うーん、移植とか?」

「移植でも全身を連続で引っぺがす必要なんかないだろ。
ブラック・ジャックじゃあるまいし」

「君、よくそんなネタ知ってるね…」

二人の掛け合いに呆れてロイがつぶやく。

「今、被害者が6人でそのうち殺害された人数は5人。
一人だけ生存者がいて、現在入院中よ」

「あ、そうなんだ。
じゃあ襲われた時の証言がとれたんだな?」

「いいや、今の所昏睡していてね。
とても証言がとれる状態ではないらしい。

軍がどんなに警備を厳重にしていても、決まって街のどこかで三日ごとに殺人がおこる。
ならば街はどうしたって閑散となるし、市民の軍への不満は積もるばかりだ。


地方では打つ手がなくなって、一刻も早い解決をと私の所に話がきたのだよ。」

「へー、マスタング大佐さまさまってわけか。
ふぅーん」

まるで気のない返事にロイがちょっとむっとした。

「しかし、それじゃ、あの女が係わってるかもっていう証言はどこから来てんだ?」

「うむ、その話は別件の捜査で明らかになった情報でな。

ウィルファットで起きたひき逃げの犯人がセントラルで捕まったんだが。

証言によるとそやつは、夜間に街灯に照らされた血まみれの刃物を持った男と黒髪で怪しげな女性に気をとられ、別の人物を轢いてしまったらしい」

「うーん、確かに気をとられてもしょうがない気もしないでもねぇなー」

「軍に知らせようにも、漏らせばひき逃げが発覚してしまうからな。
捕まるまで外に漏れなかった情報とのことだ。
信憑性は高い。」

「なるほど。」

そうこう言っているうちに、列車は山の木々の中からだんだんと開けた土地に入っていく。

ウィルファットがだんだんと近くなるにつれて、エドはなんとなく嫌な予感がしてならなかった。

…なんだ?なんか俺の勘がざわついてやがる。

「どうしたの?兄さん」

「…いや……、何でもない」

いくつか駅を通りすぎ(駅と駅の間隔がかなり長い為、近くはない)、遠くに丘に造られた街が見えてきた。
丘のてっぺんには石造りの城のような建物が見える。

ロイが窓ごしに、その街を指さした。

「見たまえ、鋼の。
あれが噂の目的地、

ウィルファットだ」



クリムゾン†レーキ③に
続く
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