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黒の聖域


っぎしっ

機体が悲鳴を上げた。
銀色の針が、キラキラと機体の回りを静かに舞う。

「なんて綺麗なんだろうねぇ。」

そのうちの何本かが機体に突き刺さる。するとそこから、あっという間に凍りつく。
エルシェの機体は一体の氷像と化し、今まさに墜落しようとしていた。

「ふふ、あんたみたいな男は好きさ…。力が全てと姿で語ってくれるからねぇ。
そんな奴に、やられるのも悪くないね。」

エルシェは笑った。
アームストロングと、エルシェは一瞬目が合う。
「強かったよ。あんた」
ニヤリと悪戯に。
後は湖面がせまるだけ。

★★★

っズシャゴォォオン

湖の波間を紅蓮の焔が、舞い散った。
氷山に避難していたフォーライフとアームストロングは、対峙していた戦闘機の最後を見届けた。
「ようやく一機、機翼艦倒せましたね」
フォーライフはへばり付いていた氷塊から身を起こした。
「うむ。しかし、まだまだ油断は禁物。後二機を仕留めるまでは…な。
ハボック将軍の方に加勢すかるか。」
「あのアームストロング議員。お言葉なのですが…」
「うん?」
「さっき自爆してしまったので、脚がありません。」
「…うぬぅ」

………ざざぁぁん

波の音が虚しく響いた。

★★★

グゴァァンッ

バジリコックとブレーカーの戦闘機の間の空間が、烈火の焔をあげて爆砕した。
バジリコックの主砲と戦闘機の機関銃の一斉射撃が、真っ向からぶつかった結果だった。
ハボックは、ブリッジの窓一杯に広がった紅を、あんぐりと見上げていた。
「さ、最後の一発が…
相打ちだとぉぉっ!?」
さすがに青くなったハボックは、頭を抱えた。

ーこ、これじゃ、手も足もでねぇぞ!?まずい!マズすぎる!!

ハボックは自棄になって叫んだ。

「でぇぇいっ!怯むな!
機翼艦狙え!沈まなけりゃ、負けじゃねぇんだ!」
指差し叫ぶハボックに、他の兵達も顔を上げ、再び機翼艦を睨む。
しかし、打つ手が無いのは変わらない。
「うぐーっ
他の所は何してる!?」
ハボックはくるし紛れに、レーダー係に問う。
「アメリカ軍艦はアエルゴ空母に接近!
鋼の錬金術師はミラージュと機翼艦に対峙!
アームストロング議員は機翼艦を撃墜!しかし、船がないので身動きが取れないようです!」
「第二艦艇を向かわせろ!救助したらこっち手伝って貰う!皆!それまで持ちこたえてくれ!」
ハボックはそういって、はっとした。
ブリッジのフロント一杯に戦闘機が迫っていたのだ。
機関銃が、疑いようがないほどはっきりと、自分達を狙っている。
「ーっ!」
ブリッジ全員が息を飲む。

ー殺られるっ!ー

ハボックは叫ぶ。
「来るならきやがれ!」

★★★

エドワードは、シディウスの戦闘機に、戦艦ミラージュと接近していた。
「羽虫みたいに飛び回りやがって!
これでも喰らえぃ!」
エドワードは両手を合わせ、壁の計器がない場所を触る。すると錬成光が爆ぜ、甲板に対空砲が生える。
エドワードは、触れた場所から生えたレバーを力いっぱい引いた!

どんっ!

鈍い衝撃が船体を震わせ、砲弾が戦闘機に向かって吹っ飛んでいく!
しかし、戦闘機は軽々避けると、エドワードに向かって掃射してきた。
このタイミングでは避けられない!
舵を握るエドワードの目の前の硝子が砕け散る!
エドワードが操舵していた船は一瞬に蜂の巣になり、一拍置いて爆発四散してしまったのだった。

★★★

流石に、死ぬなぁーと、ハボック将軍は心のなかで呟いていた。
まぁ、軍人なったんだから、ベッドの上じゃ死ねないと思ってはいたが、せめて嫁さんと子供達に会いたかったなぁ。
閣下すんません。
ハボックは、ロイに詫びてから目を閉じた。

ーごぐぁぁんっ!

