黒の聖域
島にたどり着いたエドワードは、一路アメストリス軍の監視下に置かれっぱなしのアメリカ戦艦へ向かった。
戦艦は、エドワードとチャートがサラを連れて出かけたままの姿でそこに停泊していた。
エドワードは迷わず桟橋を渡り、そのまま一直線にウォーターガーデン艦長の部屋に向かう。
伝令が届く前にたどり着いたので、艦長はぎょっとしていきなりあらわれたエドワードを見上げていた。
「エドワード・エルリック只今帰還いたしました!」
エドワードはキリッと敬礼し、ウォーターガーデン艦長が口を挟む前にはっきり言い放った。
「チャート研究員は、敵国に捕縛された模様。自分のみでは救出不可能と判断し、撤退。
アメストリス国軍の協力要請状も承って参りました。」
エドワードは予め考えておいた事をウォーターガーデン艦長に言い放った。
「何!?チャート研究員が」
艦長は身を乗り出してエドワードを見た。エドワードは一つ頷いてから続ける。
「はい。作戦自体は上手くいったのですが、チャート研究員は我々と逸れてしまうまして…。」
残念そうにウォーターガーデンの前で苦い顔をするエドワード。
「チャート研究員は極秘の研究員の一人。情報流出はなんとしてでも食い止めなければならぬ!
アメストリス国軍からの要請状があればこちらのもの!
ふっふっふ!見ておれ!全艦につぐ!一時間後に出撃する!各員戦闘配備!」
途端に立ち上がり、全艦命令を通達しだしたウォーターガーデンにエドワードはぎょっとして慌てて止めに入った。
「艦長!いっくらなんでも急ぎすぎだろ!?
アメストリス側との連携なしじゃいくらなんでも無理だろう!!」
「しかし、一刻の有余も我々にはないのだぞ!」
ウォーターガーデンは押さえるエドワードをにらみつけた。
「まだ一週間は経っていないだろう!?まだ時間はありますよ!」
「そんなことでは、ない!
我々の存亡の危機だ!」
「…存亡の危機!?」
エドワードは眉を寄せた。
ウォーターガーデンはしがみつくエドワードをそのままに叫んだ。
「これを打っておる作者が、説明文の大幅カットを考えておるのだ!!
アメリカ側の出番がかなり削られてしまうのだぞ!」
「…!?
いや、俺は主役だから関係ないし!?」
「む。これだから主人公は…っ!
しかし、我われの出番がなくなると言う事は、それだけ最低限の説明が主役級のキャラに回されるということだぞ。」
「う、たしかにめんどくさいかも…」
エドワードは嫌な汗が背中を伝っていくのをはっきりと感じた…。
「し、しかし、流石に船員達に事情を説明しないと!」
「うむ。たしかに。では皆を甲板に集め、状況の説明、今後の作戦を君から説明してくれ。
出来るだけ、手短に…な。」
十五分後、アメリカ軍艦の甲板は船員と研究員で埋め尽くされていた。
エドワードはそこでチャート研究員がアメストリス国軍と敵対するアエルゴに捕縛されたこと。そのことで、アメストリス国軍と共通の敵ができたこと。
そして、要請が来ていると説明した。
「我々の力を、アエルゴとやらに見せ付けてやるのだ!」
『おおぉ!!』
ウォーターガーデン艦長に合わせ、アメリカ軍艦の船員が鬨の声をあげた。
と、エドワードの頭の上を影が掠める。
「あれはっ!!」
船員の誰かが頭上を指差した。
それはエドワード達の船の上空を旋回すると、何かが書かれた紙をばらまいた。
それは、いつかの資格試験の時(アニメ設定ですので)、エドワードが錬成してみせた花びらの様に、盛大に飛び散り、はらはらと舞い落ちた。
甲板にいた誰もが、頭上を横切るそれを指差し、叫ぶ。
「戦闘機だ!」
「完成しちまったのか…」
エドワードは苦々しい思いで、舞い降りてきた、紙を握り潰した。それは、アエルゴからの宣戦布告状だった。
★★★
「何…?アエルゴから、宣戦布告状…だと?」
ベッドに横たわりながら、報告を聞いたロイは、それこそ苦虫をかみつぶした顔をした。
「ちっ!作者め…。台本には、明日の予定であったのに…。勝手に繰り上げおったなっ!」
「いかがいたしましょう?確かに、閣下やアームストロング委員、大将達と役者は揃ってますが、作者のやつ、自分が立てた計算自分で無駄にしてますよ?
説明最低限しかいれないって本気なんでしょうか。」
ハボックは不安を隠しきれない表情でロイを見た。
しかしハボックの期待は裏切られた。
「本気だろうな。
油断は許されん。」
ハボックは、ゴクリと喉を鳴らした。
「ちゃんと話、通じるんすか…っ?」
「うぅむ。
そのために今、こうして我々が会話しているのだろう。
多分、私の読みでは今晩予定されていた鋼のとの打ち合わせや、回想、作戦会議はカット。
はたまたアメリカ軍艦と我が軍は、いつの間にか理解し合う強力な一つの同盟になり、一概になってアエルゴに立ち向かうのだ。」
「そこまでっすか!!??」
ハボックは驚愕のあまり悲鳴を上げるが、それを否定するだけの材料は悲しいかな持ち合わせてはいなかった。
「間違いない…。
私に説明全部押し付けて、ここまで言わしむるのだ。きっとこの次の回で開戦だろう。」
「っそんな!じゃあ、アエルゴがどーなってるとか、あちらさんの幹部が捕まった大将の部下に、あぁんな事やこぉんな事しててピンチっぽくて大変だって説明が入らないんすけど!」
ハボックが早口で反論すると、ロイはビシッとハボックを指差して…
「今、言ったろう。それが作者の狙いだ。」
鋭い目線で言い切った。
ハボックは、はっとして口元を押さえ、
「…勝手に…台詞が口から出ました。」
絶望に討ちひしがられた口調で青ざめた。
「実際、作者は空中戦やりたくてここまで長々打ってきている。こう言ったものは考える時が一番楽しいものだ。
空中戦以降は…ハッキリ言って打つ気力が残っているか、はなはだ怪しいところだ。」
「…それは…!」
「そうならない様に、我々は祈るのみ、だな」
★★★
ここまでのアメストリス側の危惧は、無駄に終わるのか?
アエルゴに連れ去られたチャート君の運命は?
はたまたエドワードは、無事にアメリカに帰る事ができるのか?
そして、空中戦を仕掛けてくるアエルゴに、アメストリスとアメリカ同盟はどうやって立ち向かうのか!
続く18にこうご期待!
☆★☆
説明ばっかり長くなってしまうので、できるだけカットしたらこうなりました。
ちゃんと完結はしますのでご安心ください。