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黒の聖域

何はともあれ、アエルゴ側の思惑は文字通り空中分解し、アメストリスとアメリカ側の勝利でこの戦いの幕は閉じた。
だが、だからといって、このまま帰る訳にはいかないのが悲しい所。
静かになった湖面に、戦闘機の残骸をほうり出したままにするわけにはいかないのだ。漏洩していたとは言え、これは立派なアメストリスの国家機密なのだから。
倒れたロイはとっとと病院送りになり、あちこちやられたアメリカ軍艦は撤退したが、残されたミラージュは破片の撤去に追われていた。
エドワードとラッセルが甲板に錬成したクレーンで、横付けした船に破片を回収していく。

「植物の蔓で破片が飛び散らない様にしたのは画期的だったな。」
自画自賛しながらラッセルはクレーンを動かす。
「最初に種渡したのは俺だぜ?」
エドワードが横で他の操作をしながら、ラッセルに横槍をいれた。
ちょうど二人は、シディウスの戦闘機を回収していた。
粗造りのクレーンはギィギィいいながら、今だ蔓でがんじがらめの戦闘機を引き上げた。
大量の水が流れ、滝の様に湖面に落ちた。
「うーっし、オーライオーライ。」
エドワードがいいながらクレーンを操作し、目の前を横切らせた時だった。
「まってたよぉ[DX:E72A][DX:E727]
この時を[DX:E71F][D:63913]」
崩れ落ちた操縦席から、ボロボロのシディウスがエドワードとラッセル目掛けて飛び乗ってきたのだ!
「あいつ!?」
「生きていたのか!?」
逃げようにも二人は手が離せる状態ではない!
「死にな[D:63913]」
シディウスの手には拳銃が握られていた。
「ー!」
エドワードとラッセルは体を貫く弾丸を予感し、身を強張らせる。

「させるかッ!」

横手からの声と共に、銀色の光がシディウスの手に突き刺さる。
「う、わあぁぁあっっ[DX:E757][DX:E73F]」悲鳴を響かせ、バランスを崩し真っ逆さまにシディウスは湖面に墜落していった。

「あの時の借り、キッチリ返してもらったぞ。」

エドワードとラッセルが振り向けば、そこに声の主が立っていた。
「チャート研究員!無事だったのか!?」
「えぇ、無事とは言い切れませんが生きてますよ。」
疲れた笑みを浮かべ、チャートはその場に座りこんだ。
「なんとかコイツで脱出してきましたよ。上手くいくかは賭けでしたが。」
と、チャートの後ろに横たわる特大不発弾を指差した。ちょうど人一人分ぐらいのハッチが開いていた。

★★★

アメリカ軍艦は思ったより損傷が酷く、怪我人もでた。
後一日で突貫工事の応急処置をすませる。

えぇ、これだけ解って下されば充分です。

★★★

夕日が南方軍病院の、特別診察室に差し込んでいた。

「ぶはぁぁぁっ!」
ダイナミックに踏ん反り返りながら、リラックスした面持ちでエドワードはロイのベッドの前の椅子にもたれ掛かった。
「相変わらずね。エドワード君。あら、もう君なんて呼ぶ歳じゃなかったわね。」
くすくすと笑うリザが、エドワードとはベッドごしの椅子に腰掛けていた。
「君ね。
いい加減(作者も)歳を弁えたまえよ。
いい大人が。」
ベッドに横たわるロイが呆れ果てながら、ため息をついた。
「だってよ!
聞きたい事やら言いたい事やら、いろいろあってわざわざ無理言ってラッセルに運転手頼んだのに。
とうの大佐はけっこうピンピンしてんだもんな!
ため息ぐらいつくだろ!」
「おや、それは特殊な。
君が私を心配してくれるなんてね。」
「だぁれが、大佐の心配なんざするかよ。
俺は、例の核反応錬成を聴きに来たんだ。
後、中尉の事もな。」
それを聞いてロイは以外だという顔をした。
「フム。君の事だから既にあれが何だったのか全て解っているかと思っておったが…。
リザの事は私も知りたいな」と、自分の妻にちらっと視線を向けた。
「まぁ、君は核反応と呼んでいたあれは、言わばこちらの世界の錬成光の最たる物と言えばよいかな?
元素の構成に手を加え、性質が似た物を作り出すのがこの世界の錬金術だ。
空気中の酸素、炭素、窒素、と湖面の水分を全て水素に錬成しそこで水素核分裂を起こした。
だがそれだけでは尋常ではない被害が出るからな。
ある一定の空間を仕切り、こちらに影響がないようにした。
平たく言えばそれだけだな。君も解っていただろうに。」
エドワードはロイのベッドに身を乗り出して、その襟首を掴んだ。
「だいたいは、解ってたよ!
その危険性もなっ!
一歩間違えてたらみんな無くなってたんだぞ!」
「解っておったよ。
覚悟もあった。」