近くで爆発する音が聞こえた。
あぁ、エンジンでも吹っ飛んだかなぁ。本当に一貫の終わりだぁ。
暢気に考えていたハボックだったが、何かおかしい。

なんで機関銃はこっち狙ってたのに、エンジンが爆発すんだ?
まだ俺、撃たれてねぇぞ?さもなくば、痛ぇと思う間もなく死んだか?

ハボックは恐る恐る目を開く。
回りの兵が、わっと歓声を上げた。
見ると戦闘機がよたよたと煙りを上げて飛んでいく。アームストロング議員が、間に合ったのか?
いぶかしがるハボックの問いに答えるかのように、ブリッジに無線の声が響き渡った。

『何をやっておる!
死ぬ気か馬鹿者!!』

紛れも無いロイ・マスタング元帥閣下の声だった。
「閣下ぁっ!?
絶対安静の人が、なぁにやってんすか!?」
『ハボック。絶体絶命の人間に言われたくはないな。
命の恩人だぞ?』
ロイの声は笑っている。
いつもとなんらの違いもない。
『私は今、第二艦艇でアームストロング議員とそちらに接近している所だ。』
「し、仕事早いっすね。」
『兵は迅速をもってよしとす。基本だぞハボック将軍』
笑いながら言っているであろう顔が、ハボックには容易に想像できた。
『一気に攻めるぞ!
ハボック援護しろ!』
「へい!」

★★★

「エド!大丈夫か!?」
「ぐへぇ、なんとかぁ」
エドワードは体を蔓草でがんじがらめにされ、水面から引き上げられた。
間一髪ラッセルの錬成した植物が、エドワードを救出していたのだ。
「上品に、とはいかなかったけど助かったぜ。」
噎せながら礼を言って、エドワードは甲板によじ登った。
エドワードが乗っていた船は湖面で焔をあげて燃え上がっている。
シディウスの戦闘機は空中で旋回し、ミラージュに相対するべく体制を整えていた。
「野郎、この船と戦う気になったらしいな。
ラッセル!案内してくれ!」
「あぁ!こっちだ急げ!」
ラッセルはエドワードに来る様に手で促すと、甲板を横切り、ハッチから艦内に入った。二人を追い掛ける様に、銃声が装甲を叩く。
「ブリッジはこっちなんだが。
エドには、大砲であいつを狙って欲しい。
俺の部下が案内するから、そこで錬成してくれ。
チャンスは俺達が作ってやる。」
ラッセルが振り返ると、そこには一人の軍人が敬礼していた。
エドワードはその人物を確認すると、ニヤリと笑って頷いた。
「わかった。
奴のドテッパラに一発やってやるぜ。」
ラッセルも、任せたとばかりに笑顔で答え、懐から小型の無線をとりだした。
イヤホンマイク型の最新型だ。
「これを持ってけ。
俺も同じ物を付けてるから、連絡があったら呼びかけてくれ。」
エドワードをそれを受け取ると、素早く装置し、案内の軍人と一緒に、狭い通路を駆け出した。
ラッセルも通路を駆けていく。姿が見えなくなった辺りで、ラッセルから無線が入った。
『エド聞こえるか?』
「あぁ、良好だ。
これ、スゲー無線だな。」
『フュリー大佐の最新作さ。』
エドワードは、走りながらははっと笑った。
「やっぱりなぁ。」

★★★

アメリカ軍艦は、アエルゴ空母との距離を回り込みながら詰めていく。
ブリッジで指揮をとるウォーターガーデン艦長は、仁王立ちで中央に陣取っていた。
「射程距離に入り次第、主砲を撃ち込んでやれ!
先手を打て!
チャート研究員の弔い合戦だ」



もう21世紀だね
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