「違う!
本当に覚悟があるんだったら、あんな錬成しないはずだ!」

エドワードはロイの襟首を放した。
「あんたの錬成見た時、怖くて怖くて堪らなかったよ。
今、あっちの世界で、その原理で大量破壊兵器を作ろうとしてんのを、俺とアルで追ってんだ。
こっちのウラニウムの原理が向こうに影響を与えてな。
俺達でカタを付けようとしてんだ。
もう、使うな大佐。

…頼むから!」

エドワードの剣幕に、ロイも真剣に頷いた。
「解っている。
私とて、これを公表するつもりはさらさらない。
約束する。」
ロイの言葉に、エドワードは少し表情を和らげた。
「さて、そちらのお話が済んだようですので、今度は私がお話しましょうか。」
エドワードとロイの話しの切りのいい所で、二人にリザが声をかけた。
「私がどうしてここにいるのか、気になっているでしょうから。」
「そうだよ中尉!
大怪我したって、平気なのか?」
エドワードの言葉に、リザは笑って話し始めた。
「確かに、私は大怪我をして意識不明ということになり、グラマン将軍(東のじっちゃん将軍)に匿われていたわ。
目覚めたのは、つい先日。
ちょうどエドワード君が、帰ってきた日だったの。
本当にきっかけはエドワード君だったのかも知れないわね。
でも、すぐには動けなくて、今日やっとこうして顔を出す事ができたの。
会う事が出来て本当に嬉しいわ。」

運命を正すために。
持ち込まれた、時代の超越を無くすために。
その超越で起こった事を最小限にするために。
「俺達…いや、俺が呼ばれたのか?」

「ラッセル君の弟のフレッチャー君も順調に回復に向かっているわ。もう安心よ。」
エドワードは笑って頷いた。
「ありがとう中尉。
後は中尉と大佐がサラと家族になれば大団円だな。」
「それはこれから時間をかけてやっていくよ。
大丈夫。心配いらん。」
ロイが笑ってエドワードに頷いた。
「よかった。
じゃあもう思い残す事はないな。
きっともう、帰って来る事はないだろうからさ。」
「これからのアメストリスは任せろ。必ず戦のない、豊かな国を作ってやる。」
エドワードとロイは互いに拳を出して小突いた。
「さて、今日は戦勝祝いだ。
なかなか派手に打ち上げをするから、鋼のも混ざって来るといい。
もちろん、アメリカ軍艦の方々もな。
私も行きたい所だが、次に抜け出したらベッドに磔けにすると軍医殿が言っておるから、ちょっと無理なのだがね。」

そう笑ってロイがエドワードを送りだした。

エドワードも笑ってラッセルが待つ車に走って行った。
ロイは傍らのリザを見上げた。

「…リザは行かんのか」
「私は…今しばらく、ここにおります。」
「…そうか。ありがとう。」

ロイはすっと、リザの頬に手を伸ばした。

いつかの様に。

「世界は常に不完全だ。
だからこそ、不思議で…

 美しい。」

不透明な世界に、夕日のかけらが輝いた。

ラストスパート24
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